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139.死神を追え

 

 眩ぶしいの光の氾濫。起き抜けの目には少しばかりキツイ。

 スッと瞼を開けると、光に誘われ入ってくる外界の景色。焦点がボヤけ、色が混在する世界の中で、覚醒したばかりの意識は、彼女の姿をつい探してしまう。


 淡い期待が胸によぎりーー


「……なんだお前か」

「目が覚めて早々、酷くないですか⁉︎」


 金髪カールの少女は、涙目で反論した。


「いや悪い悪い。悪気はなかったんだ。つい思った事が口に出てしまって……」

「なお酷いです! っというか、口にする時点で悪気ありますよね⁉︎」


 なおも抗議するルーシィに、俺は笑って誤魔化すと、周りに目を移す。

 ルーシィ、シルビア、ハク、ルクセリア、そして、春樹と如月。みんなピンピンしてる。


「よかった、みんな無事か」


 ノルドの言った事を信じていなかったわけじゃないが、不安はあった。だから、みんなの無事な姿を見ると、安堵が込み上げてくる。

 そんな俺にシルビアが。


「無事でなかったのは、あなただけよ」

「だろうな」


 シルビアの指摘に適当な返事を返しつつ、甘えてきたハクの喉をコショコショっと掻いてやる。一番気掛かりであったハクも見た感じ体調は良さそうで、加護が抜けた影響は残っていないようだ。弱っちくなってる可能性は残っているが……


 と、ハクを撫でる俺に、尚も続けるシルビア。


「だろうなって……あなたどれだけ自分が重症だったかわかっているのかしら?」

「まぁ、なんとなくは」


 回復系統の才能がからきしな俺には、何となくでしか怪我の重さを感じられない。

 ここが痛い。けど、何で?

 そのレベルだ。回復魔法の才能だけは皆無なのだ、俺は。


「アークティアには優秀な魔法使いが多い。だからこそ助かったけれど、その偶然がなければ貴方は死んでいたでしょうね」

「へぇ〜」


 まぁ、助かったんだからいいじゃないか。終わり良ければ全て良し、という言葉もあるくらいだ。

 大事なのは、全員が無事だったという結果だ。多少死にかけた事など、目を瞑ればどうって事はない。


「旦那、体に異常はないか?」

「ん〜、ありまくりだな」


 少し肩を回してみたが、それだけで痛みが走る。動けないほどではないが、完治とは言えない状況のようだ。


「そうか。治癒術師の話では、1ヶ月は休養するようにとのことだ」

「えっ? 長くね?」

「そうなのか?」

「いや、聞き返されても……」


 えらく長いな。シャルステナに治癒してもらった時は、最長二週間程度だったのに。

 そんなに怪我の重さに差があったのだろうか?

 まぁ、俺にはわからないんだが……


「普通じゃないですか? 骨折でも完治には、一週間はかかりますし、臓器まで傷付いていたんですから」

「へぇ、そうなのか」


 知らなかった。

 シャルステナはそんな事言ってなかったけど、完治するまで思ったよりも時間がかかるんだな。まぁ、ギプスをはめるわけでもなく、一週間で骨折が完治するなら、十分だけどな。

 と、そんな感想抱いた者が俺の他にも二人。


「この世界だと骨折し放題だな」

「その考えはどうかと思うが、春樹の言う事も一理ある。私達の世界だともうちょっと時間がかかる。動かせないのが、何より不便だ」

「魔法様々だぜ」


 二人のそんな会話に疑問を抱いたのは、ルーシィだ。


「お二人の世界では、どうやって治すんですか?」

「そりゃあ、固定したり、手術したり方法は色々あるんだが、どれもこっちより時間がかかっちまうんだな、これが」

「シュジュツ……? 人体実験の事ですか?」

「何、その怖い想像……」


 ルーシィの返しに、春樹はドン引きだ。如月は苦笑いしてる。概念がないものを伝えるのは、難しいようだ。こちらの世界では、わざわざ人の体を切る必要もなく、魔法を使って体内を見れるし、治せる。そう考えれば、怪我人には何とも有難い世界だ。


「さてと、それじゃあ……あれ? グールとセシルは?」

「セシルについては知らないが、グールならば皇帝陛下と剣の稽古に出掛けた」

「はい?」


 セシルが行方をくらますのはいつもの事だとして……そういえば、あいつこないだの戦いの時も、いつの間にか姿がなかったな。もはや気配がないから、存在感がないになりつつあるんじゃないか?


 まぁ、それは置いといて、皇帝とグールが二人で剣の稽古に出掛けたというのは、どういう事なのだろう?

 ……暇なのか、皇帝?


「どうも皇帝陛下は、グールの事をいたく気に入られたようだ」

「なんじゃそら……」


 若干面食らったが、そっちは後回しでいいか。先に用事を済ませよう。


「セシル、いないのか?」

「もちろんいるとも」

「「「………………」」」


 返ってきた返事に対して、示し合わせたかのようにみんな無言だった。もう慣れたらしい。


「セシル、もう一つの方は順調か?」

「もちろんだとも。あと2週間といったところか」

「そうか。けど、前のような事はもう勘弁だぞ? こっちは怪我人なんだから」

「案ずるな、主よ。次の主役は主ではない」

「何か起きるのは確定かよ……」


 俺は一つため息を吐くと、手をグーパーする。震える指先。骨が軋む感覚。これではまともに剣も振れない。

 ……どのみち今の俺じゃ無理か。怪我があろうがなかろうが、今のままじゃ死ぬだけだ。


「まぁ、大事にはしないでくれよ」

「主よ、事は起こるして起こるのだ。例えば今回の魔人騒動。私が動かなければ、最悪の場合帝国が滅んでいたであろう。しかしだ。私が幾ら情報を操作しようと、いずれは事が起きていた。遅いか早いかの違いだけなのだよ。むしろ、被害は少なかったと思うがね」

「わかってる、そんな事は。ただ、報告だけはしてくれ。いきなりは御免だ」

「ククッ、了承した」


 今回は途中、俺の意識がなかった事もあって、セシルの計算に狂いが生じた点は否めない。もしも、俺の意識がずっとあれば、俺も勇者達と行動を共にしていたはずだからだ。頭のネジが抜けている事は間違いないが、そういう理由もあって、あまり強くは言わなかった。


「それで、殺人鬼の情報は?」

「ふむ、それがまったくわからないのだよ。おそらく街に立ち寄ってはいないのだろう。ただ……」

「ただ?」


 もったいぶったセシルの言葉を繰り返し、続きを促した。


「死神らしき存在の目撃情報が多発している」

「死神? それは、あれか? 神のくせにフラフラしてるっていう?」


 その死神の情報が必要か、必要ないかで言えば、必要だ。妖精神の言葉を伝えなくてはならないし。

 しかし、何故殺人鬼の情報に付随して死神の名が出るのかわからない。一聞して、まったく関係ないように思える。


「キッチックさん、そんな不信な事を言ったら、死神に殺されちゃいますよ?」

「おっかねぇ神だな。俺の合った神はみんないい人ばかりだったぞ?」


 邪神を除けばだが、まぁ、会ったことにはならないか。その魂の欠片とやらは持ってるが。


「キッチック、あなた神にお会いした事があるの?」

「竜神と妖精神だけな」

「ということは、あなた7大秘境の二つを……」

「クリアしたな。まぁ、正攻法じゃないかもだけど、それは置いといて……」


 離れかけた話を無理矢理に軌道修正して、


「何で死神が殺人鬼の行方に絡んでくるんだ?」


 疑問に感じた事を言葉にした。


「旦那は死神の神話を知らぬのか?」

「悪いことする子には、死神が殺しにくるぞ〜って脅す子供騙しだろ? 知ってるよ」


 ナマハゲ的な神話だろ?


「いささか幼稚ではあるが、概ねそのような話だ。ただし、それは子供騙しではない」

「えっ? マジで殺しにくんの?」


 リアル死神じゃん。子供泣かすレベルじゃないじゃん。単なるホラーじゃん。


「過去、何度かあった事だと私は聞いている」

「わ、私……少し御手洗いに」

「結衣、お前怖くなったんだろ?」

「ち、違うっ! よ、余計なことを言うな、春樹っ!」


 顔を恥ずかしげに赤く染めながら、如月は逃げるように部屋の外へ。


「あっ、如月」


 と、そこへ何か思い出しかのように俺はその背中に声をかける。


「背中に気を付けてな」

「ひっ……」


 ゾゾゾッと顔を引き攣らせた如月。視線が部屋の外と中を行き来し、結局、そのまま黙って元いた場所へそそそっと戻った。俺と春樹は笑いを堪えるのに必死だった。


「如月が死神に殺されるような何かをしたから死神の目撃情報があるかは置いといて……」

「ち、違う! あれはほんの出来心だったんだ! いい匂いがして、つい……!」

「……まぁ、如月が太りつつあるかはほっといて……」

「ふ、ふ太らない! ちょっと摘んだだけよ! 低カロリーだから!」


 俺は涙目になって必死に反論する如月から、わざとらしく目を離し、セシルへと向けた。プククッとフグのように膨れた顔で如月の肩をポンポンする春樹の顔が面白い。

 それを見て、キィー! っと怒り出した如月と春樹の取っ組み合いを意識の外へ投げ出しつつ、聞いた。


「つまりセシルは死神の目的が、殺人鬼だとでも言いたいわけか?」

「まさにその通り」

「なるほど……確かに、目的としてはおかしくない気がするが、死神がどうやって殺人鬼を追ってるんだ? セシルでも情報が掴めないってのに……ルクセリアはどう思う?」


 死神という存在について多くを知らない俺としては、根拠が薄い気がしてならなかったが、思慮深いルクセリアに意見を求めた。


「私としては、セシルのいう可能性は大いにあると思う。根拠としては、死神は闇の者に裁きを与えることを神意としているということと、その力が未知数であることだ。何か神にのみ許された特別な技法をもって、追跡してると考えられなくもない」

「なるほど……」


 ルクセリアの見解に俺は、頷いて納得を示す。

 確かに、神の力は未知数だ。それについて幾ら考えたところで、答えではない推測しか出てこない。そして、その推測の中に、ルクセリアの言う追跡術とやらがあってもいい。

 根拠は薄い。それに、裏付けもない。だが……


「よし、死神を探しに行こう」


 妖精神との約束もあるし、何より神に頼る以外、今の殺人鬼への対抗手段は思い付かない。このまま放置するのはあまりに無責任だし、正直、あいつは親父でも勝てるか怪しいと思う。

 俺は親父の本気をまだ見た事はないから、確実なところはわからないが、あのスピードを出せる相手に必勝とはいかないだろう。


 ならば、死神に頼むしかない。死神が本当に殺人鬼を追っているのかわからない今、確認と情報提供の意味を込めて会いに行くしかない。話を聞いた限りじゃ、目的は悪い奴に裁きを与えることのようだし、きっと聞いてくれるだろう。


 問題はどうやって見つけるかだが……


「セシル、一緒に来てくれ。お前の力が必要だ」

「クククッ、了解した」

「それと、ハク。俺、体調が万全じゃないから、お前の力も借りたい」

「ピィィ!」


 セシルは向かった先での情報収集、ハクは移動のために必要だ。


「ルクセリアは、奥さん達と過ごしたらどうだ? 戦闘になる事もないだろうし、帝国の傘下に入るか見に来たんだから、今のうちにこの街を見とけよ。帝都以外の場所はまだ碌に見ていないだろう?」

「ふむ、そうだな。では、旦那の言葉に甘えるとしよう」

「他は……俺が口を出す事じゃないからな。まぁ、みんな用事があるだろうし、今回は俺たちだけでパパッと行ってくるわ」


 ついて来たところで何か出来ることが増えるでもないだろうしな。


「さて、じゃあ行くか」

「……水を差すようだけど」


 早速向かおうと、ベットから立ち上がると、シルビアが遠慮しがちに口を挟む。


「安静にしてなくていいのかしら?」

「シルビア……俺が安静に出来ると思うか?」

「出来ないと思うわ」

「……即答じゃなくて、少しは考えてほしかったと言っておこう」


 そんな望み薄の希望を口にしてから、俺たちは街を出た。



 〜〜〜〜



 アークティアを出た後、俺たちは死神が目撃された中で最も近い街に立ち寄った。そこで、直接死神に会ったというより、裁きを受けた者から話を聞くことが出来た。

 裁きを受けたのは、若い冒険者であった。彼の話では街を歩いていた時に、突然悪寒に襲われ振り向いたところ、黒と白を基調としたスラリとした男が立っていたそうだ。その男は大鎌を背負い、顔は痩せ細っていたらしい。

 男は言った。


『神の裁きを与える』と。


 そして、次の瞬間には、首を大鎌で掻き切られていたらしい。死んだと思ったそうだ。

 しかし、男性冒険者は生きていた。切り落とされたはずの首は繋がっており、傷もなかったそうだ。


『善行を積んでいるようだな』


 それで終わりだったらしい。死神であると思われる男の姿はまばたきをした間に消えていたらしい。


 初めこの話を聞いた時、こいつ寝惚けてたんじゃないかと本気で思ったが、その後寄った街や村でも、皆同じ事を話すのだ。そして、首を切られたと口にするのは、必ず冒険者か帝国兵。その数は100を超えた。


 そして、逆に首を切り落とされた奴も見つけた。


 首を切り落とされたのは、悪どい商売をする商人の男だった。しかも、セシルが調べたところ、魔人騒動の首謀者アイリスと繋がりがあったらしい。

 彼の店の系列に勝手にお邪魔したところ、商品の中には邪神の加護を含む物が置かれてあった。


 俺はこの時確信した。

 死神の裁きは本物だと。

 

 何が基準かはわからないが、善と悪を見抜き裁きを与えているのだと。

 そして、恐らくだが、死神が立ち寄った街や村の全員が首を切られたわけではない事から、何か首を切られた者には共通点があるのではないかと考えた。


 その時にまず出てきたのが、邪神の加護という推測。数が数だし、冒険者と帝国兵だけというのが気になった。アイリスが邪神の加護を含む水をポーションや解毒薬として街に流していた可能性があることは頭にあったため、すぐに彼らの中には邪神の加護が蓄積していたのではないかと考えた。

 決め手は裁きで殺された商人。アイリスと繋がっていたという事は、邪神の加護を身に含んでいた事は十分に考えられる。

 そして、生と死を分けたのは、自らそれに手を伸ばしたか、否かの違いだと考えた。


 所詮は推測だ。たが、過去の行いの善悪を決め、神の采配で人を裁く。そんな力があるのなら、死神の名を冠するに相応しい力だ。


 この死神は本物だ。


 そう確信してからは、死神捜索にも一層力が入る。

 所在不明で、居所が掴める事など滅多にない。こんな風に邪神の加護がばら撒かれていなければ、俺たちの耳にその存在の手掛かりが入る事もなかっただろう。

 妖精神の言葉を伝えるには、今しかない。


「ピィィ」


 ハクの尻尾に括りつけられたロープの先で、風に強く仰がれながら、俺はハクの報告に頷いた。俺の横では同じくセシルがロープに繋がれ、空中散歩を堪能しているが、彼は実に楽しそうだ。クレイジー一派の一員なのかもしれない。俺? 俺はもちろん一員だよ。だって楽しいもん。


「ピピィ!」

「もう街が見えたのか。速いな」


 ハクは街が見えたよと報告してきた。一つ前の街を出てから1日と立っていないのに、もう次の街に着いた。

 流石に速いな。


 ハクの調子は絶好調であった。恐らく奪われたであろう邪神の加護も元に戻り、以前と変わらぬ姿だ。たぶん奪われた分は竜神から補給でもされたのだろう。


「じゃあ、ハク。いつものようにやってくれ」

「ピィィ!」


 ハクの元気のいい返事と共に、ハクの体が急速に停止する。すると、慣性に従い俺とセシルはハクの前方へと流され……


「「グヘェ!」」


 二人してピンと伸びきったロープから腹にかかる重圧に呻き、俺たちはブランブランと空の上で宙釣りになる。

 そして、ゆっくりと下降し始めるハクに連れられ、真下の山の麓に降り立つ。


「主、毎度毎度の事だが、どうにかならぬのか?」

「……後で考えるよ」


 確かにこのやり方だと飛んでる時はいいのだが、離着陸時にかかる負荷が大きい。具体的には、腹に。

 現状のハク便に乗る際は、ご飯を食べてから乗ってはいけないのだ。リリースしてしまう。


「ま、それは後で考えるとして、ここが最後だろう? 何か死神の行き先に関して情報があると助かるな」


 今のところ、死神の行き先に関しては何ら情報がなかった。セシルの腕を持ってしても、集まるのは死神が死神であるという情報だけで、それ以外に居場所の手掛かりになるものは何一つとしてない。


「さて、最後の情報提供者に期待して行きますか」


 そう、括り付けたロープを解いて言った時だった。


 ドガァァォォォォォ‼︎


 天地を揺るがす轟音とほぼ同時に、どこかで爆発が起きたかのような衝撃が届いたのは。


「くっ……」


 体が吹き飛びそうになる爆風が、雲を搔き消し、周囲の木々の葉を散らせる。それだけにとどまらず、大地が揺れ近くの山が一部崩落し、鳥が一斉に空に飛び上がった。

 一方、俺は両手をクロスし、その爆風を受け止めていた。怪我が祟り骨が軋む中、ハクは俺の体にしがみ付き、セシルは紙のように飛んで行くのが見えたが、それをカバーする余裕はなかった。

 しかし、幸いにもそれは一瞬で、体が根を上げる前に落ち着きを取り戻した。


「なんだ今のは……」

「主、今のではないのか? こんな事が出来るのは、死神と殺人鬼以外おらぬだろうよ」


 などと何事もなかったのように戻ってきたセシル。俺もツッコミはせず、話の流れに乗っかる。


「ひょっとして、今ぶつかってるのか?」


 どこで起きたかもわからない戦闘の余波で体が吹き飛ぶ。常軌を逸してると、言わざるを得ない。目の前で爆発が起きたのかと錯覚した程だ。


「行くぞ。爆発の中心はどっちだ?」

『向こう。血の匂いがするよ』

「よし、巻き込まれない位置まで近づくぞ」


 そうして、今度は少しスピードを落とし、ハクの背中に乗って、爆心地に向けて飛び立った。ロープに繋がれた状態だと万が一の状況で何も出来ないからな。


 そうして、ハクの背に乗ること一時間。

 俺たちは激しい戦闘痕の残る場所へたどり着く。


「ここって……大陸橋のあるところだよな?」

「そのはずであるが……これは酷い有り様であるな」


 俺たちの眼下には、大地から僅かに伸びた橋と、その手前にあった小さな街の変わり果てた姿だった。

 まるで雨のように空から降ってきたとでも言うように、周囲にばら撒かれた橋の残骸。それは、海だけでなく、街中にまで及び、その瓦礫により押し潰された建物には、今も尚救助の手が差し伸べられている。一方、橋の先の海には、行商人達が運んできた商品と思われる様々なものが浮かび、まるでゴミ箱の中身をブチまけたようにも見える。その中には、助けを求める人の声も混じり、おそらくは大陸橋を渡っている最中に巻き込まれたのであろう事はすぐにわかった。

 また、街の海辺には多くの怪我人と、彼らに手を貸すずぶ濡れの人の姿もある。その彼らの顔は恐怖と悲しみに埋め尽くされ、中には震えが止まらぬ者もいるようだ。


 と、そこでこちらに気が付いた者が、ハクを見て悲鳴をあげる。


「り、竜だ!」


 その声に、人々は空を見上げ、街のあちこちで悲鳴が鳴り響く。


「まずいな……ハク、今すぐ小さくなれ。セシルは俺に捕まれ」

「ピィィ!」

「了解した」


 小さくなったハクは俺の頭の上に、セシルは俺の脇で死んだ魚のようにぐたりとへばる。

 そして、俺は固定空間を使い、ゆっくりと高度を下げて、街の真上に立つと……


「聞いてくれ、俺たちはあんたらの救助にきた!この竜は俺がテイムした竜だ!あんたらに危害を加える事はない!」


 街全体に伝わる大声で、敵意はないことを示す。だが、それでも怪しむ者がいないわけではない。

 現状、ハクが小さくなった事で、初めほど恐怖を抱いている者はいないようだが、突然現れた怪しい団体である事に変わりはない。

 だから、俺は少し正体を明かす事にした。


「俺の名前はレイ! 去年の武闘大会優勝者だ!」


 本当は明かしたくはなかったが、背に腹は変えられない。武闘大会は、この大陸を超えて世界でも有名な催しであるので、その大会の優勝者ならば、知名度も高いはずだ。案の定。


「嘘だろ……? だって、こんなところに、武闘大会優勝者が……」

「いや、けど名前もあってるぞ。それに、竜をテイムしたって話も聞いたことがある」

「えっ? じゃあ、本物? 空に浮いてるし……本当にあの千年に一人の鬼才に勝ったっていう……」


 足元の街では、そんなやり取りがあちらこちらで繰り広げられ、1分も経たない頃には……


「「「うぉぉぉぉお‼︎」」」


 大歓声だった。

 落ち込みがちであった雰囲気も一新され、少しだけ彼らの中に希望が芽生える。


「聞いてくれ! 俺は今から橋から落ちた人を助けに行く! 泳ぎに自信のある者で、まだ元気な人はいないか⁉︎」

「俺は元気だ!」「俺も!」「私も!」


 多くの人が手を上げ、名乗りをあげる。


「なら、力に自信がある奴は、街中の救助に! そうじゃない奴は、これに乗ってくれ!」


 俺は、そう言うと収納空間の中から、船を取り出した。あまり大勢の前で披露したくはなかったが、まぁいい。力を隠したところで、大した意味はないのだから。


 俺が取り出した船は、かつてウェアリーゼに運んで貰ったものであった。それを、修理というか改善し、何とか浮かぶ事が出来るように作り直したものだ。


「ハク、きついかもしれないけど、頼めるか?」

「ピィィ!」


 ハクは任せてと元気よく飛び上がると、体を大きくして船の横に降り立つ。


「さぁ、乗ってくれ!」

 

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