第三十五話 なにも知らん奴ほど性質が悪い ~マジでハジける三秒前!~
闘気。
白の光りを互いに体から発して、構えを取る。
お前の知る真実とはなんだ。その言葉を飲み込んで、ヘイズは走る。キバルトも同じく。
それは一筋の光となって、互いの拳を交差させた。両雄の拳は顔面を捕らえ、炸裂する衝撃波が風となって吹き上げる。
体が泳いだヘイズとキバルトだったが、ヘイズは即座に向き直るとキバルトの腕を絡め取る。しかし、それを狙っていたキバルトは即座に腕を抜き、発光と共に迅雷の一撃を繰り出した。
回し蹴りがヘイズの腹部に突き刺さり、同時に肘がその顔面を狙い打つ。衝撃で弾き飛ばされたヘイズから離れ、自らの武器へ手を伸ばすキバルト。
ヘイズは宙を舞う間に反転し、地を蹴って武器に伸びる手へ一撃を加える。
互いに交差する視線の一瞬で、お互いに武器を拾い直した二人の一撃が絡み合った。
音が轟き光が飛び散り、余りの衝撃に二人の体が後方へ反る。
「ぬうう!」
「おおお!」
その反動を勢いに変えて。
横切りに変えたヘイズと三度の大上段を繰り出したキバルト。それはいつもの彼とは思えぬ、感情的な攻撃だった。
体を前へ進めるヘイズ。この一撃は確実にキバルトの体を両断する。しかし、直後には振り下ろされた刃にヘイズもまた、この世から光となって消えるであろうことを予想した。相打ちでは、意味が無いのだ。
同じく前進するキバルトは、ヘイズの一撃を最小限の威力で受け止める為だろう。こちらの必殺の一撃からかわせることが出来なくても、前に詰めることでこの一撃が致命とならずとも。
キバルトは確実に敵の命を断てる二撃目を選択したのだ。
が、彼らの一撃目は互いの体に触れることなく弾き返される。
青い魔法陣が浮かぶ虚空に、ヘイズは眉を潜め、キバルトは激怒した。
「ザルファロォーッ!
貴様、貴様……この俺が、負けると思っているのか、この俺が……! ええっ!?」
叫ぶその体を黒い霧が包み込む。なおも罵倒を続ける男であったが、周囲を取り囲っていた気配が蠢き、そして、霧が消える頃にはキバルトの姿はなく、代わりに軽薄な笑みを浮かべる別な男が立っていた。
毛皮の帽子に彼らと同じく半裸の男は、首から下げた装飾品をうるさく鳴らしていた。
「初めましてかな? 世界の剣と盾の創設者、偉大なるリーダー・ヘイズさん。俺はザルファロと言う」
「貴様も黒の集団の一人だな」
「ま、兵どもを指揮する立場ではあるかな?」
油断無く剣を構える。
それを鼻で笑い、男は何処からか取り出したコートを羽織る。
ここは日差しが強いなとコートの内側から取り出したサングラスをかけた。この世界では経験多きヘイズですら初めて見る代物だけに、どのような能力があるか分からない。
警戒を解かぬ彼に嘆息しつつ、話があると声のトーンを幾分か下げた。
「簡単な話だ、ヘイズ。俺たちの仲間になっちゃくれねーか? お前一人頷いてくれれば、それがギルドの総意になる。
そうすりゃ俺たちは、一部を除いて、ギルドメンバーに手を出すことはしないと約束しよう」
「寝言は寝て言え糞ったれめ。貴様ら人殺しの手先になって堪るか」
「囀るなよヘイズ。なにも知らん奴ほど性質が悪い。俺たちゃ、この世界を守る為に行動しているんだぜ?」
それこそ寝言だ。
嘲笑するヘイズだったが、なにも知らないとのたまうこの男に、キバルトの口にした真実という言葉が引っかかった。
黒の集団が彼らの所有していない情報を持っている。それは確かだろう。そしてその情報からなにかしらの目的があり、行動しているであろうことも。
それが正否かはまた別の話だ。
「俺らは今、鍵を握っている。この世界そのものの鍵だ。いや、むしろ、鍵が俺たちを選んだのだ。
分かるかヘイズ、ワンダーランドの真理は、俺たちに味方しているんだよ」
「……まさか、〝ワンダーティース〟か……?」
息を呑んだヘイズ。
ワンダーランドの鍵。その言葉が想起させたワンダーティースとは、古くからは現実世界でこのワンダーランドの情報を公開し続けるサイトの管理人、レイトでさえも言及しながら事実は確認できていないという幻の存在だ。
それを、この者らが所有していると言うのか。ヘイズの視線に肩を竦めるザルファロ。
否定も肯定もしない男に、危うく騙される所だと舌打ちする。そう、誰もがトバリのように正直な人間ではないのだ。この男の持つ鍵とやらがなんなのか、それ所か実際にあるかも分からぬそれを真に受ける訳にはいかない。
「どうしてそんなことをこの俺に話す。そこまでして、仲間に抱き込みたいのか?」
よっぽどの戦力不足か腰抜けの集まりだな、黒の集団と言うのは。
相手の出方を見る為の挑発。それをザルファロは退屈そうに欠伸すらして、サングラスを取った。大きな目にヘイズを捉え、おそらくは。そう、おそらくはと言葉を続ける。
「ただの予感だ。だが俺らがいなくなった後は、……ヘイズ、あんたが……」
と、ここで言葉を切るザルファロ。顔をしかめて右の耳をひねると、光の玉が彼の側面に浮かんだ。
「なんだヨギル、今は良い所で」
ザルファロの言いかけた言葉に不穏な空気を感じたヘイズは、彼の話し相手にも聞き耳を立てる。が、それはザルファロにしか聞こえないよう作られているのだろう、彼の返答しか聞こえない。
僅かな問答でザルファロは光の玉を消してしまう。その顔に軽薄な笑みはなく、眉根を寄せた厳しいものとなっていた。
「またな、ヘイズ。急用が出来ちまった」
「またはない。……と、言いたいが……有用な情報が本当にあるならば、なぜ貴様らはそれを共有しようとしない?」
世界を守るというのならば、我らは手を取り合うべきだ。
ヘイズがそう語ることが出来たのも、おそらくは少女の影響か。自らの仲間を殺戮している彼らに対して手を差し伸べるのは、ギルドメンバーから非難を受けることは必至だったろう。
特に彼らのギルドマスターからは。
「情報を出して、だから殺されろ、と言われて、わかりましたなんて納得する奴ぁ、いねえだろ?」
蔑む双眸にヘイズは固い表情で、失せろと言葉を吐く。
肩越しに手を振りながら黒い霧に消えるそれを見つめて、ようやくヘイズは肩の力を抜いた。
〝何か〟が起ころうとしている。黒の集団がわざわざ接触を試みみるほどの〝何か〟が。
それはあのザルファロという男の妄言かも知れない。こちらを陥れる為の罠とも。
その不安は彼を煽り、そして的中する。この日を境に黒の集団の活動は、一気に表面化したのだ。




