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鎧の人  作者: たい。
間章
28/46

閑話(モミジ)

私は街を出る前に商人としての活動をすることにした。

「これだと、銅貨九枚ぐらいねぇ。」

「そこをなんとかしてくれ!」

そう頼み込むのは見るからに貧しそうな格好をした少年。

手に持っているのは上薬草。

決して質がいいとは言えないが、手に入れるのは苦労したのだろう。

少年の身体中の切り傷がそれを物語っている。

「でも商売だものぉ。」

「今度金貯まったらなんか買うから、な?」

「仕方ないわねぇ。銀貨一枚よぉ」

「よし、これで半分!」

「なにか買いたいものがあるのぉ?」

「実は、今日、妹の誕生日なんだ。いつも辛い思いさせてる分何か買ってやりたくて。」

その言葉に私は過去を思い出した。


その日も一人の狐の獣人の少女は貧民街を彷徨っていた。

栄養状態は悪く、吹けば命の灯火が消えてしまいそうだった。

食事は三日に一回。

金になるものを見つけても足元を見られる。

今日は運が悪く、何も見つけることができなかった。

もう四日も何も食べていない。

一応たまに炊き出しがあるが、貧民街にも身分のようなものがあり、一人の下っ端にまで回ってくることなどない。

この辺りには薬草が多い分、毒草も多く、寝込んでからは草を食べるのは辞めた。

見分けることは出来るが、薬草は売って他のものを食べたい。

でも、今回ばかりは本当にまずいかもーー

ドサッ

気付けば地面が目の前にあった。

もう指先一つ動かす気力すら無い。

歪んだ視界に私は人影を見出す。

「母さん……?」

それは、私に妖術や魔力の使い方を教えてくれた人。

あの日、叔父に殺された筈の人。

母さんはその身を挺して私を守り、逃してくれた。

無駄に、なってしまう。

視界は既に暗転し、思考も上手く回らない。

温かいものを感じる。

それに誘われるように意識すらも落ちていった。


そして、目が醒めると私の体は布団の上にあった。

「お、目が醒めたか。」

「……誰?」

「そう警戒すんなって。それより、ほら、食えよ。」

そう言って差し出されたのは一杯のお粥。

理解が追いつかなかった。

貧民街の住人を奴隷にするのは法律違反だが少数はいる。

しかし、このお粥は何だ?

こんな貧しい小娘に何を期待してこんな事を?

黙って差し出された皿を見ていると男は頭を掻きながらこう宣った。

「目の前で倒れたのをほっといたら寝覚めが悪いだろ。」

その言葉から嘘は感じられなかった。

どうせこのままでも死ぬだけだ。

震える手で皿を受け取る。

まずは、小さく、一口。

ただのお粥だ。

特に具材もない。

でも、それは甘かった。

更にもう一口、二口。

体が栄養を求めている。

あっという間に皿は空っぽになった。

それがギルドマスター、カラムとの出会いだった。

もっとも、この頃はまだ唯の冒険者なわけだが。


次の日もカラムは食事をくれた。

「ごめんね。」

何の役にも立たない乞食に手間をかけさせて。

「俺は、ありがとうが欲しかったな。」

「あり、がと。」

どうにも体が上手く動かない。

どうやら、私の体は回復に注力しているらしい。


その数日後。

私はすっかり顔色も良くなった。

ガリガリなのは仕方がないだろう。

「今までありがとう。」

「おう、気をつけろよ。」

結局、カラムは最後まで私のことを心配してくれた。

久しぶりに触れた優しさに心が痛んだが、このまま甘えているわけにはいかない。

数日間の療養でだいぶ良くなったことだし、また森に薬草を探しに行こう。

魔樹林は危険だが、その分珍しい植物も多く見つかる。

何故か魔樹林はこの辺りにしかない特殊地形なのだ。

一説には地上に表出したダンジョンという説もあるくらいだ。

さて、この辺りは比較的モンスターが少ない。

その分実入りも少ないわけだが、今の私にはこれで十分だろう。

そう思って、居たのに。

『イビルウルフ』

B級モンスター。

その群れに私は追いかけられていた。

通常、上位モンスターは魔力の密度が濃い場所を好むとされている。

だから、ここまで表層に出てくることは少ない。

あるとしたら縄張り争いに負けた群れぐらいだろう。

つまり、実質B級程の脅威ではない。

しかし、こちらは武器も持たぬ人。

一瞬で殺されるのは目に見えている。

捕まれば死。

それを自分に言い聞かせ、走る。

だが、所詮は少女、しかもガリガリの足。

その距離はぐんぐん縮まっていく。

そんな時、ガンッ。

群れの一体が吹き飛んだ。

「気をつけろって言っただろ。」

そこに居たのはカラム。

「言っておくがたまたまだ。いいな?」

「う、うん。」

吹き飛ばされた個体が起き上がるーー

前に『狐火』

護身用の魔道具でトドメを刺す。

「なんだあれ!」

「私がやった。気にしなくていい。」

その言葉に頷くと、謎の焔に困惑していた狼に斬りかかる。

B級相手に互角に戦う。

それだけでカラムの技量が見えた。

持っている大剣を振るうと血が飛び、爪を刀身で防ぐ。

暫くそんな攻防が続き、金属音と共に最後の一体が倒れた。

「ふぅ。」

「あ、あのごめんなさーー」

「お前、うちに来ないか?」

「え?」

「あ、いや、変な意味じゃなく。お前、困ってるんだろ。うちに来いよ。」

その目は初めて見るほど純粋で、輝いて見えた。

「いい、の?」

カラムの首が縦に振られる。

いつの間にか視界は歪み、地面は濡れていた。


目が醒めると、知らない天井があった。

少しして、ああ、カラムが私を拾ってくれたんだったと思い出した。

本当に、カラムはどこまでもお人好しだなと思う。

たまたま、目の前で倒れた餓鬼を拾ってくれたのだから。

「そうだ、お前、魔樹林には絶対に行くなよ。」

「なんで?」

「最近、魔樹林で縄張りの変化が起きているようだ。それに伴い、あぶれた魔物たちが人里へと出てくることがある。飯は俺が喰わせてやるから休んでてくれ。」

なるほど。だからB級モンスターがあんなところに居たのだ。

私もつくづく運が悪いな、と、そう思った。


数年後。

「カラム、右!」

「おうっ!」

注意を促しながらも前方からカラムを襲おうとしていた相手に『狐火』を放つ。

カラムのおかげで成長した私はカラムともう一人とパーティーを組み、冒険者をやっていた。

今日の目的は遺跡調査。

空になった遺跡には多くの魔物が棲みついていた。

「厄介だねぇ」

そう零したのはセナという少女。

カラムと共に前衛をやっている。

歳が近いので、あんな子が前衛で戦ってるなんて凄いといつも思っていた。

「まあ、仕方ねえな。」

カラムが苦笑して私たちはどんどん奥まで進んで行く。

進むにつれてモンスターの数が減って行く。

「あらかた倒しちゃったのかなぁ」

「いや、何かおかしい。」

突如、壁が破れ、セナが弾き飛ばされる。

「セナッ!」

しかし、構っている余裕はない。

破れた壁からはドラゴンが出てきた。

「モミジ、セナを頼む。」

「そんな無茶な。」

ドラゴンは一人で相手できる存在ではない。

あの日、私を救ってくれたカラムが死ぬのは耐えられなかった。

でも、セナも大切だという葛藤が私を襲う。

「あまり時間は稼げないぞ。」

その言葉に私は冷静さを取り戻した。

そうだ、片方ではなく、両方を救うのだ。

気づけば既に走り出していた。

「セナ、大丈夫?」

「うん、痛かったぁ」

だが、壁が削れる程度には吹き飛んだようだし、頭からは血が流れている。

「これぐらい大丈夫だよぉ。それよりもあっちぃ!」

見れば、カラムが必死にドラゴンの攻撃を防御している。

こちらに来るのを抑えているだけでも凄いことだ。

しかし、もう限界も近いと見える。

爪の衝撃を受け流しきれず、カラムも弾き飛ばされる。

「カラムッ!」

後衛の脚では間に合わない。

横をセナが通り過ぎた。

グチッ

聞こえてはいけない音が私の高い聴力に引っ掛かる。

視線の先には驚いた表情で尻餅をつくカラムとカラムを押して代わりに爪の餌食となったセナが居た。

ぼたぼたと血を流しながらもセナは立っている。

「二人とも、ごめんねぇ」

そう言って、セナは

「『限界突破(オーバードライブ)』」

魔法を使用した。

それは驚異的な力を得る代わりにその命を削るもの。

あの状態でそんな魔法を使えばまず、助からない。

そのまま腰にささりっぱなしだった剣を持つ。

「あ……」

叫びたいが声にならない。

想像を絶する速さでドラゴンを袈裟斬りにしてセナは倒れた。

ドラゴンもその巨体を力なく倒す。

「セナッ!」

カラムのその叫びに体が再び動き出す。

彼女はもう息も絶え絶えで生きているのが不思議なぐらいだった。

「セナ、待ってろ。今ポーションをーー」

「もう間に合わない。分かってるでしょ。」

セナは落ち着いた様子でそう告げた。

「そんな、そんな!クソッ!」

カラムの目から涙が零れ落ちる。

「そんなに悲しまないで?私は二人に笑っていてほしいなぁ。」

「ならば生きろ!お前なしで笑ったりできるわけーー」

その言葉がセナに届くことはなかった。

最後の力を振り絞っていたのだろう。

既に彼女の目に光はなく、二度とその心臓が動くことはなかった。

私たちは遺跡から脱出してギルドに事のあらましを伝えた。

ドラゴンとセナの死体はギルドによって回収されたらしい。

葬儀、ドラゴン素材の受け取りを終えた私たちは料亭で話していた。

「なあ、俺、冒険者辞めようと思うんだ。」

すっかりやつれた様子のカラムがそう切り出した。

「私も。もう辞める。」

「俺はギルドに就職するよ。前から声が掛かってたんだ。」

「私はーー商人をやる。」

「お前が商人か。意外だが、頑張れよ。」

「じゃあ、またね。」

そうして私たちは冒険者を辞めてそれぞれの道に進んだのだった。

今の喋り方はセナを真似したものだ。

決して彼女を忘れないように、ドラゴンの鱗は今でも持っている。


回想を終えた私は目の前の少年に目を向けた。

「気が変わったわぁ。銀貨三枚よぉ」

「え、何でそんな大金!」

「これでプレゼントを買ってあげなさい。残り一枚はなにか美味しいものでも食べて。」

「そんな貰っても俺、返すことなんて。」

「いいわよぉ。もうすぐ私はこの街を出ちゃうし。」

「ほ、本当にいいのか。」

「そうよぉ」

「ありがとう!」

そう言って少年は走って行った。

強く生きてほしいと、温かい気持ちになった。

かつてカラムは私にこんな気持ちだったのかなと思ったりする。

そうだ。

今度こそ仲間を失うわけにはいかない。

セナに顔向け出来なくなってしまう。

「セナ、見ててね。」

そう言って私は小さく笑ってみせた。

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