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おいでませ竜神の湯 〜辺境王国の観光立国史〜  作者: フユめん


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【幕間】吟遊詩人の唄

 花街の酒場、その一角にて、吟遊詩人が弦をかき鳴らしながら、高らかに歌う。その歌の内容は、悪党を捕らえ、花街を守った騎士の英雄譚だ。

 吟遊詩人の唄は基本的に、その時々でアツい話題を歌う物だ。少し前には、恐ろしい魔竜を説き伏せた王女の唄が流行っていたが、今は、花街を救った若き騎士の唄が歌われている。

 人間は、己の全てを賭けて戦い、勝てば相手の全てを奪うという生き方をしていた、遥か昔の生態を引きずっていて、そのせいで闘争を好む傾向にある。

 だから、ジョスランが勇ましく戦い、勝利したという英雄譚に惹かれるのだ。

「ずいぶんと話を盛ってやがるな」

「ええ……なんというか……私としては、むず痒い限りです」

 吟遊詩人の唄を聴き、なんとも言えない顔で呟いたのは、唄の元となった事件の当事者、騎士ジョスランとハグノスだ。

 何故二人がここに居るかと言うと、ハグノスが「見回りばっかりで、どこの店にも入らねえと怪しまれるぜ」と、それらしい理由を付けて、遊びに来たのである。

 吟遊詩人の唄うジョスランの英雄譚、それは概ね事実通りなのであるが、かなり脚色されていて『物語』として映えるようにアレンジされていた。

 例えば、ジョスランがデッキブラシで戦ったという部分は、掃除用具では格好がつかないので、素手で戦った事になっている。

 悪党の数に至っては、なんとなんと、二十人という事になっている。

 いくらなんでも盛りすぎだ。そんな大勢が暴れていたら、いくら店も人通りの少ない裏通りでも、かなりの騒ぎになる。ハグノスの応援を待つまでもなく、人が集まっただろう。

「まあいいじゃねえか、どうせ名前は出てねえんだ。この店の連中も、俺達が居ても気づきゃあしねえ」

 花街を救った隠密の騎士………、その噂はすぐに広まったが、その名前だけは固く秘された。というか、名も知れぬ騎士という方が『物語』として映える。それに、ジョスランの役目は隠密での見回りなのだから、黙っていてくれたという部分もある。

 そんな訳で、ジョスランは悪党を圧するために全開の音量で名乗ったのだが、花街では誰一人、ジョスランの名を広めようとしなかったのだった。

「そうですね、ハグノス殿も、中々に大きく歌われているのに、誰も気づきません」

「だろ? だからむずがるのは止めちまえ」

 吟遊詩人の唄。その曲調が変わり、激しい調子へと変わる。

 悪党達に囲まれた隠密の騎士は、凶刃を躱し、悪党を殴りつけ、蹴り、投げ飛ばしと、十人ほどを片付けたものの、傷つき、疲れ果て、ついに膝を突いてしまった。

 万事休す、悪党共に取り囲まれて、最早これまで、というその時、颯爽と現れた姫の従者。

 否、正確には従者ではない。ラヴァリン王女が、アルタリア王女が、そして騎士達が信頼を寄せる大人物。

 配下として取り立てると言われても、爵位を与えると言われても断り、自由を愛する豪傑。

 その姿を見た隠密の騎士は、力を取り戻し、その豪傑に背中を預け、二人は抜群の連携で残りの悪党を殲滅し、花街に平和をもたらした……………。

 この『豪傑』というのは、ハグノスの事である。ハグノス本人とは、似ても似つかぬ形で唄われているが、他に該当者が居ないのだから、ハグノスの事なのだ。

「もっと言やぁ、姫様に至ってももっと酷ぇぜ? 最初は竜神様を説き伏せたって唄だったのに、終いには竜神様と戦って折伏したって話になったんだぜ?」

 実際の所は、これまでの非礼を詫び、交換条件を出して交渉し、協力取り付けただけだ。そこには、吟遊詩人が歌えるような『物語』は無い。

 そんな訳で、勇ましく正義を説き、人喰いの魔竜を改心させたという話に変えられたのだが、聴く者達は、いずれ飽きる。

 だから、段々と勇ましく、段々の過激に変わっていき、最終的には魔竜と大激戦を演じ、力でねじ伏せたという唄になった。

 最終的に、過激にしすぎた話は、そんな馬鹿な話があるかと寂れ、その代わりが隠密騎士と豪傑の話なのだ。……という説明をハグノスがすると、ジョスランは困った苦笑を漏らした。

「それはまた………随分と………」

 ジョスランは、ハグノスに遊びを(多少は)教えられたとはいえ、根は堅物。そんな彼にとっては、姫君をそんな扱いにするなど、信じがたい無礼である。

「だから、俺達はまだまたマシな方なんだぜ。まあ、ちょっとばかりむず痒いのは確かだがなぁ」

 ハグノスはそれだけ言うと、この話は終わりだとばかりに、酒が注がれたタンカードを傾けた。

「しかしハグノス殿」

「ん〜?」

 ジョスランは何が気になったのか、ハグノスに質問を投げかける。

 ハグノスは話は終わったと思っているので、気の無い様子で、タンカードに口をつけたまま、なんの気も無く返事をした。

「王女殿下の話が、それほどに変遷したのなら、我々の話は更に酷い方向に変わってしまうのでは?」

「ブフゥ!?」

 ジョスランのもっとも過ぎる指摘を聞いて、ハグノスは酒を吹き出した。

 王女という、それはそれは偉い身分の御方を取り上げた唄でも、不敬と言っていいほど、大袈裟な話になったのだ。

 ジョスランは貴族の出ではあるが、流石に王女と比べたら低い身分。ましてやハグノスは、ただの一平民である。

 その二人に対しては、なんの遠慮も無く、話を大袈裟にしていくだろう。

 事実それから数ヶ月、二人は大げさに過ぎる改変をされ続ける、己の英雄譚に困惑させられ続けたのであった。

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