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149.友からの知らせ

 陽気な春の風が、山から草原を通り街へと流れ込む。少しだけ冷たさを感じる風だが、不安を和らげてくれるかのようで暖かい。


「色々と世話になったな、みんな」


 馬車という名の竜車を一台引き連れ、俺とハク、春樹、結衣、怪しい人、それからルクセリア一家は、アークティアの街の門の前で、お世話になった人達に、別れを告げていた。


 俺たちの次の目的地は、ライクベルク王国の王都イグノア。俺の第二の故郷とも言える思い出の地だ。先日その方向から上がった光が、どうしても気になって仕方がなかった俺は、勇者送還からそう日も置かずにすぐに旅立つ事を決めた。


 もちろん光の柱についてはセシルに情報を集めて貰っているが、余り芳しくはないそうで、立ち入り禁止区域に当たる未開発地区でそれが上がったという事と、今その辺りに厳重警戒が敷かれている事しかわかっていない。

 後は王様が死んだとか、ギルクが王様になりそうなんて馬鹿げた話があったぐらいだが……未開発地区のことが気になる。


 騎士団が出張っているし、ディクがいるから心配はないと思うのだが、念のためシャル達に会いに王都へ行こうと思うのだ。

 あと、これは俺の用事ではないが、ルクセリアも帝国の暮らしぶりは十分見たため、あとはライクベルクに行って最終的な判断を下したいと言っていた。


 恐らくだが、ルクセリアが帝国の傘下に加わる事を躊躇ったのは、奴隷制度があるからだ。もちろんゴング王国みたいに酷いものではないし、なるのは犯罪を犯した者だけだから、同じ奴隷制度ではないのだが、それでも忌避してしまうのは、それをなくそうと抗ってきた彼を思えば仕方がないのかもしれない。


 けど、だからこそライクベルク王国をルクセリアは気にいると思うのだ。

 奴隷制度はないし、身分差もほぼない。王子を足蹴りにしても何の罪にもならない素晴らしい国だ。

 きっと気に入ってくれると思う。


 まぁ、それはあくまでルクセリアの目的だから、横に置いといて、俺もみんなと会いたいし、何よりシャルを迎えに行かなければならない。ライクッドの約束までは少し時間があるが、一年ぐらいそこに留まるのも悪くはない。


 ……少しだけ、俺の出した答えに、彼女が納得してくれるのか、怖い気持ちもあるが、それから逃げるのは俺の出した答えが間違っていると、自らを貶めるだけだ。

 ちゃんと会って、胸を張って言おう。


 俺はそんな風に気持ちを新たに、別れを切り出す。


「それじゃあ、そろそろ俺たちは行くよ」


 もうみんな別れは済んだだろうかと頃合いを見計らい、いつまでも居ても別れが長引くだけなので、早々に旅立とうとした俺に、ルーシィが慌てたように駆け寄ってきた。


「あ、待ってください、キッチックさん。これを持って行って下さい」

「うん? 何だこれ?」


 ルーシィが手渡してきたのは、腕輪だった。


「お守りです。それを私だと思って……ちょ、何で返そうとするんですか! あ、やめ、ポケットにねじ込もうとしないで!」

「いや、だって、シャルに怒られそうだし……」


 俺は私だと思っての部分で早々に腕輪をルーシィに押し返した。それでも抵抗するので、無理矢理ポケットに入れようともみ合っていると……


「ああもう、キッチックさんはやっぱり酷いです! それは、特別頑丈に作られた翻訳腕輪なんですよ? きっとキッチックさん達の旅に役立つはずです」

「おおっ! まじか、ルーシィ! 俺、初めてお前に感謝の気持ちが湧いた気がするよ!」

「それって評価が上がってるんですよね?」


 そうか、これは良い物だったのか。

 いつかの親父達にプレゼントされた呪いのアイテム枠かと思ったよ。


「ありがとな、ルーシィ。今度来るときは、何かお返しを持ってくるよ」

「なら、宝石の付いた指輪が……」

「おっけおっけ。魔石の付いた首輪だな。特注してくるよ」

「それってひょっとしなくても、アバババってなるやつですよね⁉︎」


 なるやつですね。

 まぁ、冗談はさて置き、指輪以外で何かこれに見合うものを買ってこよう。

 受けた恩は返さないとな。


「じゃあ、今度こそ本当に俺たちは行くよ。みんな元気でな。特にグール、無茶だけはするなよ?」

「うん! レイ兄も元気でね! 次に会うときは僕が勇者になってるから!」

「ああ、楽しみにしてる」


 グールはルーシィの家が預かってくれる事になった。元々ヒュールキャス家は勇者選抜の役割が与えられた家系で、優秀な子供を養子にしたりしているらしく、今回グールもその中に加わる事になったのだ。

 ヒュールキャス家はおかしな家訓があるが、それ以外はいい人達なので、俺は彼女達にグールをお願いする事にした。何より、勇者軍と関わる事も多く、グールにとっていい刺激になるだろう。


 俺は、出会った時から、体も心も大きくなったグールの夢が叶うのを心の中で応援しながら、彼らに背中を向けた。


「さぁ行こ『ブー!』……セシル……?」


 息巻いて、出発しようとした矢先のことだった。携帯の振動音よりも少しサイレンに近い音が、セシルの胸の辺りから鳴った。

 俺は邪魔された感が捨てきれず、不機嫌気味にセシルの名を呼んだ。


「主、すまぬ。緊急連絡だ」

「緊急連絡?」


 誰から?

 ってか、どうやって?

 と、俺だけでなく、他のみんなも首を傾げる中、セシルが胸ポケットから取り出したのは、通信魔具であった。


「おいおい、どこでそんなものを……」

「ククッ、オークションだ。むっ、どうやら連絡はギルク王子からのようだ。ここで聞いても?」

「構わないから、早くしてくれ」


 ったく、邪魔したのはギルクかよ。ほんとあの王子は……緊急?


 俺の中で警鐘が鳴った。それとほぼ同時。通信魔具から流れてきたのは、激しい爆発音だった。


『──聞こえるか⁉︎』

「これはこれは、ギルク王子。何やら大変な(面白い)事態に陥っているようだな」

「何を悠長に……ッ! おい、ギルク!俺だ、レイだ! そっちで何が起きてる⁉︎」


 俺は異常事態であるにも関わらず悠長に話すセシルから魔具を奪い取り、大声で呼び掛けた。


『レイか! お前今すぐシエラ村に……』

『ギルク! 何してるの⁉︎ 早く行きなさい!』


 今のはアンナの声か⁉︎

 あいつも何かに巻き込まれて……


『今、レイと話しているのだ!』

『レイ⁉︎ レイがその向こうにいるの⁉︎』


 間違いない。今のは……シャルの声だ。みんな巻き込まれてるのか……?


「シャル⁉︎ おい、ギルク! そっちで何が起こって──!」

『──ギルク! あぶない、避けてっーー!』

『あっ、く『バギッ』ツ───……』


 ゴルドの悲鳴の後すぐに何かが壊されたような破壊音。それ以降、通信魔具は途絶えた通信を探すように、高い音色を奏で続ける。


「……くそっ! いったい何が起きてるんだよ!」


 俺は、通信魔具をセシルに投げ返すと、すぐさま収納空間から世界地図を取り出した。


「おい、嶺自、早く行かなくていいのかよ? のんびり地図を見てる暇なんか……」

「だから、見てるんだ! セシル、今ここはこの地図でどこの部分だ⁉︎」


 俺はバッと地面に地図を広げ、怒鳴りながら、セシルな指が差す場所を見た。


「ふむ、この辺りだろうか」

「ってことは、王都へ行くのに最短ルートはこの方角か」


 方位磁石を取り出し、地図の上に置いて、方角を確かめると……


「ルクセリア、ハク。悪いけど、俺は先に王都に行く。春樹達の事を頼んだ。必ずそこで合流しよう」

「わかった。何が起きているかわからぬが、我々もなるべく早く合流しよう」


 少々強張った顔を見せたルクセリア。状況が状況なだけに口を挟む気はないようで、すぐさま了承してくれた。


「主、これを持って行くといい。予備の通信魔具だ」

「ああ、サンキュー。使い方はギルクに聞くよ」


 早口に礼を言いながら受け取った魔具をしまい、飛んできたハクを手の上に乗せた。


『ハクも行く!』

「悪い、ハク。俺一人の方が速く行けるんだ。今は、一刻も早く戻らなきゃいけない時だ。また、置いてく事になるけど、許してくれ」

「ピィ……」


 ハクは、不安そうに小さく鳴いた。俺は、ハクを地面に下ろし、軽く頭に手を置いた。


「悪いな、ハク。絶対俺がどうにかしてくるから」

『ハクも追いかける』

「ああ、王都で合流だ」


 また、ハクを置いていってしまう事が申し訳なかった。それに対して、詫びの気持ちを並べたくても、時間が惜しい。


 けれど、同じように春樹達を置いていく事も不安で仕方がなかった。信用できる仲間に任せるのが、不安というわけじゃない。ただ、せっかく俺のために残ってくれたこいつらを、側で守ってやれない事が不安だった。

 生きている以上、絶対なんて言葉はこの世に存在しないのだから。


 そんな一抹の不安を、二人は機敏に感じ取ったのか、


「嶺自、私達の心配は無用よ。これでも、かなり魔物との戦闘は重ねてきてるから」

「そうだぜ。俺も弱くはないつもりだからよ。気にせず行ってこい」

「ほんと悪いな、みんな」


 こんな時、文句も言わず送り出してくれる仲間達に感謝を浮かべ、俺は空の向こうを見上げた。


「じゃあ、みんな俺は先に行く! 必ず王都でまた会おう!」


 そう言って大きく飛び上がると同時に、俺は足に魔装を纏い、グッと収縮した。


「瞬動!」


 固定空間を足場にし、同時に発散と瞬動を合わせて行う。

 それにより生まれた加速で、空を一瞬にして駆け抜け、その先へ。

 瞬動の等速運動機能が、空気摩擦を殺し、俺はそのスピードを保ったまま帝国の空を飛び抜けた。


「待ってろ……っ! すぐに行くから────」


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