3-4.少女の告発
――でも、結構怖かったんです。あの写真使って脅迫してきたんですよ? 私が向こうに行ってからも続けろって。あり得なくないですか?
――あらら、ショックだなあ。職場だと、穏やかで、いい人ってみんな思ってるけど。
――小夜さんは知ってたでしょ、最初から全部。私の方がショックですよ。ウザくてスケベなド変態のおっさんだけど、強引なことはして来ないと思ってましたから。
――でも、乱暴はできないっていうタイプだよ。なんでも話して交渉すればどうにでもできる力があるって思い込んでて。だから、こんなのでもお守りになると思ってた。
――全部、計算通りってことですか。いやあ、かなわねーっすわ、小夜さんには。
笑って冗談を装い、そう言いながら、私は、本当に、心底、彼女にはかなわないと思った。彼女は私に二つの薄っぺらなものをお守りとして渡し、実際に見事に効果を発揮した。私が用意できたのは折りたたみ式のナイフで、今も鞄の中にあるその存在感は、それの持つ力を表していると同時に、私をおののかせ、使わなくて良かったと思ったし、使ったところでもっと状況が悪くなっていただけなんじゃないかと思ってしまう。
あるいは、私は彼女を非難するべきだったんじゃないかとも考える。不確実な手段だけを提供して、私が危ない橋を渡るのを止めなかった彼女を。しかしそんな気持ちが全く起こらないのは、たぶん、彼女との信頼関係ってもののせいなんだろう。私は、できればそれを友情と呼びたかったけど。
――祭りの準備、してましたね。
――来る時に見た?
――はい。なんか、懐かしいですね。小夜さんと会った時のこととか、思い出しちゃいました。
――そうだったね。でも祭りが始まる頃には、お互い引っ越してるんだよね。
彼女はしみじみと言う。その裏側には、今は何もないと思う。あるいは、彼女の二つの面が、今はぴったり一つになっている。紅茶とミルクみたいに。彼女はそれを、混ぜ合わせることも、分けることも、自由自在にできてしまうらしい。私はそうでもない。アイスコーヒーに入れた粉砂糖のように、混ぜ合わせるのに苦労する。だから、溶け込ませることのできない感情が、ジャリジャリした舌触りのまま残って、言葉になってしまう。
――せいせいしますよ、やっと見なくて済むんだなあって。馬鹿みたいじゃないですか、あんなの。川のあっち側の方だけ、祭りのためにライトアップだとか出店だとか。そういうことやってる割に、街は汚いし寂れたままだし。反対側のこっちは田んぼばっかりなまんまだし。桜の時期にしか来ない観光客相手に必死になってるだけじゃ、絶対そのうち、どうにもならなくなると思いますよ。それで一年分稼げるならいいですけど。農業でもいいし、せっかくそこにでっかい道路が通ってるし、大きな街も近いんだから、何か誘致するとか、方法なんていくらでもあると思うんですよね。下手に伝統とかにこだわって片田舎のままにするよりも、いっそ、そういう物も全部捨てて、将来のことを考えた方がいいかもしれないじゃないですか。駅の周りとか、綺麗にするだけでもだいぶ違うと思うんですよね。まあ、私みたいなガキが言ってもアレですけど……とにかく、もっと、この地元に残ること自体を選びやすくなるようにしないと、人なんて、出て行くだけじゃないですか? ……私たちみたいに。
私が話し続ける間、彼女はにこにこしたまま、何も言わず、時々相槌を打ったり頷いたりするだけだった。私は、何というか、自分が空回りしているのは分かっていた。それでも彼女は聞いていてくれる。黙って。そこには否定も肯定もなく、同意も反対もない。まるで、子供が、泣きながら友達との喧嘩についての言い訳を話すのを聞く母親のように。それは、言葉が作る論理はともかく、私の気持ちだけは、間違いなく、理解しているという態度だった。
つまり、私は子供で、彼女は大人だった。そう思うと、そこにある隔たりを思い知らされることにもなるけど、同時に、こんなことを話して、分かってもらえる大人の相手がいるというのは、慰めというにはあまりにも嬉しかった。




