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変身物語(ある田舎における)  作者: 入江晶
3.ある一室にて
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16/20

3-5.事実と夢

 ――このニュース見た?


 そう言って彼女が差し出した携帯電話の画面には、私が散々に言った地元の祭りに関する、一週間ほど前の記事が表示されていた。しょうもないダジャレのような見出しとか、読むだけで不快になってくる文体で感じた通り、地元の新聞の記事だった。



【桜まつりに花曇り? 大口協賛企業撤退か 個人協賛に活路】

「4月1日に開幕する伊手須桜まつりの先行きに、暗雲が漂っている。長年に渡り大口協賛を続けてきた企業が、来年以降の撤退を検討していることが分かった。これに対して桜まつりを主催する実行委は、個人からの協賛に注目している。

 桜まつりの来場者数は近年の落ち込みから回復傾向にあるが、財政面ではひっ迫している。地元に密着した行事として発展してきた歴史から、小規模な企業による協賛が多数を占めていたが、倒産や経営環境の悪化による撤退が急増しているという。その結果、大口の協賛企業の存在感が増しているが、少数の協賛先への依存には懸念もある。このため、実行委では桜まつりの持続可能性を模索しており、個人協賛の拡大もその一環だ。

 実行委の関係者は、『大口の一社から、来年から協賛を取りやめたいという話が来ている。昔からの協賛企業だし、地元の優良企業と思っていたから、まさに青天の霹靂だ。出資額が大きく、すぐに代わりを見つけるのは容易ではない。催しの規模や内容の変更が必要になるかもしれない。クラウドファンディング(CF)やふるさと納税などの手法も活用した、個人の協賛を増やしていくことも検討していく』と語った。」



 ――さあ……見てないと思います。


 見出しだけで分かり切っていたことだったけど、念のためというか義理でというか、一通り読んでから、私は言った。彼女は穏やかに、しかし明らかに何か含んだものをちらつかせつつ笑いながら、答える。


 ――この会社ねえ、うちがかなり融資してるところの子会社なんだよ。ああ、融資してた、かな。もう金額が大きすぎて、増やせないくらいになっちゃってるから。表向きはね。この会社も、親会社の方も、調子が悪いみたいで、だからこういう協賛もやめようとしてるんだよねぇ。たくさんお金を出してくれてたから、お祭りを運営してる側にとっては大ごとってわけ。

 ――ふうん……じゃあ、どうなるんですか?

 ――そろそろヤバくなるよ。この辺じゃ大きい会社で、うち以外からも融資を受けてるからさ。こうやって経営が悪くなってきたって分かったら、いろいろと見る目が厳しくなるからね。お祭りに関係することだから、地元じゃ目立っちゃうし。変なところからお金が入ってるってことも、そのうちバレるんじゃない? そうなったら、いろんなところに話が飛び火しちゃって、お祭りもどうなるか分かんないよね。


 彼女は、まるでたまたま詳しく知っていた俳優を見かけたので、その経歴や、最近ささやかれている良くない噂話の解説でもするかのように、すらすらと、軽々と話した。そして一つため息をついて、私を見て、言う。


 ――変なことになる前に離れられて、良かったかもしれないかな。

 ――お祭りが、ですか?

 ――うん。まあぶっちゃけ、職場とか、地元って意味も含めて、だけどね。


 彼女は笑ったままだった。しかし、たぶん私の妄想か勘違いでしかない勝手な解釈をすると、そこには、さっきまでとは違った、寂しさみたいなものがあるように見えた。例えば、もうすぐ沈むと分かっている船から逃げられて良かったという思いと、船に残っている人がいながらそうやって逃げたこと、諦めを選んだことの後ろめたさが混じったような。そして、傍らでこのままだとその船沈むぞと怒り狂って罵声を上げている子供に、もっと利口になれと諭そうとしているような。でも彼女自身も、利口になりきれてはいないのを自覚しているような。以上、妄想終わり。

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