3-1.橋を渡った先で
このド田舎にもコンビニはある。たぶん都会のと同じ設備や品揃えを持っていると言っていいはずの。でもバイトの時給はずいぶん違う。それは矛盾だし、それを見過ごしているのは欺瞞だろう。もしくは、それが現実ってやつ。反吐が出る。
さんざん手を入れた鏡の中の私とにらめっこをしてからトイレを出て、能天気で冷たい明かりに照らされた店の中に戻る。鞄から無地の封筒を取り出して、その中身をATMに放り込んだ。画面に表示された金額は、私の手の中のあの重みや厚みの印象と、ぴったり一致していた。それがこうやってただの数字になり、やがて私の携帯電話の中の残高になる(その情報が実際に携帯電話の中の状態を表しているわけではないことくらいは知っている)。さらにあの封筒に入れられる前には別の形だった。たぶん、通帳に書かれた数字だったし、さらにその前は? 書類に書かれた数字。誰かにお金を貸すという手続きのための書類。どこかの誰かへの。奇妙な変化。
暗い道を歩きながら、「もうすぐ着きます」とメッセージを送る。川を渡る橋にさしかかったあたりで返事が来て、待ち合わせている店の、部屋の番号を知らされた。それはついさっきまでいた部屋の番号と同じだった――なんていう偶然はなかった。数字は一つも一致していない。そもそも桁数が違うし。
橋の反対側の歩道を、誰かが歩いていく。通り過ぎるまでこっそりとその人を観察してから(見知らぬおじさん。怪しいと言えば怪しいし、そうでもないと言えばそうでもない)、川に目を向けた。立ち止まりもしないし、速度を緩めもしないまま通り過ぎるその川の水面が夕闇の中に揺れている光景は妙に印象的で、流れる水の音が、妙に耳に残った。
明かりの少ない地区や明かりの全くない田んぼを抜けて、今度は異様なほど明るくなる。街灯が光の島の隙間を作らずに並び、幅の広い道路にはひっきりなしに車が通り、信号が赤になれば一時的に渋滞が起きる。道の両側に連なる大きな店の、色や形や様式は様々だけれど、全部見覚えがある気がする。見るのが初めてでもたぶんそうなっただろう。決まり文句やお約束の内容しかない動画みたいに。世の中のものが、ほとんど全部そうだ。ただ少なくとも、こういうものには合理的な考えがあって、ついでにお金があって、清潔だった。
入ったカラオケでも、はっきりそう思う。さっきまでいた、川の向こう側の、地元のたまり場のようになっている古くさい店とは違う。受付は(ついでに言っておけば部屋も)綺麗で明るく、きっと手順通りに整備されている。受付に声をかけ、陰気な応対を受けて(こういうところはあまり変わらない)、廊下を歩きながら送った「着きました」のメッセージに既読がついたのを確認してから、知らされていた部屋に入った。




