2-7.敗残
――ああ、分かった。馬鹿な真似をしたことは謝る。だから……ただお願いするよ。なあ、いいじゃないか、このままの関係を続けさせてくれないか。君が来てくれるんならもちろん交通費は出すし、これまでよりももっと払う。いや、僕が行く形でもいいんだ。君にとっては、得するだけの話じゃないか。もうあんな脅すようなことはしないし、いや、できないのは、君だって分かってるだろう。なあ……もう一年にもなるんだよ。お金以外のものだって、僕たちにはあったじゃないか。そうだろう?
相変わらず彼女は笑っている。私の上ずった声や内心の必死さとは全く不釣り合いに。しかし、私の言葉を聞き流しているというわけでもなかった。それを一つずつはっきりと聞き、理解しようとしている。それでもなお、彼女は笑っていた。
もはや繰り言も思いつかず、それを発するための息も尽きて、ただ動悸だけが高まり、声の出なくなった私を値踏みでもするようにまっすぐに見ていた彼女は、一度ため息のような息を吐いて、そして言った。
――大変ですよ、向こうまで通うなんて。余計な出費もかかりますし。まあ、せっかくこんなきっかけがあるんですから、ここですっきりお別れして終わるのが、いいんじゃないですか? ね?
その言い方は諭すというか慰めるようで、何の悪意も感じられなかった。その笑顔からも。
私は返す言葉もなく、がっくりと肩を落とした。それ以外に何もできなかった。視界を満たす私の影のの中には、バラバラになった名刺の破片が散らばっていた。
そして鞄に何かを入れたりするささやかな身支度の音が聞こえ、やがて立ち上がり、こもった足音が続く。
――ああそうだ、あの写真、消しといてくださいよ。盛りすぎで気持ち悪くて、人に見せられるようなのじゃないんで。
返事をする余裕も作らずにそう言い捨てて、ドアの開閉の音を残し、彼女は去っていった。
後には、突き刺さるような固い静寂と、浅ましい敗残者たる私が残った。いっそ泣いてしまいたかったが、そのためには、私は年を取り過ぎていた。ただできたのは、ただ自分の浅ましい矜持のために、彼女の言葉に従うことくらいだった。




