第十八話 孵化
向かい合った女王と亀はしばらく睨み合っていた。
やがて女王が亀に尻尾から毒針を飛ばす。
効果はない。
毒針は亀の体の中で向きを変え、水圧によって高速で発射された。
自分の武器で体を穿たれた女王から青い血が噴き出す。
今度は口から酸を吐き出すがそれも効かない。
亀は口から高水圧の水を出し女王の胴体に大穴を開ける。
流石の女王もこれには耐えきれず動かなくなった。
「終わったかしらぁ」
女王の姿はバックから聞いていた通り、少女に変わり、灰となっていった。
ピキッ
ところが女王がいた場所の後ろにあった大岩。
そこから音がした。
ピキピキピキッ
「玄武、そこの卵を壊してっ」
パキンッ
中から出てきたのは今までのどれとも異なる個体。
私は本能的にまずいと感じた。
命令を受けた玄武が高水圧を撃つ。
虫の腕の一払いで軌道を逸らされる。
体の表面を覆っているのは骨格というよりも鱗に近い。
生まれたばかりだと言うのにとんでもない強さを誇っていた。
「これは……成虫にさせるわけにはいかないわねぇ」
とはいえ、形代をもう一枚ここで使うわけにはいかない。
あれは一枚作るのに一年かかるのだ。
一応十枚以上はあるもののここで使うのは安易なことだと思えた。
虫が玄武に爪を振りかざす。
水が裂けた。
即死ではないが、修復に時間がかかる。
「しょうがないわねぇ」
久しぶりに自身の魔力の流れを感じ取る。
「臨 兵 闘 者 皆 陳 列 在 前」
最も力が強い九字のうちの一つ。
その力を玄武に注ぎ込む。
私の魔力量では一回唱えるのが限界だ。
一応魔力ポーションは常備しているがあれは無理矢理体に魔力をくっつけるようなものなので体に負担がかかる。
玄武は前に出た。
一瞬で水がくっつく。
見た目に大きな変化はない。
しかし、中身は大きく異なっている。
再び爪による攻撃を試みた虫。
しかしそれは亀から噴き出した水柱により弾かれ、体勢を崩す。
その無防備な背中に亀は頭を密着させ、高水圧を放った。
ゼロ距離で腹に高水圧を受け、流石の虫も大穴が空く。
そのまま力なく倒れた。
死体が変化することはない。
ここでは女王以外の姿が変化することはなかった。
あの虫たちは卵から生まれたものが人を養分にしたものだったのだろう。
気分の悪い話だ。
ならば、玄武と培養室に戻る。
ちなみに扉は玄武より小さいが、水なので変幻自在で通ることができた。
いくつか出てきた虫もいたがそれごと高水圧で薙ぎ払う。
しばしの間、黙祷を捧げ、中に戻り、最初に襲われていた男性を見つけた。
背中の卵の脈動が服越しにでも分かる。
まだ微かに息がある。
「『狐火』」
この術は純粋な人には効かない。
精々驚かせるくらいの効果しかない。
蒼い焔は虫のみを焼き尽くした。
男性が吐血する。
今まで卵があった場所に穴が空いたのだ。
こちらも常備していた回復ポーションを飲ませる。
一応傷口は塞がり、荒い呼吸も落ち着きを取り戻してきた。
玄武召喚中は常に少しずつ魔力を使う。
それに加えて多くの幼虫の掃討、九字を使い、最後にはもう一度『狐火』を使ったので私の魔力は底をつきかけていた。
玄武を帰してから男性を背負って私は病院へと向かった。




