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140.新たなユニークスキル

 崩落した世界で最も長く大きな橋。長らく帝国の商業を支えてきた大陸と大陸を繋ぐ橋は、二人の争いによって海の藻屑と化した。

 多くの人がその橋の上にいた中での惨事。橋だけでなく、その人たちもまた海の藻屑と化そうしていた。


 そんな彼らの救助へと飛び立った俺たちは、大陸橋の残骸として残る柱の近くで、船に乗せた人々を下ろし、その周囲の人を救出してもらう事にした。それは、第一に効率を考えたからだ。


 海には危険が一杯だ。潮の流れや、魔物の存在。自力でどうにか出来るのは少数で、どうしても救助の手は必要となってくる。

 しかし、大陸を繋ぐ橋ともなれば、それなりに長い。それこそ、大きな船で行き交う程には。

 だから、手分けしなければ、多くを救う事など出来はしない。そうなると、必要となるのは救助の拠点となる場所。それが、大陸橋を支えていた橋の残骸だ。


 幸いにも柱の周りは殆どが平らな陸地となっており、小さな島のようだった。そのため、そこを中心として救助をする事にした。

 救助には泳ぎが得意だと言う人に、ロープを使ってもらう事にした。潮に流されないようにする為だ。さらに、海の魔物に対して、魔法や弓などの遠距離攻撃の手段を持ち合わせた人も、出来るだけ均等に分けていき、自力で這い上がってきた人にも、手伝ってもらった。


 そうして、救助の範囲をユーロリア大陸側に向けて広げていったが、大陸と大陸の中心には陸地が殆どなかった。おそらくは死神と殺人鬼が衝突した衝撃で吹き飛んでしまっていたのだろう。そのため、そこで船を下ろし、救助を行わざるをえなくなった。


 そうすると、人を移動させる手段がなくなり、それから先は、自由に空を飛べる俺とハクが救助に回る事になった。

 俺はユーロリア大陸から中心部に向けて、ハクはその逆から救出を行った。それは、大陸側の方が比較的に救助の手が進んでいると考えたからだ。


 両手両足20本の爪を自在に操り、さらには背中に人を乗せられるハクは、俺よりもはるかに効率よく人を助ける事が出来る。俺は先日に身に付けた触手を使って救助を行ったが、まだまだ長時間の運用には慣れておらず4本が限界で、さらには一々陸地に人を移動させなければならなかったため、どうしても時間がかかってしまう。


 だから、ハクの存在はこれまでにない程に大きかった。おそらく俺の10倍の数は、人を助けただろう。

 ただ、悲鳴が止む事はなかった。

 事情説明のためハクには、人であるセシルをつけていたのだが、余り意味はなかったらしい。やはり、こういう時は怪しい人より、美少女だったりする方が、人は安心出来るのだろう。まぁ、爪で絡め捕られたら、悲鳴を上げてしまうのも仕方のない事なのかもしれないが……


 それはそれとして、人の手はなくとも、竜の手があったお陰で、かなりの数が魔物の餌食になる前に助かった。

 俺は救助の傍、空間で感知した魔物を退治したりして被害を減らしハクの援護をしたが、それが功を成したかは微妙なところだ。正直言って、赤く染まった海面を見たのは、一度や二度ではなかった。


 救助活動は夜になっても続けられた。海に落ちた人で、生きていた人はほとんど助ける事が出来たが、命を救うことを優先したため、橋の残骸の上に多くの人が取り残されていた。

 それを、救助がひと段落した後に、ハクに運んで貰ってと、ハクには本当に頑張ってもらった。その頑張りは、俺だけでなく皆が認めるところで、全員を街に連れ帰って頃には、『救済の黒竜』という名で感謝されていた程だ。


 そんな大忙しの1日を終えた次の日。


 その日もまた俺たちは忙しい日々を送っていた。というのも、街の被害もまた甚大で、俺は多少の建築技術というか、建築魔法があるため、復興の手伝いをすることにしたのだ。

 まぁ、ユーロリア大陸側にも街があるため、二つの大陸を行き来して、こちらも丸一日かけて復興した。

 この世界の街がどんどん俺風のものに変わっていくなぁ……


 それがいいのか悪いのかは俺にはわからないが、建築が終わる頃には、俺にも新たな二つ名が付いていた。


『建築魔法使い』と。


 ツッコミどころがない二つ名を俺にもください、と叫んだのは言うまでもない。



 〜〜〜〜



 俺にまた変な二つ名が付いた次の日、俺はどうせまたおかしな称号が増えてるんだろうなと思いつつ、ステータスプレートを見てーー絶句した。


 名前:レイ

 種族:人間(大人)

 年齢:14歳

 レベル:38

 生命力:13456

 筋力:6123+200

 体力:6435+200

 敏捷:6326+500

 耐久:5849+220

 器用:3459+400

 知力:4536+50

 魔力:48632+2060


 通常スキル

「皮剥き」レベル5:皮を剥ぐ技術が向上。


 希少スキル

「神速」レベル2:敏捷上昇(極大)。


 仙魂スキル

「異空間生成」レベル1:異空間を作る。異空間には、使用者と使用者が認可した者のみが移動可能。また、生成される異空間は使用魔力に依存する。

「歪曲空間」レベル1:空間を捩じ曲げる。

「魔伸縮」レベル1:魔力を伸縮させる。

「魔力物質化」レベル1:魔力を物質化させる。


 魔法スキル

「空間魔法Ⅴ」レベル1:魔力上昇(極大)。空間魔法の操作性と威力が上昇。

「氷魔法Ⅳ」レベル1:魔力上昇(大)。氷魔法の操作性と威力が上昇。


 固有スキル

「死者の声」レベル9:死者の声を聞き、その思いを聞き届ける。


 称号:「皮ムキーナ」「創世神の加護Ⅲ」「建築魔法使い」


 ………………。


「何じゃこりゃあッ⁉︎」


 ほんとに何じゃこりゃだった。


 なんか勝手に進化してるんだけど⁉︎

 創世神の加護Ⅲもあるし……もしかして、魂が合成された時に進化したのか?

 なんて勝手な……経験値貯めようと思ってたのに。


 それにしても、もうレベル38か。身体能力が数値にしてどれも1500ぐらい上昇してるし、魔力に至っては一万以上増加している。

 これがノルドの言っていた、あいつが俺にくれたものなのか?


 しかし……これは、体が治ったら慣れるところから始めないとマズイ。

 今の俺は、現状のスペックを活かしきれていないに違いない。意識から変えていかければ。


 それと、この大量に増えたスキルはどうしたもんか。

 魔法や皮剥きとかは……まぁ置いといて、新しく仙魂スキルが4つも増えている。

 魔伸縮はたぶん、魔装でパワーを増大させるあれのことだろう。魔力物質化……ひょっとしてあの触手のことを言っているのか?

 確かに掴んだりしてたが……そういうスキルなのか?

 異空間生成スキルと歪曲空間は……なんか凄そうだが、お楽しみは体が治ってからにしようか。何があるかわかんないし……


 それと何だかんだ一番驚きなのは、プレートのバグが消えて、死者の声というユニークスキルが手に入っていることか。称号のバグは未だそのままだが、このスキルが十中八九あの声の正体なのだろう。

 死者の声と思いを聞くスキルか……使い道は余りなさそうだし、出来れば使いたくないな。乗っ取られるのがオチだ。


「あ〜、やること一杯だぁ」


 レポートの締め切りに追われる学生の気持ちになりながらも、グテンとベットに横になる。しかし、言葉とは裏腹に内心俺は生き生きとししていた。

 早く試したいという気持ちが沸き立ち、抑えるのも苦労する。


 と、そこへ気配もなく現れる男が一人。


「何か喜ばしい事があったのか、主よ」

「うぉっ! びっくりした……」


 俺は意表を突かれ、ビクッと体を震わせると体を跳ね起こした。そして、何処から入ってきたのやら、いつの間にか部屋の中にいるセシルに向かって、怪訝な顔を向けた。


「何回も言ってるがな、気配出せ。それと、部屋に入る時はノック。オーケー?」

「頭の片隅に置いておこう」

「ど真ん中におけ!」


 セシルのまったく反省のない返しに、思わず怒鳴り返す。

 まったく心臓に悪い。俺が早死にしたら、絶対こいつのせいだ。


 そんな俺の気持ちなどつゆ知らず、注意など気にも止めていないセシルは、腰を落ち着けると街で得た情報を話し始めた。


「やはり大陸橋を破壊したのは、殺人鬼と死神で間違いないようだ。目撃者の話では、大陸橋の中心で爆発があった後、アフロト大陸側でも二、三度起きたらしい。どれも、ほぼ同時であったそうだが、その後海に落ちた死神らしき人影と、空に浮かぶローブ姿の男を見た者がいた」

「マジかよ。神が負けたのか……?」


 俺はセシルの言葉から当時の状況を想像し、驚愕せざるを得なかった。しかし、それは早計であったようで……


「いや、死神がアフロト大陸の方向に泳ぎさるのを見た者がいた。おそらく足場がないために、殺人鬼との戦闘継続が困難になったのだろう」


 どうやら死神が負けたというわけではないらしい。海の上という地形が、殺人鬼に有利な状況をもたらしたという事だろう。

 にしても、神なのに飛べないんだな。


 …………神が海を泳いで渡るってなかなかシュールな光景だよな? 一度見てみたい。

 クロールしてたのかな? それとも、平泳ぎ? いや、裏をかいての背泳ぎか? どれもシュールだ。


「殺人鬼の方は?」

「消えたそうだ」

「まぁ、見えるわけないか……なら、死神は殺人鬼を追って、アフロトに渡ったと見ていいのかな」

「おそらくは。どうやらルクセリア氏の推測通り、死神は殺人鬼を追う何らかの手段があると見て間違いないようだ」


 俺はセシルの言葉に頷くと、思案した。

 死神が殺人鬼と事を構えたという事は、俺が死神に情報を提供する必要はなくなったという事だ。後は、妖精神の言葉を伝えるか否かの話になるわけだが……セシルが今手にかけている勇者に対しての世論操作の結果がそろそろ出る頃だ。

 俺に出番はなさそうだが、何か起こるかもしれないし、一度アークティアに戻った方が良いかもしれない。


 このまま追ったところで、追いつけるかもわからないし、引き返すのなら今だろう。


「一度戻るか」


 さぁ、帰るかとベットから足を下ろし、立ち上がるとハクが見当たらない事に気が付いた。俺が寝ている間に何処かに出掛けたらしい。


「ハクがどこに行ったか知らないか?」

「先程私が見た限りでは、街の人々から感謝の印にと甘いお菓子を貰っておったぞ」

「何してんだ……あいつ……とりあえずハクと合流して、それからゆっくり帰るか」



 〜〜〜〜



 大陸橋からアークティアまで、ハクの尻尾に繋がれ戻った。途中、周辺の町に寄ったが、甚大な被害を受けた町はなかった。そのため、大した寄り道をする事なく、ほぼ一直線にアークティアへ戻ってきた。


 アークティアの街は、先日の魔人騒動で、人的被害こそ少なかったものの、建物の被害はそこそこあった。しかし、そこは異世界。俺以外にも建築魔法使いはいるのだ。

 離れていた10日ばかりで街は元通りになりつつあった。


 そんな街の様子を逞しいなと感じながら、すり抜けて宿へと入る。そこはこの街一大きい宿で、屋敷の崩壊後、皇帝と勇者達がお世話になっている場所だ。


「お帰り」

「うぃっす」


 宿の一階に当たる大きな広間へと入ると、如月とその女友達が楽しくお喋りしている最中であった。そのため、カラランと扉についた鐘を鳴らし入ってきた俺に彼女達はすぐに気が付いた。


「死神には会えた?」

「いたにはいたけど、会えなかった。如月が摘み食いしたのを教えようと思ったんだが、いやぁ、会えなくて残念だ」


 俺が頭を大袈裟に振って肩を落とし、伝えてあげられなかった無念さをこれでもかと表現した。すると、如月は上半身を乗り出して、早口に叫ぶ。


「つ、伝えなくていい! ……だが、そうなのか。それでは、殺人鬼はまだ存命という事か……」

「まぁ、少なくとも今この大陸には殺人鬼はいないさ。ちょっと皇帝と話がしたいんだが、何処に行ったか知らない?」

「それなら確か魔法学校に公務があるって、春樹が言っていたわ」

「何で春樹がそんな事知ってるのかは知らんが……ありがとう。ちょっと行ってくる」


 行ってらっしゃいと手を振る如月に軽く手を上げてから、ハクと共に魔法学校へと向かう。いつもの事ながら、セシルはいつの間にか消えていたので、魔法学校の場所を道行く人に教えてもらい、30分程で目的地にたどり着いた。


「ほぉ〜、ここが魔法学校か」


 魔法学校の校門前で、初めて見る王立学院以外の学校をまじまじと眺めた。

 同じ学校と言っても、雰囲気も建物もその並びも大きく違う。王立学院の校舎は地球の学校と似たような形をしていて、イメージ的にはカクカクとした作りだったが、魔法学校は一見したところ、とんがってる印象が強い。


 敷地内にある大きな建物の屋根は、トンガリ帽子のように上がピンと空に突き立てられており、下に下がるにつれ緩やかな曲線を描く。窓の形も他ではあまり見ない円状で、小さな石を細かく敷き詰めた外壁は魔法ではなく手作りであることを物語っている。


 ただ、敷地の大きさは王立学院が一歩リードしているようだ。あそこには何故か公園が敷地内にあったし、寮も何棟も建っていた。魔法学校にはそれらしい建物は見当たらないし、学生も校門から出入りが多い。

 たぶん寮はないのだろう。あったとしても、敷地の外か。


「さぁて、皇帝はどこにいるのかね」


 王立学院よりは小さいといえ、この中から一人の人間を探すのは骨が折れるし、面倒だ。早々に俺は空間と魔力感知を使い、一際大きい反応を探した。

 すると、皇帝と思われる反応が、一番大きい建物の最上階にある事がわかった。


「おっ? こっちに気が付いた?」


 こんな事は初めてだ。まさかこの薄い魔力に反応するとは……

 いったいあの人は何者なんだ?

 十分勇者としてやってけそうなぐらい強そうだが……


 そんな風に皇帝について思いを巡らせながら、魔法学校の敷地内に侵入したその時ーー


 ピィィーー‼︎


「ハク、なんか言った?」

『言ってない』

「だよな。って事は……」


 一瞬ハクが何か言ったのかと思ったが、やはり違ったらしい。なんか門が赤く光ってるし、これは侵入者に見なされたと思っていいのだろうか?

 と、そんな事を考えていたら、ゾロゾロと武器を持った人がわんさか出てくるではないか。


「何用だ!返答によっては、ここで斬られる事を覚悟して、噓偽りなく答えろ!」

「どうも、ヒナタと言います。皇帝がここにいるって聞いて、話があって来たんですけど、通してくれません?」

「ならん! 皇帝陛下はただいま学長とお話の最中だ。それに、身元もわからぬ冒険者風情を通すわけにはいかん!」


 やっぱダメだったか。

 このまま押し通ったら、ややこしい事になるし、大人しく帰るしかないかな。

 なるべく早く大陸橋の事を伝えたいんだけどなぁ……


「何事だ」

「こ、これは皇帝陛下! じ、実は皇帝陛下に御目通り願いという侵入者が一人……」

「侵入者?」


 騒ぎを聞きつけやって来た皇帝に跪く警備の兵。その警備から俺の事が伝えられ、視線が俺へと向く。


「よっ」

「其方か。こんなところまで、わざわざ何の用だ?」


 手を上げ軽く挨拶した俺に、ギロッと警備兵の目が向くが、皇帝がスッと手を差し、鎮めてくれた。そして、前置きもなく用件を聞こうと俺に一歩近づいてきた。

 その皇帝に俺は一言。


「大陸橋が落ちたよ」

「何?」


 俺の報告に皇帝は思わず足を止め、目を細めた。


「殺人鬼と死神がそこでぶつかって、橋は崩壊。その周囲の街まで戦闘の余波で酷い有り様だった。怪我人も沢山いたし、何より海に落ちた人もかなりいた」


 俺はパパッとこの目で見てきた状況を皇帝へと伝えた。すると、皇帝の顔はより一層厳しいものになる。その周りで膝をつき、話を聞いていた警備の兵もまた同様に只事ではないと、顔に緊張が走る。


「ひとまず救助やら街の復興やら、色々とやれる事はやって来たから、暫くは問題ないだろうけど、生活資源はいずれ足りなくなるかと思う。そっちの方は、俺も手が回らないから、国で何とかしてあげてくれよ。あと、橋もね」

「……ふむ、一先ず了解した」


 皇帝は難しい顔で、顎を手で撫でながら、頷いた。そして、暫くそのまま考え込んだ後、警備兵の一人に、何やら指示を飛ばしていた。

 皇帝から命令を受けた警備兵は、ハッ!と短く返事を返すと、急ぎ足で門から外へ出て行った。

 俺がそれを何気なく目で追っていると、皇帝がゆっくりと近づいてきた。


「この国の頂点に立つ者として礼を言う。よくぞ民を救ってくれた。褒美として勲章を授けよう」

「えー、いらない。それ、無理やり帝国貴族にされるパターンじゃないの?」


 昔、そういうパターンのお話を見た気がする。何の話だったかは忘れたが……今、大事なのはその道が俺が思い描くものとは異なるということだ。まったく油断も隙もない人だ。


「ふっ、お見通しか。其方の力を帝国の為に活かしてくれると言うのなら、莫大な富を与えても良いのだぞ?」

「皇帝は俺が大金、空からばら撒くような人間だって知ってるだろ? 金じゃ俺は動かない」

「では何故我々を助けにきた? 其方の望みは何だ?」

「簡単だよ。見捨てたら、後味が悪い。それだけだ」


 他にも、春樹達の中からもう犠牲者を出したくなかったからとか、自分自身の仇打ちとか色々あるが……まぁ、口に出すつもりはない。

 所詮は後味が悪い、それに尽きるのだから。


「後味が悪い……か。ならば、其方がこの国から離れられなくすれば、私達の勝ちという事か」

「あいにくと俺は根っからの冒険者でね。小さい頃から世界を旅する事を夢見てきた。その途中で立ち寄った国や街で、人を助けたり、守ったりするのは嫌じゃないけど、それに生きるのは詰まらない。行く先々で偽善者として、自分のやりたいようにやるだけさ」


 俺は万能の神ではない。掌は小さく、すぐに持ちきれなくなる。なら、今その掌にあるものを大切に、そして自由に生きていくだけだ。


「そうか、ならこの国から離れられなくすれば良いのだな?」

「皇帝も諦め悪いなぁ。この国はそれが文化なのか?」


 半分冗談の半分本気で、ルーシィと皇帝の諦めの悪さに呆れつつ、置いてけぼりにされて、髪を齧り始めたハクを指で小突いていた。


「髪の毛がヨダレでダラダラになるだろ?」

『ハクの匂い付けてる』

「俺の頭はお前のトイレか」


 電信柱のような扱いに俺はハクを手で掴み無理矢理頭から下ろすと、肩に乗っけた。

 その様子を見ていた皇帝は小さく微笑むと、周囲に目をやりながら。


「仲の良いことだ。さて、そろそろ人が集まってきた頃だ。詳しい話は中で聞かせて貰おう」

「了解」


 俺とハクは、皇帝に連れられて魔法学校の敷地に入っていった。



 〜〜〜〜



 魔法学校のとある一室。

 そこでは、俺とハク、皇帝、それからこの学校の学長が机を囲み、クッキーとお茶を片手に話をしていた。

 内容は主に俺が見てきた事について。それから、殺人鬼に起こった変化についての詳しい説明だった。

 それらをひとしきり話し終えると、皇帝は難しい顔をして目を閉じ、腕を組んで何やら考え事をし始めた。


 一方、学長は、俺の話ーー主に殺人鬼に起こった変化の過程で話した邪神の加護に興味津々であった。


「ほほぉ、なるほど、なるほど。では、邪神は個ではなく、複数が集まった存在であると言うのですか?」

「俺が知る情報を総合すると、そうなると思いますよ。何がどうなって、邪神なんかが生まれたのかは知らないけど、死者の怨念がこの世界に増えすぎると自然発生するのなら、いずれ第二の邪神が生まれてもおかしくない」

「実に興味が引かれるお話ですね。しかし、それは弱りましたな」


 学長は長い髭を摩りながら、優し気な表情を浮かべながらも、この危険性について思い至ったようだ。


「死者の怨念が邪神の元となる。しかし、それがわかったところで、我々に出来る事は何もありませんな」

「まぁ、そうですね」


 俺も学長と同じ考えだった。俺が死者の怨念を認識出来たところで、それに対抗する術を持ち合わせているわけではない。この世界の聖職者が祈りで死者の魂を天に導くという話も聞いたことがない。

 俺たちは邪神の再誕を指を咥えて見てるしかないのだ。


 その事を学長の言葉を聞いて、改めて思い知ると同時に、ふとある考えが頭を過ぎった。


 邪神が生まれたのは、創世歴5千年ぐらい頃。そして、邪神が死んでからもう5千年経った。

 もしも怨念の量が一定以上集まる事で邪神が生まれるのなら、今この世界に満ちる怨念の量は……


 ノルドは言った。

 世界に終焉が近づいていると。


 それが、邪神の再誕を指しての事だとすれば、あいつの目的は、邪神を殺す事……?

 だとすれば、あいつの正体は……


「レイ殿、如何なされましたかな?」

「あ、いや……」


 皇帝と同じく思考に没頭していた俺は、学長の呼び掛けに顔を上げた。


「何か気が付かれたのですかな?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

「そうですか。なら、この老人の戯言を聞いて頂けますかな?」

「戯言、ですか?」

「ええ、そうです。戯言です。いえ、戯言であれば、と」


 含みのある言い方をした学長に、俺は何を思い付いたのだと興味を持った。


「死者の怨念。それを増やすには、どうすれば良いのでしょう?」

「人を殺せばいい。……残酷に」

「ええ、それも一つの手でしょうね。しかし、恐怖を覚えさせるだけでは足りないのでは?」


 恐怖だけでは足りない、か。確かに……一理ある。

 しかし、ではどうやってあの憎悪を生み出すんだ?

 もしも、俺が邪神を生み出そうとするのなら、何をする?

 殺人鬼のように、残酷な殺し方をするか?

 それとも、彼女のように憎しみを抱かせて殺すか?


 いや、違う。それでは、非効率だ。


「……戦争か」


 大量の、それも憎悪を抱き易い環境を作るのに、戦争はこれ以上ない手段かもしれない。

 人が憎悪を抱くには、何か理由が必要だ。仲間や家族、大切な人を殺される。あるいは、理不尽に晒される事で生まれるものだ。

 ただ死ぬだけは不十分なんだ。


「邪神が誕生する以前、この世界は日々戦乱に明け暮れていた事が、遺跡の調査から判明しています。おそらくはそれが邪神を産む原因となったのでしょうな」


 日々戦乱に明け暮れていたか。そんな話を誰かが話していた気がする。クラクベールだったか?

 まぁ、それは今重要な事ではないが、戦争が邪神を生み出す原因というのには、何か違和感がある。


「……どうかな。それだけじゃ、何かが足りないような気がする。それが何かはわからないけど、何というかしっくりこない」


 現状それが、答えなのだろうが、何か足りていないそんな気が……


「そうですかな? では、ここで過去の遺跡を調べてみては? 何かわかるかもしれませんぞ」

「確かに興味はあるけど、ここの遺跡って国が管理してるんだろ? 俺みたいな部外者が勝手に入っていいのか?」


 学長の勧めに、後々面倒な事にならないか問い返した。幸いここには皇帝もいる事ため、俺と学長の視線は自然と皇帝へと向けられる。すると、それに気が付いた皇帝は体を起こし……


「別に構わない。一学者では、攻略不可能な箇所が未だに残っているような場所だ。其方の力ならば、学者達の大きな助けとなるだろう。元々私がここに来たのも、その調査の手助けを求められたからだ。其方が代わりにやってくれるというのなら、願ってもない」

「よっしゃ!」

「やりましたな。これで、研究もはかどるというものです」


 拳をグッと突き出し喜ぶ俺と、その横でニコニコとした笑みを浮かべる学長。彼の言葉を聞く限り、俺は上手く乗せられただけらしい。

 まぁ、俺にとっても悪い話じゃないからいいけど……


「では、詳しい話を致しましょうか」

「ああ。ちょっとワクワクしてきた」


 皇帝の許可が出たところで、早速遺跡探検の打ち合わせを始めた俺と学長に割って入るように、皇帝が口を出してきた。


「……ところで、其方に頼みがあるのだが……」

「頼み? 言っとくが、これ以上面倒ごとはごめんだぞ。久々の冒険の邪魔はしないでくれ」

「そうではない。頼みと言うのは、其方の相棒の力を貸して欲しいのだ」


 ハクの力?

 あぁ、そうか。移動手段か。


「俺は構わないけど、ハクはどうだ?」

『ハクは親と一緒』

「……だそうだ」


 ハクは再開してから俺にべったりだ。余程寂しかったらしい。それも仕方のない事かもしれない。

 ハクは俺が居なくなってから、 すぐにシャルステナ達と別れて、一人で旅をしていたらしい。甘えん坊のハクにとっては辛い旅だったろう。俺の身勝手でそんな思いをさせてしまった。

 だから、暫くはハクのやりたいようにさせてやろうと思ってる。

 ゆえに、俺はハクが嫌だと言うのなら、口を出す気はなかった。


「そこを何とか頼めないか?」

「そう言われてもなぁ……」


 と、俺が肩に乗るハクに目を向けると、ハクは小さく首を傾げて、


『お菓子いっぱいくれるならいいよ』


 と、要求を突き付けた。

 こいつ……


「最高級のものを用意しよう」

「ピィ!」


 ハクは嬉しいのか、俺の肩の上でぴょんぴょん跳ねる。調子のいい奴だ。

 まぁそれはそれとして、ハクが飛び跳ねるせいで、肩が外れそうで、辛い。ハクのやつ俺が怪我人なの忘れてないか?

 まぁ、今の今まで俺も忘れていたんだが……


「では、宜しく頼む」


 そうして、ハクと皇帝、俺と学長で別々の話し合いが進められる事になった。


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