第三十話 服
扉が開いた音がしたのでその方向を向く。
そこにはミハルがいた。
いや、まあ当たり前なのだがそれでも十分なインパクトが俺に当てられたのだ。
「どう、ですか?」
少しもじもじとしながら繰り出される言葉の破壊力は凄まじい。
「と、とても似合っているぞ。」
どうにかその一言を絞り出す。
普段とは違う姿のミハルはなんだか新鮮で、とても可愛く見えた。
いや、普段から可愛いとは思うが。
それだけで分かりやすく緊張気味だったミハルの頬は少し緩んでいる。
その後も幾つかの試着を経て、既に俺の心は破裂気味だった。
別にアルセナとして見ているわけではない。
しかし、ミハルは本人が可愛いのでこう言う状態になってしまうのだ。
先程から出てくるたびに「似合っている。」「可愛いぞ。」ぐらいしか言っていないが大丈夫なのだろうか?
本人は喜んでいるようなので大丈夫だと言うことにしておこう。
次にいつもの服に着替えてきたミハルは俺に更なる追撃をかます。
「鎧さんも、何か選んでみてくれませんか?」
そんなことを言われてしまったら断れるわけがない。
ここで何か言い訳をして逃げればミハルを悲しませてしまうだろう。
だからといって俺のセンスが上がるわけではない。
よく考えて決めないと駄目だ。
「これと……これなんてどうだ?」
選んだのは白を基調とした服と、少し薄めの青色のスカートだ。
至ってシンプルなものだが、これが限界だった。
「着てみます!」
そう言ってミハルは再び更衣室へと飛び込んでいった。
そして数分後、出てきたミハルはもはや直視できるものではなかった。
もちろん悪い意味ではない。
とにかくよく似合っている。
単に自分が選んだと言う意識のせいかもしれないがとても言葉にできない何かがあった。
白色の服はミハルの黒髪によく合い、引き立たせている。
スカートは手に取った時には気付かなかったが小さく花の刺繍があり、そこまでシンプルには感じなかった。
どれほど彼女を見ていただろうか。
「あのっ、似合ってませんか?」
不安げにこちらを見つめるミハル。
「すまない。見惚れてしまっていた。」
こちらも反射的に本音で返してしまう。
ミハルは真っ赤になって更衣室の中に引っ込んでしまった。
しばらくすると出てきて、カゴの中に今までの服を入れた。
「俺が出すよ。」
「いいんですか?」
「ああ、まだ買うものがあるんだろう?」
モミジから全員に自由に使えるお金は結構もらっているが、俺は服も装備の手入れなんかも特に要らないので余っている。
ミハルも今回ばかりは素直に受け取ってくれるようだ。
会計を済ませ、店から出る。
その後もいろんなところを回り、気づけば一日が終わろうとしていた。
「今日は付き合ってくれてありがとうございます。」
「いや、こちらも楽しかった。よければまた行こう。」
「はいっ!」
目を輝かせるミハル。
ああ、本当に楽しい一日だった。
そう感じながら俺はミハルと別れ、部屋で眠りについた。




