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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
お初で秘密のダンジョン探検!
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第二十五話 不粋なマネはそこまでだ! ~ヒーローになりたい少女!~

ご飯回。

美味しそうなご飯の描写が出来る人に憧れます。

 陽の落ちたシート荒野に、新たな人影がふたつ加わった。

 内の一人はフルプレートアーマーと呼ばれる、全身に鋼を身に纏う戦士だ。背は高いとも低いとも言えない所だが、全身の鎧故に見た目の圧力が強く、実物以上に大きく感じてしまう。

 このような格好にこそトバリの持つような大剣は相応しいと思えたが、この者の獲物は意外にも弓であった。身の丈ほどもある――、訳でもなく、現実で弓道部が使用していたものと同程度の大きさだろう。

 しかしワイルドビーストの堅牢な頭蓋骨をも一撃で粉砕する威力を誇ると言うのだ。

 名をダイテツと言い、兜を取った顔は目の下に傷があるものの、気さくに笑う女の顔だった。変身願望でもあるのか、男の振る舞いをするダイテツは、その明るい性格からトバリにはフューを思い起こさせる。

もう一人も女で、ゆったりとしたローブに目が細いせいか殊更優しそうな作りの顔、おっとりとした雰囲気の大人の女性だった。トバリは一目見た時、その豊満な肉体に内面嫉妬していたが、まるで子供に接する母親のような対応を見せられて毒気が抜かれてしまう。

 名はカンナと言い、トバリが初めて言葉を交わした魔術師であった。

 彼女らが揃った所で面々は改めて自己紹介をする。

 戦術士で短剣や小型の弓、長剣と多彩な武器を使用するレイニー。遠近に対応し、敵を駆り立てる役目を多く任されると言う。

 片刃の長剣でフェンシングを取り入れた攻撃を得意とするノノムラは、魔法も扱える万能型だ。意外にもパーティの回復薬として機能しており、おっとりとした雰囲気とそぐわずカンナは攻撃の要であるとのこと。

 そしてこのパーティのリーダーであるヘイズ。カンナと同じく後衛となり遠方から各所の敵を撃ち抜くダイテツを守り、あるいは前衛として位置し、状況に合わせて様々な立ち位置と命令をこなしながらその大剣で盾ともなる男である。

 この初心者支援ギルド、世界の剣と盾は彼の武器から取られた名であり、新たな面子が増える中でも彼が常に一番の実力だとノノムラが補足する。

 それでもトバリの中ではどっかの組織の偉い人、という印象にしかならなかったが。

 正直に言えば、夢の中の登場人物だ。トバリにとってその事実は変わらなく思えたが、今、ここにある楽しさは現実と変わらぬ心地よさがある。

 故にトバリは現実での疑問には触れず、明るい笑顔を五人に見せるのだ。

「初めまして、トバリ・レンジョウです。この世界には一週間ぐらい前から来るようになりました、よろしくお願いします!」

 元気一番。

 少女の自己紹介にダイテツは訝しげに眉を潜めたが、カンナはただただ笑みを浮かべて拍手などしている。

 ギルドメンバーが増えたと純粋に喜んでいるようだったが、入るつもりは一切ないというトバリにショックを受けたのか、まるで子供のように少女の小さな背中にすがりいた。

「ちょっ、……あの……」

「トバリさん、一緒にギルドで楽しく過ごしましょう。皆で楽しく過ごすんですから、きっと楽しいですよ?」

「ふむぐっ!? い、いあ、あたし、初心者支援とか、そういう堅苦しそうなのはちょっと……」

 今正に苦しむその声。巨大な双丘に首をあらぬ方向へと圧迫されながらも、どこか幸せそうに顔を赤く染めているトバリに、ノノムラやレイニーは我らがギルドに入るべきだと勧めた。

 なにも初心者支援を強要するつもりはない。レイニーとしては初心者を保護出来る上に色々とこの世界の指針を教えられるので、自分たちの目的をしっかりと達成していくことになるのだ。リーダーであるヘイズもまた、彼女のことを気に入っているのが勧誘の理由だろう。

 ノノムラもレイニーと同じことを言っていたが、その裏にある真意としては彼女の持つ強力過ぎる武器の間接的な管理と、未だ捨てきれぬスパイではないか、という思いから近く監視できる手元に引き入れたいという考えがあった。

 ダイテツもまたノノムラと同じく、その装備から初心者の振りをしているだけなのでは、という疑念を持っているためかギルド勧誘は行っていない。

 それでもその疑念を口にしないのは、武装も貧弱にすべきが自然のため、思い過ごしかという考えも捨てきれず、といった所だろう。

 また、少女の持つ武器についてはヘイズが固く口外を禁じており真相を知るノノムラはともかくレイニーはなにかしら曰くある代物としか認識していない。

「おい、お前たち。不粋なマネはそこまでだ!」

 鍋が出来たぞとヘイズが満面の笑みで全員に声をかけた。

 待ってましたと手を打ち鳴らすレイニーやノノムラに対し、トバリはカンナの谷間に抱き込まれて硬直したまま、ぎこちない動きで鍋へと近づく。

 土でできた土台に、術式により燃え盛る炎。真っ黒な円柱状の大鍋から蓋代わりの盾を取り除けば、真っ白な湯気と共にえも言われぬ香りが辺りに漂った。

 ぐつぐつと煮込まれた白濁色の汁の中に、しんなりと茹で上げられた野菜とごろりとした肉の塊が浮いている。

 男鍋と名づけた彼特性の煮込み料理は豪快さが売りであるが、人気は上々、彼らの旅の名物となっている。

 ヘイズが鉄の箸でかき混ぜればまた香りが舞い上がり、トバリの胃袋を大きく刺激した。

「涎を垂らさない様に口を閉じていてくれよ、トバリさん」

 苦笑しながら取り出した小瓶から、黒い粉末を注いで更に混ぜる。

 これで完成だ。聞けばこの粉末、いわゆる黒湖沼とは別の、どちらかと言えば唐辛子に属する辛味らしい。最低限の調理に肉が蕩けるまで茹でられた鍋、そしてぴりりと辛い香辛料。

 想像しただけで口から溢れる唾液を飲み下し、早く早くと目で催促するトバリを愛おしく抱き寄せるカンナ。しかし彼女の凶悪な乳房も食い気の前には敵わない。

 彼女の拘束から抜け出して、目を輝かせながらヘイズの配る皿を受け取る。寂しそうにしているカンナにも皿を配り、煮込まれた汁と具材はノノムラが注いでいく。

「おおお~っ!」

 大きな肉の塊に感嘆の声を上げ、湯気立つ汁を注がれて、もうトバリは待ちきれないと言った表情だ。その様子に手短にするかとヘイズは咳払いをひとつ。

「皆、今日はご苦労だった。色々あるだろうが一先ずは飯だ。いただきます!」

『いっただっきまーす!』

 声を揃えて元気良く。鍋にかかる火を篝火に、彼らは食事を始めた。

 渡された箸を使うのももどかしく、皿から顔を覗かせる肉の塊にかぶりつく。それは昼間に食べた肉と違い、甘みがあり、ゴムのような弾力もなく驚くほどあっさりと口の中に解けた。

 長時間煮込んでいた故だろう、少し突くだけで崩れるにも関わらずその肉はしっかりと味を残している。

 トバリは知る由もなかったが、これはワイルドビーストの肉であり、そのままだと味が強すぎて、まるで香水のようにむせ返るほどの臭いを放つ。だからこそ長時間煮込みに煮込んで味を逃し、臭いを飛ばして作られる。

 出来上がればまるで蕩けるような舌触りとえも言えぬ香りが鼻腔と舌とを擽るのだ。更に鍋物で一緒に茹でれば、その味が他の具材にもしっかりと染み込む。

 肉の甘さで仕上がった鍋は調味料をほぼ使う必要がなくそれだけでも旨いが、ヘイズの加えた香辛料がその味を引き立たせるのだ。

 少女の隣に座るノノムラはしたり顔で、以前フューから聞いた死霊術と料理の関連性を説いくも、当の本人は右から左へと聞き流している。その中に植物はまるでオブジェクトのように、抜いても枯れても光となって消えることはないという説明もあったが。

 そんなことも聞かず、額に汗して貪る少女。その姿に行儀が悪いぞと鍋を囲む面々が笑う。

 美味。

 一言で表すしかないその味に、思わず涙すら浮かべてしまう。人に囲まれていることが、笑顔が溢れていることが、この温かな空気が、トバリの腹にも心にも沁みる。

 あの、黒の集団と呼ばれる者らに殺された人々は、どうなるのだろう。

彼らも自分と同じように、そう、フューと食べたあの料理店で旨い料理に舌鼓を打っていたろう。

この寒く冷える荒野から逃れた街中で、温かなご飯を食べて陽気に歌う者もいただろう。

 仲間との再会や、無事に旅を終えたことに祝福する者たちもいただろう。

 そんな彼らの命を、黒の集団は奪ったのだ。トバリを受け入れてくれているヘイズらが、シュヴァリを敵視する理由は分かる。トバリも同じように黒ずくめたちを敵視した。だからこそ、あの温かな大きな手を持つシュヴァリと彼らとを、差別化したかったのかも知れない。

 トバリは胸が締め付けられる思いで、必死に肉を食らう。堪えようにも、次々と溢れる涙が止まらずに滴り落ちる。

 案内人と違う、黒の集団を率いるシュヴァリとしての顔が許せなかったからか。それとも自分自身に、夢の中ですら人を動かす力を持てず悔しいのか。

 泣くほど美味いかと茶化して笑うレイニーに、ノノムラはその頭を叩いた。

 ヒーローになりたい。

 思わず零れた言葉に手が震え、ご飯も喉を通らずに肩も震わせた始めたこの少女を、カンナは優しく抱きしめる。

 ヘイズはその姿を悲しそうに見つめていたが、こちらへ視線を向けるダイテツを連れて二人、その場を離れるのだった。

 自分たちには、まだすべきことがある。彼は険しい表情を浮かべていた。

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