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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
お初で秘密のダンジョン探検!
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第二十三話 いあ、別に要らないんで ~贈り物は慎重に!~

 未だ機嫌直らず。

 いかにも不機嫌だと言う顔で荒野になにも敷かずに座り込み、装備の手入れを始める。と言っても詳しいやり方など知らぬ彼女は、ただぼろ布で拭くだけだ。

 その様子が少女に見えないのだ。喉まで出掛かる言葉を飲み下し、ノノムラはリーダーは天然だけどとても良い人だとフォローに回る。

「今もほら、君のことで心を痛めている」

 彼の言葉に向き直れば、大きな体を小さくしょげさせて鍋をかきまぜているヘイズの姿があった。少し離れた場所でレイニーはにやついている。

 これはこれで鬱陶しい。

 素直な感想を思わず零した為に、ノノムラも頬を引きつらせるが、彼女には関係のないことだ。トバリは溜息ひとつで立ち上がり、ヘイズの元へ向かった。

 大の男はこちらに気づいてばつが悪そうに益々と小さくなってしまう。

(この人って本当に凄い人なの?)

「ヘイズさん、あたし装備の手入れとかしたことなくて。こういう武器ってどうすればいいんですか?」

 そう言って盾裏の鞘から剣を引き抜いた。淡く赤の光を映すその刀身に、ヘイズは思わず声を漏らす。

 魔法剣。その刀身に刻まれた魔法陣が、その武器がマジックアイテムのひとつであることを主張している。

 ヘイズは、少女から許可を得て受け取ると、これをどこで手に入れたのかと問う。トバリは素気なく人から貰ったのだとした。

「……まさか、これを……トバリさん、この剣、君はどんな代物かわかっているのかい?」

「魔法剣ですよね? 炎の魔法が込められてるって、剣を撫でたら燃えるヤツです」

 だから布で拭くにも億劫だ。

 唸るトバリに対してヘイズは、この武器はそんな下級魔法で終わる物ではないと真剣な表情で言う。武器をトバリへと渡し、正式な段階を踏めば驚くべき力を発揮すると言うのだ。

「いいかい、トバリさん。君がもし、その力を使いたいなら――」

「いあ、別に要らないんで、手入れの仕方を教えてください」

 その言葉をあっさりと遮ってトバリ。

 ヘイズの様子に興味津々で近寄っていたノノムラ、レイニーは勿論のこと、ヘイズもまた目を丸くしていた。その反応に、最初から聞いていた件はこれだろうと小首を傾げる少女。

 ヘイズは思わず大笑いし、ノノムラとレイニーは呆れたように肩を竦めた。彼らの行動に失礼過ぎやしないかと口を尖らせる少女へ、リーダーたるヘイズは非礼を詫びた。

「いや、すまない。正直に言えば君のことを少し疑っていたんだが……そうか……だからこそ、この武器も君の手に渡ったんだな。

 是非とも会ってみたいよ、この剣の持ち主に」

「ああ、そう言えば、最初は案内人って名乗ってたから、元はヘイズさんたちのギルドの人なのかも知れないですね」

 ほう、それは益々、興味深い。

 自分たちのギルド以外でも、この世界へアクセスして日が浅い者の面倒を見る者は居る。しかし、そこに付け込んで悪意を働かせる者もまた多く居るのだ。だからこそ、こういった人たちとはギルドメンバーになれずとも、多く疎通したい。

 それがヘイズの考えだった。ゆえにただの善意でそれを聞いたのだろう。

「その案内人さんの名前、覚えているかい?」

「シュヴァリさん」

 トバリもことも無げにそれを返した。聞かれたから返した、ただそれだけだ。

 それだけで、場の空気が音をたてて固まったと少女には感じられた。

 ヘイズは、自分たちのギルドにその名を使う者がいたかとノノムラ、レイニーの両名に確認すれば、即答でいないとした。ならばとヘイズは宙を見上げる。

「……騙り、か……いや、トバリさんの人柄に触れて真人間になったか、あるいは敵に教われないように、トバリさんがハニートラップと思って偽名を使ったか、だな」

 ハニートラップ。その言葉に初めて女の子扱いされたと頬を綻ばせるトバリだったが、騙りではないはずだとヘイズの言葉を否定する。

 彼の従えていた黒ずくめらは一様に、彼をシュヴァリとして扱っていたのだ。少女の前のみならず、部下にも囲まれて、そんな地位を持つ男が偽名を通す必要があるのだろうか。

「居たのか、〝黒の集団〟の中に。いや、黒の集団を率いる立場として、あのシュヴァリが」

 刺すような視線。ことの真偽を探るものではない。それはただ単に、少女を脅すものだった。

 それは先程までの彼とは違って陽気さは消え去り、ノノムラの紹介する長の名に相応しい気迫がある。それに対し少女はごくりと生唾を飲み込んだ。が、一歩として引かず、むしろ自ら前に進み出て、ヘイズを睨み返した。

「居ましたよ。案内人さん」

 まるで、彼を庇うように。

 その名ではなく、少女の親しんだ名でヘイズを挑発するように言い切った。男の脇に立つ二人が間にも入れぬ重圧の中で、その立ち姿はレイニーの呼んだルーキーという言葉のまるで当てはまらない姿であった。

「…………。そうか、分かった」

 ヘイズは視線を逸らし、深く息を吐く。トバリもまた、消えた重圧に心の底から息を吐いて、ヘイズから一歩離れた。

 どうなることかと案じていた二人もひっそりと息を吐いたが、レイニーが気を遣って道具の手入れを教えてやると、トバリと共にヘイズから離れる。

 一方のノノムラは、まさか今の少女の話を信じた訳ではないだろうと彼らがリーダーに口を寄せるのだった。

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