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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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27/83

街のすぐそばに《夜棘》が生えたので、今度は逃げられません

 冒険者ギルドへ戻ったのは、日が完全に沈んだ後だった。


 ティオはノアの治療を受け、別室で休んでいる。


 俺達は会議室に集まり、橋で拾った紙片をテーブルの中央へ置いていた。


『北門外・二十七日』


 短い一行。


 意味は分からない。


 それでも、杭を設置させていた男が持っていた以上、無関係とは考えにくかった。


「二十七日って、明後日だよね」


 ミミナが確認する。


「そうだな」


「場所は北門の外」


 ノアが地図を開く。


「範囲が広すぎます。北門から先には旧街道、森、牧草地、旧礼拝堂へ向かう道もあります」


「旧鉱山も北側だ」


 俺が言うと、リリアが頷いた。


「可能性としては無視できません。ただ、これだけで旧鉱山と決めるのは危険でしょう」


「うん」


 焦って一つの答えへ結びつけない。


 このところ何度も学んだ。


 分からないことは、分からないまま分けて考える。


「それより気になるのは、あの男です」


 ノアが言った。


「ティオさんの家族について知っていました」


「そこなんだよな」


 俺は椅子へ深く座る。


「日雇いを適当に捕まえただけなら、家族まで調べる必要はない」


「逃げられないようにするため?」


 ミミナの声が少し低くなる。


「たぶん」


「最低だね」


 珍しく、ミミナの声に明確な怒りが混じった。


 俺も同じ気持ちだった。


 金に困っている人間を選ぶ。


 家族を調べる。


 怪しい仕事をさせる。


 使い終われば消そうとする。


「ティオだけじゃないかもしれない」


 俺が呟く。


 三人がこちらを見る。


「杭を置く場所は、リベルタ周辺だけじゃない可能性がある。王都からの報告でも別地域で魔物の移動が起きてたよな」


「はい」


 リリアの表情が変わる。


「同じように現地の人間を使っていると?」


「可能性の話だけど」


 もしそうなら。


 黒い杭を作った奴と、実際に設置する人間は別だ。


 依頼人すら、本当の中心人物ではないかもしれない。


「昨日会った男も、使われてる側だったりして」


 ミミナが言った。


「十分あり得ます」


 ノアが答える。


「ただし、ティオさんを殺そうとした事実は変わりません」


「そこは分けて考えよう」


 事情があれば何をしても許されるわけではない。


 ティオの時と同じだ。


 ただ。


 話せるなら、聞く価値はある。


「逃げた男を探す?」


 ミミナが尋ねる。


「普通に追っても無理だと思う」


「では、どうしますか?」


 リリアを見る。


 俺は少し考えた。


 そして、橋で交わした会話を思い返す。


『仕事を頼む相手のことくらい調べる』


 相手はティオを調べていた。


 つまり慎重だ。


 秘密を守ることにも異常なほど敏感だった。


 そんな人間が、口封じに失敗したと知ったらどうする?


「……確認しに来るんじゃないか?」


「何を?」


 ミミナが聞く。


「ティオが死んだかどうか」


 三人が黙る。


「橋から落ちたように見えた。でも、リリアが助けたのを相手が最後まで見てたとは限らない」


「確かに、爆発後はすぐ逃走しています」


「それなら、ティオが生きてるか確かめたいはずだ」


 もし俺があの男なら。


 知られたくないことがある。


 口封じに失敗したかもしれない。


 ギルドに情報を話されたかもしれない。


 落ち着いて眠れるとは思えない。


「じゃあギルドを見張る?」


「いや」


 俺は首を振る。


「こっちから情報を出す」


「情報?」


「ティオが死んだってことにする」


 三人の表情が変わった。


「ギルド内だけじゃなく、酒場や商人にも噂が流れるようにする。橋の崩落事故で一人死亡したって」


 リリアが少し考える。


「相手が情報を確認しているなら、その噂を耳にする可能性がありますね」


「うん」


「しかし、死んだと信じれば安心して姿を消すのでは?」


 ノアの疑問はもっともだった。


「そう。だからもう一つ流す」


「何をです?」


「ティオが死ぬ前に、誰にも何も話せなかったって」


 ノアの目が少し細くなる。


「安心させるのですね」


「ああ」


 追い詰めて警戒させるより、安心させる。


 自分達の秘密は守られた。


 なら次の仕事を続ける。


 そして紙には、


『北門外・二十七日』


とある。


「相手が二十七日の予定を中止しなければ、こっちが待てる」


「なるほど……」


 ミミナがゆっくり頷く。


「ユウト、ちょっと怖いこと考えるようになったね」


「褒められてる気がしないな」


「褒めてるよ」


 ただ、その声はいつもの明るい調子ではなかった。


「でも、それなら誰も戦わなくても相手が動くかもしれない」


「俺にできるのは、そのくらいだからな」


「違います」


 リリアが静かに言った。


 俺が彼女を見る。


「剣を振らずに相手を動かすことは、誰にでもできることではありません」


「……そうかな」


「少なくとも私には思いつきませんでした」


 真正面から言われると、妙に照れる。


 俺は誤魔化すように地図へ目を戻した。


「問題は、相手が本当に情報を集めに来るかどうかだな」


「それなら、少し仕掛けられるかもしれません」


 ノアだった。


「何かある?」


「ティオさんの治療記録を、通常の死亡記録として処理したように見せることは可能です」


「できるの?」


「正式に改ざんするわけではありません。外部から問い合わせがあった場合に、『橋の事故で死亡者が出た』という情報だけが伝わるようギルドへ協力を求めます」


 俺は少し驚いた。


「ノアがそういう作戦に乗るとは思わなかった」


「人を騙すためではなく、次の被害を防ぐためです」


 そこで一度言葉を切る。


「それに、ティオさんを殺そうとした人物をそのままにはできません」


 静かな怒りだった。


 ノアは大声を出さない。


 だからこそ、余計に重かった。


「決まりだな」


          ◇


 翌日。


 橋の崩落事故で一人死亡。


 その噂は想像以上に早く広がった。


 ギルドから積極的に流したわけではない。


 酒場で数人が話せば、町というのは勝手に情報を運んでいく。


 ティオ本人はギルドの奥に隠れている。


 家族についても、念のためギルドから人を送って安全を確認してもらった。


 そして俺達は待った。


 午前。


 何もない。


 昼。


 何もない。


 夕方になり、正直もう来ないのではないかと思い始めた頃だった。


 受付職員が会議室へ入ってきた。


「ユウトさん」


「何かあった?」


「ティオさんについて問い合わせがありました」


 全員が立ち上がる。


「誰から?」


「行商人を名乗る男性です。東の村へ向かう途中で橋の事故を見たから、死亡した人物が知人かもしれないと」


「特徴は?」


 職員が説明する。


 灰色の上着。


 三十歳前後。


 旅人風。


 俺達は顔を見合わせた。


「どこに?」


「確認だけして、すぐ出ていきました」


「追いますか?」


 リリアが立ち上がる。


 俺は少し考えてから首を振った。


「今は追わなくていい」


「よろしいのですか?」


「うん」


 男は確認しに来た。


 そしてティオが死んだと思った。


 ここで追えば、明日の予定を中止する可能性がある。


「予定通り二十七日を待つ」


「北門外ですね」


「そこで今度こそ、向こうが何をしようとしてるのか見る」


 俺は地図を見る。


 北門。


 旧礼拝堂。


 旧街道。


 旧鉱山。


 そのすべてが同じ方向にある。


「なぁ」


「何です?」


 ノアに聞かれる。


「いや、何でもない」


 何が起きるのか不安だったが、答えは翌日まで待つしかなかった。


          ◇


 二十七日。


 朝から俺達は北門周辺へ散った。


 ティオはギルドに残している。


 相手は死んだと思っている以上、連れてくる理由はない。


 俺とノアは街道近く。


 リリアは森側。


 ミミナは魔力の変化を調べられる位置にいる。


 何も起きないまま昼を過ぎた。


 夕方が近づく。


「本当に今日なのかな」


 ミミナが小さく呟く。


「さぁな」


 その時。


 ミミナの表情が変わった。


「ユウト」


「どうした?」


「魔力が動いた」


「どこ?」


 彼女は北ではなく、地面を指した。


「下」


 嫌な予感がした。


「かなり深いところから、一気に上がってきてる」


 旧鉱山で経験した感覚。


 地下から噴き上がる異常な魔力。


「《夜棘》は?」


「まだ見えない。でも……近い」


 次の瞬間、遠くで鳥の群れが一斉に飛び立った。


 森の奥から獣の鳴き声が聞こえる。


 一つではない。


 いくつも重なっている。


「来ます」


 リリアが剣を抜いた。


 森の向こうから、何かが逃げている。


 魔物達だ。


 また同じことが始まる。


「ミミナ、魔力の中心を探せる?」


「やってみる!」


 杖を構え、目を閉じる。


 数秒。


 ミミナが目を開いた。


「分かった」


「どこ?」


 彼女が指した先を見て、俺は息を止めた。


 北の旧街道。


 その先。


 旧礼拝堂でも、旧鉱山でもない。


「もっと手前……?」


「うん」


 ミミナが青ざめた顔で頷く。


「リベルタの、すぐ近く」


 その瞬間。


 街の北側から、低い地鳴りが響いた。


 足元が揺れる。


 そして街道脇の地面に、一本の黒紫色の芽がゆっくりと顔を出した。


 「…最悪だ」


          ――第二十六話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


二十七日に起きた異変。


リベルタのすぐ近くで急速に増え始めた《夜棘》を追ったユウト達は、街道の下にある排水路へ辿り着きました。


その奥にあったのは、以前ティオの隠し場所から消えていた可能性のある「黒い杭」。


24話で残した「一本だけすり替えられていた杭」が、ここでつながります。


しかし今回の杭は、これまでのものより遥かに大量の魔力を吸い上げていました。


そのまま抜けば、街の目前で魔力が一気に溢れる可能性があります。


見つけたから終わりではありません。


次回、4人でこの杭を止めます。


第28話へ続きます。


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