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183.仕事の依頼

 

 目の前に広がるのは、有用な魔道具の数々。加えて、絢爛豪華な装備の数々。

 さらにさらに、最高級ポーション一年分に、大小様々な加工前の大量の魔石、何年分の生活費だろうか山積みにされた硬貨、めっちゃ頑丈そうな馬車…………


「どこが賞品だボケッ! 軽く一等地に城が建つわッ!」


 試合の後、案内というよりほぼ強制連行された部屋で、俺は賞品と言う名の援助を前に叫んでいた。


「いずれくる災厄に対する備えとしては申し分あるまい」


 どうやらもう建前を通す気もないのか、白々しくぶっちゃけ始めた皇帝。

 以前聞いた初代皇帝の話と照らし合せて考えるに、やはりこれは商品などではなく、いずれ来ると言う災厄に対する備えであったことは間違えようがない。


 だが、この援助を受け取っては、事実上俺が帝国の犬──すなわち、勇者に認定される事と同義である。故に、俺は丁重に断るべく、口を開こうした。


 しかし、そんな俺の考えを見越してのことか、皇帝は機先を制す。


「公約に従い、帝国の勇者は勇者選別試験でのみ決定する。これを受け取ろうと、受け取らまいとそれに二言はない。加えて言うのなら、其方が受け取らぬのなら、これは処分するしかあるまいな」

「…………それは、もったいないだろ」


 処分と聞いて、俺は揺れた。


 金はいい。装備も、魔石も、ポーションも、あって困らないが、まぁいい。

 だが……魔道具は欲しいっ。

 殆ど市販されておらず、入手が非常に困難な魔道具がこんなに沢山……宝の山だ。トレジャーマウンテンだ。物凄く欲しい。


「ま、まぁ、捨てるくらいなら、俺が貰って置こうかな? 賞品だし?」


 結局、俺は欲に負けましたとさ。まる。



 〜〜〜〜



 勝ったのだから、犬ではない。

 そんな言葉を自分に言い聞かせ、俺はアークティアの街に戻ってきていた。


 数時間前に終わった俺と皇帝の試合を見に来ていた人でごった返し騒然としていた街中で、俺は騒ぎを避けるため顔を隠し、人混みをササっとすり抜けると、アークティアに寄った本来の目的を果たすため、魔法学校へと向かった。


 一年前、死神と殺人鬼の衝突により大陸橋が崩壊したことを皇帝へと報告するために魔法学校へ来て以来、勇者送還が行われるまでは出入りも多かった俺は、以前のような侵入者扱いされるようなヘマを踏んだりはしない。

 しっかり門を通過する前に警備の人に話しかけ、学長とのコンタクトをとってもらった。


 そうして、中に入る許可をもらった俺は、堂々と門をくぐり、学長室を訪れた。


 軽くノックをすると、中から声が聞こえて来たので、俺は扉を開けた。


「お久しぶりです、学長」

「おおっ、一年ぶりになりますかな。すみませんな、迎えもやれず」

「いや、突然来たのは俺の方なんで。忙しいところでしたか?」

「いやぁレイ殿に見られるとは、お恥ずかしい。仕事をサボって、闘技場まで足を伸ばしていたものですから。おっと、これは秘密でお願いしますよ」

「ははは……学長も来てたんですか」


 まんまと嵌められたところを見られていたとは……恥ずかしいのは俺の方だ。


「それにしても、 体の方はもう良いのですかな?」

「まぁ、向こうも本気からは程遠いみたいでしたし……むしろ怪我の具合なら、皇帝を心配した方がいいですよ」

「それこそ心配無用でしょう。本来なら勇者になられるはずだったあの子のことです。あれしきの事ではへこたれませんよ」


 あの子……?


「……ああ、そっか。学長は、皇帝が小さい頃からこの学園で教師をやっていたんですよね」

「ええ……ですから、人一倍あの事件を収めてくれたレイ殿には感謝しているのです。私は幼い頃の仲良く共に遊び、高め合う彼らを見てきましたから」

「……そうですか」


 それは、俺が感じたよりも遥かにあの事件を悲しいと思ったことだろう。今まで、そこまで深く考えてはいなかったが、学長が遺跡の調査に連れて行ってくれたのも、闘技場を建てる時や勇者送還の折に尽力してくれたのには、そういう背景があったのだ。


「正直、俺は皇帝の事が嫌いなんだけど、学長から見れば、まだ可愛い教え子なんでしょうね」

「さて……それはどうでしょうね。時々、わからなくなります」

「というと?」

「大したお話ではありませんよ。ただ私にも悔いはあるという事です。彼を皇帝に後押した行為が、果たして正しかったのかをね」


 顔を曇らせた学長は、立ち話も何なのでと、ソファーに腰掛けることを勧めてきた。

 俺は勧めに従い腰を押し付けると、正面に座った学長を見た。


「俺でよければ、話くらい聞きますよ。学長ほどの年齢になれば、抱えてるものを零したくなる日もあるでしょうから」


 俺がシャルステナに聞いてもらったように、誰かに話すことで胸の内がスッキリする事はある。知らない人間の話でもないし、正直俺としてはアイリスに関係する事には興味がある。同じ復讐を胸に抱く者として。


「……では、少しだけ聞いていただけますかな?」

「ええ、もちろん」


 頷いた俺に、学長は少しだけ表情を崩してから、話始めた。


「……ゼブラトは優秀過ぎたのです。彼の弟、ガイアスも他からみれば十分に逸材でしたが、ゼブラトは頭一つ抜きん出ていた。先程、本来ならばゼブラトが勇者になるはずだったというのは、そういう事です。彼は初出場でトーナメントを優勝。さらに次の年も、他を寄せ付けぬ圧倒的な強さで、勝ち続けました。今の時代に当てはめれば、ちょうどディクルド・ベルステッドと似たような扱いでしょうか」


 俺は、まさかの名が飛び出した事で、驚きに目を見開いた。


「皇帝が、ディクと……?」


 当時と比較してなら、今の彼はどれほどまでに強いというのだろうか。もし先程本気で戦っていたらと考えるとゾッとする。皇帝が本気で俺を勇者にする気でいたのなら、負けていたのは俺の方だったのではないだろうか。


「……ところで、レイ殿は帝国の勇者に関する風習はご存知ですかな?」

「ええ、渦中にいたので、一通り事情は知ってるつもりですよ」

「そうですか。それならば話は早い。ゼブラトが何故、皇帝になれたのか。もうお分りかと思います」

「皇帝を、弟のガイアスが倒したんですね」


 初出場から2年連続優勝。ディクと似たような扱いだったことも考えるに、最後の武闘大会で優勝出来なかったから、彼は勇者ではなく、皇帝になれたのではないだろうか。


「ええ、その通り。ゼブラトは、弟が勇者という危険な役目を押し付けたくなかったのでしょうね。皇帝になるという夢を捨ててまで、圧倒的な強さを見せつけた。……ですが、決勝戦、ゼブラトと違い必死に戦い勝ち残ったガイアスとの兄弟対決。そこで、彼らが何を交わし、何をぶつけ合ったのかはわかりませんが、ゼブラトはガイアスに敗れた」


 ……今の皇帝のイメージとは随分と違う。

 夢を捨てるほど弟思いだった彼に何があれば、友人を、それも弟の婚約者だった彼女を、容赦なく殺すという選択を容易に下せるようになるのか。

 いつかルーシィから聞いた帝国が滅びかけたという時代にこそ、それはあったに違いない。


「……そこからは大変でした。二人が兄弟だったから手加減したのではないかという理由でゼブラトを勇者に押す声と、彼に勝ったガイアスを勇者に押す声で、世間は割れました。私は彼らの夢を応援し、ゼブラトを皇帝に、ガイアスを勇者にするため尽力しましたが、今にして思えば、あれが全ての始まりだったのかもしれません。だから、もし私が真逆の選択をしていればと、たまに考えてしまうのですよ」

「……気持ちはわかります。俺も、あの時こうしていたらって後悔してる事がありますから。でも、俺たちに出来るのは、結局これからの事だけなんですよね。だから、その悔いをどう原動力に変えていくかだと思います」


 俺よりも長く生きている学長ならば、そんなことは言われずとも承知していることであろう。でも、後悔を抱える人間にとって、それに囚われる事なく前に進むには、結局のところそれぐらいしかやれる事はないではないだろうか。


「……ありがとうございます。少し気が晴れた思いです」

「いや、当たり前のような事しか言えなくて、すいません」

「そんな事はありません。レイ殿の言葉、身にしみました。今更私が何を出来るかはわかりませんが、まだ生きているゼブラトに何かしてやらないものか、考えてみます」

「それならよかったです」


 話を聞いておいて、大した事は何も言えなかったが、それでも気が晴れたというのなら、良かった。


「年寄りの愚痴に付き合わせてしまい申し訳ないですな。そろそろ本題に入りましょうか。今日来られたという事は、何か急ぎの用があったのではないのですかな?」

「いや、急ぎというわけではないんだけども……」


 皇帝との戦いから数時間しか経っていないのに、訪ねてきてしまった事が学長に誤解を与えてしまったらしい。宿に帰ったら、人が詰め掛けていそうだと思って用事を先に済ませに来ただけなのに申し訳ない。


「実は……折り入って学長に一つお願いしたい事があるんです」

「私に、ですか? ……何でしょう? レイ殿から折り入ってとは、実に興味が惹かれますな」


 先程とは、打って変わって期待に満ちた表情を向けてくる学長。

 俺は、その期待に添える自信がなかったので、前置きを一つ入れる。


「まぁ、そんな大した事じゃないんですよ。仕事の依頼をしたいっていう話だけで……」

「仕事ですか」

「ええ、仕事です。実は──」


 俺は勇者云々の面倒事のリスクを負ってまでこの地に来た本当の理由を話した。

 学長にお願いしたい内容。俺の考え。それを依頼する為にこちらが差し出せるものなど、掻い摘んで手短に説明した。


「……なるほど、お話はわかりました。遺跡から出土した謎の魔道具を提供していただけるというお話は、実に心惹かれます。しかし、こちらが出せるものが問題ですな」


 学長が口にする問題。それは、帝国の法律だ。

 アークティアの街で研究をする学者達は、帝国から多大な援助を受けている。その為、ここで生まれた新たな技術は、帝国の重要な財産。それを、俺が交換条件に要求しているのだから、学長は簡単には了承出来ないでいる。気持ち的には、先程少しだけ出して見せた記録装置が喉から手が出るほど欲しいだろうが……


「まぁ、それはわかってましたよ。すぐにとは言いません。けど、考えてみて下さい。街間の移動が徒歩しかない世界に、手軽に転移できる術式を広めた時に生まれる莫大な富を。一度の転移に、数万でも使う人は必ずいます。それだけでも、帝国が許可を出すには十分な理由でしょう」

「確かに……しかし、本当にそんな事が可能なのでしょうか? 勇者送還魔法を転移術式に代用するなどという事が……」


 学長が口にした勇者送還魔法の転移術式への応用。その開発と、提供こそが俺の望むものであり、学長は半信半疑だが、俺の中ではすでにその手順がかなり綿密に組み上がっている。


「出来ますよ」


 俺は断言する。


「そもそも、あの魔法は世界を越える為のものじゃない。あの魔法は空間を破り、異なる空間を繋げる為の術式です」


 一年前の送還の時に気が付いた空間の破れ。おそらくはその場の空間に敏感な俺だからこそ、気が付いた古文を読み解くだけでわからない事実。

 そこから、導き出せる勇者送還と対を成す勇者召喚の術式は──


「勇者召喚魔法はその逆過程を辿り、異なる空間から他者を引き込む術であるはず。どちらも、任意の場所のイメージを組み込まなければ、ランダムな場所へと繋がるでしょう」


 だが、それは本当に一切の確率的差異が存在しないランダムな現象なのだろうか?

 ノルドから聞いた話では、世界を隔てる壁に俺が穴を開けたせいで、脆くなっている部分が、勇者召喚の時に開いたという。

 ならば、繋がる先はその脆くなった場所であり、意図的にそれを起こしてやる事で、この現象は制御可能なのではないだろうか。具体的には──


「けど、勇者召喚と送還術式を同時発動する事で、空間の破れが重なり、任意の場所へ転移する事が出来るはずです」

「ッ……! なるほど……同時発動ですか。つまりは、通信魔具のような相関的機構を組み込めば……いやしかし、転移に巻き込まれないための機構は…………」

「防御シールドですよ、学長。あの防御シールドと、通信魔具。それから、勇者召喚と送還の術式を組み合わせれば、転移の魔具が出来るはずです」


 もちろん、作製する段階でこう上手くはいかない事もわかっている。何かしらの問題が出てくるだろう。そうなった時、とても俺だけでは解決しきれない。

 だからこそ、優秀な学者が集うこの場所で、転移魔具作製の依頼をしに来たのだ。


「これは中々研究しがいのあるテーマですな。わかりました。他の学者にも掛け合ってみましょう」

「助かります、学長。それと、研究費を出すので、完成した魔具を融通して貰っても?」

「おおっ! それはもちろんですとも! では、帝国政府には、完成品を見せた方が説得は容易でしょうから後回しにして……私は早速知り合いの学者に当たってみます」


 どうも研究に火が点いたらしい学長は、適当な理由を付けて面倒事を後回しにすると、いそいそと支度して、学長室から飛び出していった。

 何だかその姿に自分を重ねて見てしまい、苦笑いしながら学長を見送った俺は、コップに残った紅茶を飲み干し、適当に机を片付けてから、その場を後にした。



 〜〜〜〜



 転移魔具完成まで、学園都市アークティアの地に居座る事にした俺は、当分の生活費を除いて、帝国から貰った金も合わせて全て研究費として回した。加えて、転移魔具の融通に関して確約も貰い、この街に来た目的が果たせた俺は、長期間の滞在に向けて貸し切った宿屋にて、仲間達を招集した。


「お前達に集まって貰ったのは他でもない。俺たちのパーティは今絶望的な危機に瀕している」


 そんな重い言葉で話を打ち出した俺に、心当たりがないとばかりに、なんのこっちゃと顔に文字を浮かべる仲間達。その中でも特に酷かったのは、俺に疑いを向けてきたアンナだ。


「あんた今度は何をしでかしたのよ?」

「何で俺が悪いみたくなってんだ。言っとくが今回の事に関しては、俺は一切悪くない。っていうか、俺以外の全員の責任だ」

「あたしらが? 何よ、言ってみなさいよ。あたしらが何したって言うのよ」


 こいつ一度しめてやろうか!

 他の奴らも、まったくわけがわからないみたいな顔しやがって!


「あぁ、教えてやるよ、このフリーター共め! 俺たちのパーティはな、今金が恐ろしくないんだ! これまでの旅の経費を、全部俺が出してたからな!」


 研究費に回したから?

 いや待て。それは違う。

 俺の金を、俺の好きなように使って何が悪いんだ?

 問題なのは、うちのパーティ全員が、魔王撃破の報酬やら、S級狩りと称した経験値稼ぎやらで、有り余っていた俺の金を頼りにしている事だ。いや、半分くらい金の使い道に困った俺が散財してたせいなんだけどね?


「……っという事で、みんなには働いて貰います。というか、全員成人してるんだから、自分の金ぐらい自分で稼げよ!」


 何故俺がこんな情けない事をを言わなければならないのか。

 もう少ししっかりして欲しい。



 〜〜〜〜



 親しき仲にも礼儀あり。

 そういうわけで、小さな国一つ買えそうだった財産を散財して、パーティ全員の金づるから脱却した俺は、この由々しき事態を解決するために、パーティ内のルールを作る事にした。

 やはり、幾ら気の知れた仲間と言えど、集団行動にはそれなりの規則というものが必要だと思ったのだ。


 というわけで、全員で話合い決めた俺たちのルールを簡単に説明しよう。


 一つ、各自の装備品、消耗品は自分買う事。

 一つ、パーティの必要経費として、稼ぎの2割をパーティリーダーの俺に支払う事。

 一つ、みんな働きましょう。


 悲しいかな、当たり前の事までルールにしなければならないのだから、金欠以上の問題をこのパーティは抱えているのかもしれない。


 ちなみに、これから除外されるのは、ルクセリアの家族とセシルだ。セシルはパーティの補佐役的存在で、こちらから仕事を依頼する立場だし、ルクセリアの家族は付いて来てるだけだから、細かい事は言うまい。


 そんなわけで、仕事といえば、冒険者である俺たちは依頼をこなす事になるのだが……全員で行くのは戦力的に時間の無駄なので、幾つかのグループに分けて、依頼をこなす事にした。


 実力的に何も言う事はないアンナとゴルドは2人で、ヘマをやらかす事の多いギルクとリスリットには、しっかりしてるルクセリアとライクッドをお目付け役にそれぞれ付けて、それぞれのランクにあった依頼をこなしてもらう。ハクは冒険者登録出来ないため、シャルのお手伝いをして、分け前をもらうことになっている。そして、春樹と結衣は冒険者ランクを上げるため、2人で低ランクの依頼をこなす事になった。


 あと残るはシーテラなのだが……俺が王都を留守にしている間に、何故か冒険者となり、Cランクにまで上がっていた。戦う手段を持たない彼女に何があったらそうなるのか甚だ疑問だが、彼女自身がそうしたいと口にした為、それを危険だからと戒めるのは、俺の主義に合わない。好きにさせるだけだ。


 しかし、そうなって来ると、どうやって戦っているのかという疑問が湧いてくる。それで、彼女に聞いたところ、どうやら魔石を投げているらしい。ゴブリンとかに。


 なんて、効率の悪い話だろうか。

 術式が編まれた魔石は安くても一個数万ルトはするのだ。それをあろう事か、一体千ルトにもならない魔物に使う?

 誰だこんなアホな戦い方を彼女に授けた奴は。赤字経営もいいところだ。


 そんなわけで、俺は魔石以外に彼女に戦う手段を作ってあげられないかと考え、街に乗り出した。

 というのも、この街は他と比べて独特な文化が根付いており、言ってしまえば変な物がいっぱいあるのだ。


 例えば、空飛ぶ絨毯とか、乗れるシャボン玉とか、夢のような魔法道具で溢れている。しかし、帝国が他国にそれらの技術が漏れないよう、持ち出すのに莫大な税を掛けているせいで、この街以外ではあまり見られない。


 しかし、生憎と俺には収納空間があり、街の門での検分などチョロまかせる。つまり安価でいいものを手に入れられるという事だ。

 えっ? 犯罪?

 そう思うあなたにはこんな格言をプレゼントしよう。



 ──バレなければ犯罪にはならない。



 ……というわけで、魔道具専門店へとやって来た俺は、シーテラと共に店内を散策し始めた。


「これなんかどうだ?」


 俺は魔具専門店で、取り敢えず目に付いた発射口が4つ付いた銃のようなものを手に、シーテラに聞いてみた。


『はい、データを参照してみます』

「いや、使えるかって意味なんだけど……」


 何やら意味を履き違えて受け取ったらしいシーテラは、眠るようにソッと目を閉じた。


『……記録プログラム参照……データ確認……エラーナンバー17561……再度確認……エラーナンバー17561……記録プログラムとの差異……出力90パーセント低下……不適切な魔力回路を確認……』

「お、おい、あ、あんた大丈夫か? 頭でも打ったのか?」

「あー、お気になさらず、こういうのが今のこの子の流行で……」


 店員のおじさんが、突然おかしな事を口走り出した見た目人間のシーテラを心配してきたので、咄嗟に思い付いた言い訳を吐き、訝しげな視線を頂戴しながらも、オートマタという秘密を隠す。この街で、オートマタだってバレた日には、何が起こるかわからない。


『プログラム終了を確認……主人格の再構築……完了。マスター、どうやらこの魔具は壊れているようです。出力が大幅低下しており、修理する事をお勧めします』

「な、何だと! うちの店が不良品売ってるって言うのか! いきなりおかしな事いいだしたと思ったら、変な言い掛かりつけやがってッ! いい迷惑だ! とっとと帰りやがれぇ!」


 うちのオートマタがすいませんっ!


 俺はぶち切れたおじさんに心の中で謝りながら、シーテラを連れて慌てて店を出た。



 〜〜〜〜



 店を飛び出し、しばらく進んだ先で俺はため息を吐く。


「まったく、何でもかんでも口にしたらいいってもんじゃないだぞ?」

『それは何故でしょうか? クラクベール様は、問題があればすぐに知らせるよう仰っていたのですが……』

「おぉぅ、あいつ偶にはまともな事教えてるじゃないか……確かに、問題があれば早く知らせてくれる方がいいけど、時と場所、それから状況を考えて言ってくれ」


 クラクベールが彼女にまともな教育を施していた事には驚いたが、いつも思った事を口にされては、揉め事に事欠かない。もっと協調性というものを、身に付けてもらいたい。


『時と場所と状況……時空間移動における必要事項の事でしょうか?』

「そんなクソ難しい話を誰がした! あれだよ、何でもすぐに口に出すという事は、必ずしもいい結果を生むには至らないって事だよ」

『わかりました。解決策を模索し、自己解決が可能な事柄に関しての報告は不要という事ですね』

「まぁ……そういう事になるのかな?」


 素直に頷けない微妙な返答を貰いつつ、何でもかんでもすぐに口に出さないのなら別にいいかと、俺は妥協した。


「ん? そう言えば……」


 ふと思い出したのは数日前に貰った大量の賞品。その中に、混じった大量の魔具を思い出す。通信魔具や拡声魔具のようなメジャーなものに加え、一目では使い道が謎の魔具が大量にあった。貰ってから日も浅い為、全てに目を通しているわけではないが、幾つか先程の戦闘用魔具店に置いてあった物と同じものがあったはず。


「シーテラ、一度宿に戻ろうか。ひとまず俺の持っている魔具の中から使えそうなのがないか見てみよう」

『わかりました、マスター』



 〜〜〜〜



「……っと。取り敢えず出してはみたものの……改めて見るとすごい量だな」


 これだけで普通に買ったら幾らになるのだろうか。税の事も考えると、軽く億は超えそうな量の魔具が宿の一室に所狭しと山積み状態になっていた。


「シーテラ、キリがないからパッと見て使えそうなのがないか見てくれ」

『はい、マスターの命令とあらば』


 相変わらず何でも命令として受け取ろうとする彼女だが、ギルクに預けている間に少し人間味が増した気がする。

 たとえば、あれだけ頻繁に魔力補給と言っていたのに、ここ最近は倒した魔物の魔石から少し魔力を吸う程度で、依然のように頻繁な補給を必要としなくなった事か。理由はよくわからないが、低燃費になったのかな?


 他にも、日記のようなものを旅の途中書いているのを見かけた。正直別れる前は俺の気のせいだったのかなと思っていたりもしていたわけだが、そんな命令だけで動くオートマタなら絶対にしないような事をしている彼女を見ると、ギルクに預けて良かったと心から思う。


「どんな感じだ?」

『これらの魔具は、所定の水準に達ない粗悪品であるようです』

「そうなのか?」


 そんな筈はないんだけどなぁ……

 ここにあるのは、皇帝が最新の技術を詰め合わせたものだと言っていたんだが……もしかして、今の技術は過去のものと比較にならないぐらい劣化してるのか?


「そうか、じゃあ使い物にはならないのか。いい案だと思ったんだけどなぁ」

『いえ、修復すれば再利用は可能でしょう。間違った魔力回路が組み込まれている為、本来の力を発揮出来ないだけですので』

「凄いな、そんな事までわかるのか」


 何も知らない者が見たら、ガラクタにしか見えないような物を、彼女は見ただけでよくわかるものだ。或いは、そういう機能が備わっているのかもしれないが、どうせ訳のわからない説明をされるのがオチだから、聞きはしない。

 それよりも気になるのは。


「もしかして、修復出来ちゃったりするのか?」


 という事だった。

 そんな淡い期待を抱いて聞いてみたところ、シーテラは少しドヤ顔をして。


『可能です。適切な機材と時間さえあれば』

「おおっ! 夢が広がるな! なら、幾つか使えそうなの選んで、修復してみてくれないか? 俺も完成品使ってみたいし」

『了解です。マスターの命令とあらば、全てを修復してみせます』

「ああ、そうして……」


 自信ありげな様子に頷きたくなるも、寸前で首の動きが止まる。


 ……これ全部直す気か?


「いや、幾つかいい物を選んで直してくれたらいいんだけど……?」

『申し訳ありません、マスター。前マスターがお造りになられた至高の品を、このような紛い物で汚すのは我慢なりません。全て修復します』

「お、おぉう……まぁ、ゆっくりやってくれ」


 そこはかとなく強い熱意がある事だけはわかったが、いったい何年掛かるんだろうか……

 5千年の時を生きた彼女にとってはせんなき事かも知れないが……まぁ、気長に見守ろう。


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