迷子の騎士録3
ライクベルク王国の北方に位置する未開発地区。触れぬ神に祟りなしと、国が浸入禁止地区に指定している場所だ。その表向きの理由は、強力な魔物達の住処のため、刺激するなというもの。
しかし、真実はそこが多種多用な魔獣達の住処であったからだ。何百年も昔、魔獣と人間の王の間で決められた取り決めにより、境界線が作られた。
それが真の未開発地区というものだった。
しかし、今そこは建前が現実化し、本当に魔物の巣窟へと変わってしまっていた。
「この数年で、こうも立て続けに騎士団を動かさねばならない羽目になるとはな」
未開発地区の手前に急造された天幕にて、騎士団長は椅子に背中を傾けていた。
「依然、手掛かりはなし……彼が消えてもう2年……そろそろ覚悟を決める頃合いかもしれん」
部下の報告書を机に投げ捨て、騎士団長は外に出た。
木造の柵に囲まれた野営地。その内側を行き来するのは、騎士達だけ。一般人の姿はない。
彼らの目前に構えるのは、薄気味悪い森。その中は魔獣達の成れの果てが、跋扈している。
「状況は?」
近くにいた騎士を捕まえ、騎士団長は森の状況を聞いた。
「はっ! 何も変わりありません。進行の周期からして、おそらくあと2、3日はこの状況が続くと思われます」
「そうか……だが、油断はするな。準備だけは常に整えておけ」
「はっ!」
敬礼する騎士の肩を叩き、騎士団長は森へと数歩近づくと足を止めた。
「やれやれ。そろそろ田舎に引きこもっている先輩にも出張って貰わねばならないかもな」
と、遠い地にいるディクルドの父──グラハムの力を借りようかと考える騎士団長。一向に収まらない事態への暴力的な制圧に、事は動き出そうとしていた。
そんな彼の前に現れたのは二人の騎士。両名共に馬にまたがり、その地へやってきた二人は、森を見て黄昏る騎士団長を見つけるなり、馬から飛び降り、詰め寄った。
「師匠、いったいどういうおつもりですか?」
第一声から騎士団長の考えに疑問を投げかけた騎士の名は、キャランベル。その横では、同じく騎士団長の考えに疑問を抱くアリスの姿があった。
どこか怒っているようにも映る二人の顔。騎士団長は一言、中で話そうと言って、二人を自分の天幕の中へと案内した。
天幕の中で腰を落ち着けると、騎士団長は目線でキャランベルに何が聞きたいと問い掛けた。
「……騎士団長はこの2年私達がディクルド捜索に出ていたことをご存知でしたよね?」
「ああ、もちろんそれは知っている。つまり、お前達二人が聞きたいのは、未開発地区でディクルドくんが行方を絶ったという情報を何故伝えなかったのかということか」
騎士団長の言葉にアリスは小さく頷くと、ここに至った経緯について話した。
「はい、そうです。先日、私達はディクルドくんと話したという行商人の方から、彼が未開発地区に行って帰って来なかったという話を聞きました。何故、その情報を私達に教えて下さらなかったのですか? まさかもう……」
途切れた言葉は、死という最悪の結末を予測した上でのことだった。
またいつもの迷子だと思っていたのに、2年もの間噂の一つも聞かず、ようやく手に入れた情報は、ディクルド失踪後すぐ厳戒態勢が引かれるようになった未開発地区に一人で向かい、結局戻っては来なかったというものだった。
アリスの中では、一つの希望と死という結末が渦巻いていた。
そのアリスの不安を察したからか、騎士団長は多く言葉を並べようとせず、結論から入った。
「結論から言えば、ディクルドくんの生死は不明だ。しかし、行方もまた不明。わかっているのは、ディクルドくんの血と思しき血痕の跡と、それが未開発地区に流れる川へと続いていたということだけだ」
アリスはその不明瞭な答えに、安堵した。少なくとも、まだ希望を持っていられることに、薄っすら涙まで浮かべて。
一方で、キャランベルは状況を良しとは判断しなかった。彼は騎士団長と違い未開発地区の真実を知らないが、現実となった建前を知っている。それを考えた上で、方向感覚が壊滅的な弟子が出られなくなった考えた上で、たった一人で2年もそこで生き続ける事の困難さを思った。
ディクルドの生存率は限りなく0に近いと。
「騎士団長、私達に未開発地区への立ち入りの許可を」
キャランベルは一刻も早く、その地へ行かなければならないと判断し騎士団長へと進言した。しかし、騎士団長は腕組みをして、首を横に振る。
「ダメだ」
「なっ、何故ですか!」
声を荒げたのはアリスだ。その横でキャランベルはグッと堪え、立ち上がったアリスを片手で押さえ椅子につかせた。
「師匠、何故でしょう? それ程までに未開発地区の状況は悪いのでしょうか?」
「悪い。……が、それは後数日で収まりを見せるはずだ」
「なるほど、その後でという事ですか」
キャランベルは騎士団長の言わんとする事を正しく理解し、アリスは話半分といったところだ。それは経験の差か、あるいは冷静さを欠いた差か、いずれにしろ数日後には未開発地区に踏み入る事が出来るというのが、アリスにとっては最も重要な事であった。
「さて、キャランベル」
「はい」
「お前には前線に出て貰う。この一週間以内に魔物の進行が必ず起こる。それに備え、待機しておけ」
「はっ」
第一級騎士の中でも頭角を現しているキャランベルをむざむざ遊ばせておく手はない。騎士団長は、次の進行に対する戦力に彼を加え、一方でまだ二級であるアリスには後方支援の任を与えた。
「ディクルドくんの消息について、私が得ている情報については、出発前に話そう。今は、進行を止める事にだけ精力を注げ」
「「御意」」
騎士としてその命令に敬礼を示しつつ、二人は天幕を後にする。
その後、二人は3日後に起こった千にも及ぶ魔物との戦闘に巻き込まれる事になった。
一方、その頃。
行方不明になったディクルドだが、彼はまだ生きていた。
未開発地区の奥地で、まだその命を繋ぎとめていた。
小さな国の領土ほどある未開発地区の中央。特に強力な個体が彷徨く場所で、人知れず彼は未だ戦い続けていたのだ。
「ハァッ!」
昼でも暗い森の中。そこで太陽の代わりのように光を発する少年。
血で黒く染まった剣。鎧も返り血で赤黒く染まっている。短く切り揃えられていた青髪は、ボサボサで土や血で汚れ、長髪へと変わっている。
4つ首の蛇を真っ二つに切り裂いた彼の剣。それを持つ手は以前のような両手持ちではなく、右手だけ。
左手の肘に括り付けられた木の枝から、片手が使えないのだと、推測出来る。
「ハァハァ」
息を荒くし、剣を地面に突き立てた彼の周りに転がっているのは、100を超える魔石の数々。微妙に形も色も違うそれらに共通しているのは、おしなべて大きい事か。
「とりあえず、今のうちに……」
遭遇した魔物の集団との戦闘を終えたディクルドは、息を整えるとすぐにその場から移動する。
木の太い枝を足場にし、高速で移動する彼の足元で、戦闘の音を聞き付けた魔物がチラホラと通り過ぎていく。彼は、時折ズキッと痛む左腕を右手で押さえながら、森の中を突き進む。
と、その時、鬱蒼とした木々の合間から、光が差し込むのが見えた。
「出口⁉︎」
思わずそう叫んだ彼が、その光に誘われ飛び出した先には──遺跡があった。
「えっ……遺跡?」
激しく荒らされた跡が残る遺跡。それが、この遺跡がまだ使われていた頃からのものなのかどうかはわからないが、何かが衝突したような跡や、大きく崩れた跡が残る遺跡だった。
「今日の寝床にいいかもしれないね」
遺跡自体に興味はなかったが、身を隠せるという意味で、そこは最適かもしれなかった。問題は、中が安全かどうか。
ディクルドは、木の枝から地面に降り立つと、遺跡の中へと足を踏み入れた。
遺跡の中は暗く崩れた外壁から差し込んだ光で、一部だけが照らされていた。遺跡自体の材質は岩を積み上げて作られたもので、長らく放置されていたその場所は苔や雑草などが入り込み、雨水で薄っすら湿っていた。
ディクルドは空間スキルを使い、その中を暫く歩回った。特に何も考えず、魔物がいないかどうかだけを確認して回った彼は、小一時間ほどその中を探索して、今日はそこで休む事に決めた。
「ちょっと疲れたな……」
毎日、毎日、気を休める暇もなく、魔物との戦闘を重ねてきた。寝る時までも、地面の中に魔法で穴を開け、まるで墓に入るかのように身を隠す日々。
食事は偶に出会う小動物の肉か、木の実だけ。飲み物は、魔法で作った容器に溜めた雨水。
だから、少しまともな寝床だけでも確保する事が出来て、ほんの少しだけ彼の心は安らいだ。
「みんなどうしてるかな……」
気を落ち着けると、思い出すのは、アリスやキャランベル達と過ごした騎士学校での日々。そして、レイや家族と過ごした穏やかな村での日々。
その記憶の中の日々を思い浮かべながら、ディクルドは夢の中へと落ちる。
また、そんな日が来ると信じて。
──それから一週間後。
進行してきた魔物の一掃が終わり、キャランベルとアリスの二人がディクルド捜索に向けて再び動き出した。
彼ら二人に与えられた時間はおよそ2週間。それ以上は食料の備蓄も持たず、また大規模な魔物の集団との遭遇が懸念される。
彼ら二人は、戦闘の疲れが完全に抜け切らぬまま、未開発地区へと足を踏み入れた。
彼らは未開発地区の地図を頼りに、ディクルドのいた最後の痕跡が残る川へと来ていた。
「この辺りか」
「はい。情報によれば、血の跡は下流に向けて続いていたそうです。つまり……」
「この川の上流に進んだという事か」
アリスとキャランベルは二人して同時に頷いた。
何故、下流に進んだ跡が残っているのに、逆の上流を目指すかというと、途中で方向が逆転したからに決まっているからである。
それにもし、何らかの奇跡で下流に進んだとして、その方向にはすでに何度も捜索隊が出ている。そのため、今から探したところで無駄に終わる可能性が高いのだ。
つまり、ディクルドの生存を信じるのならば、進むべきは上流という事になる。
二人は、川に沿って北へと北上した。その途中、何か痕跡が残っていないか注視しながら、注意深く進む。
すると、数時間歩いた先で、黒く焦げた石を見つけた。
「これは、焚き火の跡か?」
「それか、戦闘の跡ですね。やっぱり、ディクルドくんはこの方向に進んでいたんです」
「アリス、今の位置はどの辺りだ?」
地図を取り出し、現在位置を確認するアリス。川を指で辿り、おおよその移動距離を見積もると……
「未開発地区の西部、その中間地点かと」
広げた地図の左端の丁度真ん中あたりに指を置いたアリス。キャランベルもその地図を上から覗き込み、アリスの差した場所からツーと指を滑らせた。
「西と南は消えた。残るのは北か東だが、ここから東にある遺跡に馬鹿弟子がいる可能性が高い」
「えっ? 何故ですか?」
キャランベルの推測は正しかった。しかし、アリスにはその理由がハッキリとはわからなかった。
「あいつは馬鹿ではないからだ。もしもここで生き長らえているのならば、どこかに拠点を作っている可能性が高い。そうなると、地図を見た限り、その可能性が高そうな場所は、ここ以外にない」
トントンと遺跡の場所を叩き、推測の根拠を述べたキャランベル。アリスは深く頷くと、ディクルドに近付いているという実感を感じながら、地図をしまった。
そうして、二人は川を離れ、森の奥へと足を踏み入れた。
〜〜〜〜
ザーと雨が降りしきる夕方。もう4日も降り続ける雨が止むのを、ディクルドは遺跡の中でジッと待っていた。
手元に残る食料の数も残り少ない。降り続ける雨のお陰で飲み水には余裕があるが、そろそろ食料の確保に向かわねば厳しい頃合いだ。
ただ、冬に雨水に濡れて体を冷やすのは、危険だ。ここには風邪薬はもちろん、体を温める毛布もないのだから。だから、出来るだけ雨に濡れるのは避けなければならないのだ。
だが、雨宿りしている遺跡に空いた穴から、水が中に入り込んで来ている。だんだんとそれは広がり、ディクルドが身を落ち着ける場所も少なくなってきていた。
そこでディクルドは、この遺跡の奥へと進んでみる事にした。遺跡の奥ならば、雨が入り込んで来ないかもしれないし、ただ雨をしのぐだけでやる事もなかったからだ。
昔ならばこんな時、ひたすら剣を振るっていたが、今は左手が折れてしまっているし、他にも怪我は残っている。こんな状態では、修行をする気にもなれないのが本音だ。むしろ、魔物が襲ってきた時のために力を蓄えておく事が大切なのだ。力を使い果たした時に、魔物と遭遇しては元も子もない。
ディクルドはもうガタガタに刃こぼれした剣を支えに立ち上がると、遺跡の奥へと入っていく。ここ数日、ここで寝泊まりしていたため、奥へと進む道の場所は分かっている。
だから、迷う事なくそこを下り、適当に探索しながら奥へと進んでいく。
そうして、半日ほど遺跡を彷徨ったディクルドは、背中に嫌な悪寒を感じていた。
進んではいけない、そんな感覚を覚えながらも、危険があるのなら調べておきたいという気持ちが、彼の足を動かし続けた。
そして、彼はボロボロに風化した石の扉に辿り着いた。微妙に閉じていないその扉の向こうから、まるで闇が這い出て来ているような錯覚を覚える。
その時、彼の頭の中に思い浮かんだのは、巨人の長の言葉だった。
──『呪い』
彼はそう呼んでいた。それが、今自分の立つ場所の向こうにあるような気がして、ディクルドは石の扉に手をかけるのを躊躇った。
「……ビビってどうするんだ、ディクルド・ベルステッド。呪いが本当なら、どうにかするのが僕の仕事じゃないか」
だが、彼は怖じ気付いた自分を叱責し、右手を伸ばす。そして、掌をベタッと石の扉につけ、押した。
グググッと床との摩擦で音を立てながら開いていく扉。その先に、あったのは地下牢であった。
だが、そこがただの地下牢でない事は、強っまった何かの気配が、証明している。
──ポチャ……
水滴が落ちる音。とても小さく聞き逃してしまいそうな音だったが、耳澄ませばそれは、さらに奥から聞こえてくる。
ディクルドはその音を頼りに、地下牢を奥へと進んでいく。幾つもの分岐路を曲がり、錆びた鉄格子の前を通り過ぎながら、彼が辿り着いた場所には、水が染み出していた。
天井から落ちる水滴がその下の水溜まりに落ち、水滴音を奏でる。水溜りが出来ている場所は、剥き出しの地面で、わざとそこだけ掘り返されたような感じだ。そして、それが人の手で掘られた穴である事を証明するように、そこには物が置かれていた。
いや、正確にはそこに置かれていたのは──邪神の結晶だった。
だが、ディクルドはそれを見抜く知識を持ち合わせていない。ただ、ビンビンと伝わってくる形容しがたい悪寒から、それが呪いの原因だと判断し、取り除こうと迂闊にもそれに素手で触れてしまった。
「あがっ……!」
途端、襲い来るのは全身を貫く激痛。右手から何かが入り込んでくるような感覚と、それが自分の体の中で暴れ狂う痛み。それはディクルド自身の意識さえ飲み込まんとする。
「あ、あぁぁーーーーッ‼︎」
結晶から手を離し、頭を抱えのたうち回るディクルド。頭の中に虫が入り込んだように、何かが彼の頭の中を蠢めく。
──…せ
──殺…
──殺せ
──殺せ殺せ
──殺せ殺せ殺せ
それは次第に声になり、そして、大きくなる。
暗く黒い、深淵からの悍ましい叫び。
ディクルドは残った意識で、それから逃れようとその場を転げまわり、頭を床へと叩きつける。だが、やがてそれに抗う事すら出来なくなるほどに、彼の心は黒く塗りつぶされていく。
「あぁぁぁぁあ‼︎」
彼の精神が完全に堕ちようとする断末魔叫び。
それと同時に立ち上がる暴走した精神の浄化作用。真っ黒な全てを飲み込まんとする深淵の影が立ち上る。
「ハァハァ」
息を切らし、地面に這い蹲るディクルド。顔は汗でべっとりで、目を焦点が合っていないのか、虚ろだ。
だが、彼がそんな状態の中でも、意識を保っていたのは、彼の前に人の形をした『何か』の姿があったからだ。それも先の結晶から感じたものと同種の気配を放つ『何か』が。
「君は…………誰だ?」
何とか膝を立てたディクルドの問い掛けに、『何か』は答えない。闇の中から生まれたように黒い体。まるで、そこだけ景色に穴が空いているかのように、黒い。そのため、人の形をしているわりに、顔があるのかも定かではなかった。
だが、『何か』はディクルドの問いに答えるように、笑ったのだ。顔の表面に三日月型の穴が開き、奥の景色が顔に入り込んだ。
ディクルドはそれを見て、会話は不可能と判断し、震える手で、剣の柄を握った。そして、それを抜こうとした瞬間、『何か』が動き出す。
グッと手を前に伸ばし、ディクルドの首を掴み上げ、そのまま近くの壁へと叩きつけた。
「ゲホッ!」
グニャグニャとまるで蛇のように曲がる腕は、ガッチリとディクルドの首を捕らえ離さない。グッと首に掛かる圧力が増していく中、ディクルドは左目だけを開けて、『何か』の姿を見た。
いつの間にか『何か』はディクルドの前まで移動してきており、顔は笑っている。
ディクルドは咄嗟に抜こうとしていた剣を今度こそ抜刀した。そして、壁に押し付けられ宙吊りにされたまま『何か』の体を真っ二つに切り裂いた──はずだった。
「なっ……!」
しかし、振り切った後の手に残っていたのは、剣の柄と僅かばかりに残っていた刃だけだった。
カランカランとその先に付いていたものが、地面に落ちる音がする。
と、その瞬間、ディクルドは腹を貫かんとする痛みに襲われた。
バキバキッと骨が軋み、背中の壁が崩れ去る。
そして、ディクルドは殴られた勢いそのままにその奥の部屋に吹き飛び、地面を転がった。
「グフッ……」
口から血を吐き、動きを止めた彼の前に、『何か』がゆっくりと迫る。視界はもはやボヤけているのに、何故かその黒い影のような姿だけはハッキリと見える。
「まだ……だ……」
震える足を無理に動かして、フラつきながらも立ち上がったディクルド。それを見て、影はまた笑う。それがディクルドには不気味で仕方がなかった。
それに恐怖したわけではなかったが、彼の足の力がスッと抜け、バランスを崩し、彼は後ろへと倒れた。
その時、倒れる瞬間、何かがディクルドの右腕に触れた。
「えっ……?」
思わずそれが何か確かめたディクルドの目に止まったのは、一本の美しい剣だった。
闇の中で蠢めく影とは対照的に、暗闇の中でも白く光るその剣は、美しくそれでいて、これまで見たどの剣よりも存在感があるそんな剣だった。
ディクルドはその白い剣に、無意識のうちに手を伸ばす。
一方で影は、焦ったようにその黒い手をディクルドに伸ばす。
速かったのは、ディクルドの伸ばした手であった。
白い頭身の先。紋様が掘られた柄に触れた瞬間──光が弾けた。
激しい極光がディクルドを包み込み、闇は断末魔の悲鳴をあげる事なく、一瞬にして消え去った。
光は氾濫はそれだけに留まらず、遺跡を貫き、天高く登り詰める。
「キャランベルさん、あれ!」
「行くぞっ!」
それは、ディクルドの捜索をしていた二人の目にも止まり、それだけに留まらず、騎士団、街、そして、国を超えて、その光の柱を届けた。
それは、合図だったのだ。
遠い空の彼方で眠る彼が、その知らせを受け取れるように。
「──新たな勇者の誕生だ」
永久の眠りからの目覚め。
それは、二つのうち一つ。
彼の覚醒を促す合図だった。




