3-2.転身
――こんばんは、燕ちゃん。
マイクは持たずに曲だけ流し、椅子に座って、傍らに何かの本を置き、携帯電話を手にしていたその人が、私を見て顔を上げ、微笑んで言った。しかし一度きょとんとして、私の顔や服装をじっくりと観察してから、感心したように続けた。私はその反応を嬉しく思いながら、向かい合う位置に座る。彼女のグレーのスラックスと白のカーディガンという落ち着いた服装は、ケバい照明の部屋の中では、かえって浮いて見えた。とはいえいつも通り、落ち着いた雰囲気を見事に演出した姿なのは間違いない。
――今日は、すごくおしゃれだね。
――このスタイル、人に見せるの、初めてなんですよ。
――へえーっ……
彼女は手を伸ばして、私がこめかみに垂らした黒い髪に触れ、それを控えめによけたりして、その内側の、アッシュグレーの髪色を確かめた。私もそれに合わせて、頭の向きを変え、さりげなく、後ろで束ねた方の仕掛け、つまりそんな髪型にするとうなじに現れる、同じ髪色も示した。
――今日、会ってきたんでしょ? そのときもこうだったの?
――まさか。髪下ろしたら、カラーは全部隠れるようになってるんです。だから、さっきまで黒髪ロングでしたよ。メイクもさっき直してきましたし。あの人と会うときは、清楚系じゃないといけませんからね。でもスカートは、このくらいの方がウケが良いんですけど。(スカート丈の端の太腿を、指でなぞりながら)
――うまいねー、さすが。どっちも似合ってるよ。メイクも、自然で上手。
――よかったぁ。小夜さんに、まず見せたかったんです。ていうか、褒めてもらいたくて。
――嬉しいけど、私の目で良いのかなあ……これからは、もっとおしゃれしないといけないのに。
――もちろん。自信になりました。もう来週には引っ越すから、その前に見てもらえて、良かったです。
――いよいよ大学生かあ。いい大学に入ったよねえ、さすが燕ちゃん。
――えへへ、ありです。名前が変なのが、まだ慣れないですね。今時、国立大で女子大ってのも珍しいですし。変じゃないですか?
――確かにねえ。でも、私も受験の時には、結構憧れてたよ。
微笑む彼女は、私とは違う、本当に黒い髪を顎まで達しないくらいに短めにして、その髪色とメイクの印象の通りに、控えめな清楚さの中に収まっていた。でもその向こう側は、そうでもないかもしれない。というかそうではない面を私はよく知っていたけど、少なくとも私の前では、彼女はいつも、見た目通りの優しくて聡明なお姉さんだった。




