妾は所詮作り物じゃ
◇◇◇
【夏央視点】
「起きろ!!!!!」
鼓膜どころか体を揺さぶるような大音声に夏央は飛び起きた。
「なんだ? 何が起きた?」
エリアルの魂と体を結びつける作業をしていて気を失った?
「エリアルは……?」
目を開くとそこは白い世界だった。
微かに感じる優しい香り。遅れて背中に温もりと柔らかさを感じ、思い出したように自分の状態を確認する。
スープラが横たわる自分を支えていた。
「目が覚めて良かった。でもすごい声だったね」
「声……声か。何だったんだ? あ、いやごめん、重いよね」
夏央は慌てて体を起こす。
「大丈夫だよ。突然倒れたから支えてたの。前にもこんなことあったね」
スープラは安心したように微笑む。
確かにそんなことがあった。遠い昔のようにさえ感じる。
あの時と違い、ここは真っ白な世界。エリアルたちの姿はない。
《小さきものよ》
誰かが頭の中に直接呼びかけている?
スープラを見ると頷いた。スープラにも聞こえているようだ。
「あなたは誰?」
《我はお主たちがコキュートスドラゴンと呼ぶ者》
声が答える。
《我はお主たちを観察していた》
確かにすごい見てたよな、と夏央は思う。
しかしなぜ直接声をかけてきたのか。そしてここは何処なのか?
《……やはりお主らの言語は効率が悪い。直接送り込んでやろう》
思いもかけない少しめんどくさそうな声とともに、頭の中に直接映像と音声、というかむしろ記憶のようなものが流れ込んできた。
ブラウドラッハのときとは違う。圧縮された情報がものすごい勢いで流れ込んでくる。そのスピードでの理解を強要されている。
夏央が倒れた後、エリアルが目覚め、体に異常が現れた。倒れている夏央に代わり、シャルロットがシュシュに支援を求めた。自分の十年を対価にする? 力が足りないというシュシュ。酷く焦っている。シャルロットとエリアルが危ない。話しかけてくるコキュートスドラゴン。対話。魔王が目覚めれば出来る?? つがいと種も起こす? つがい?? いや待って、そう見えてるの?? 種? …魔王の目覚めって覚醒ってこと?
情報が多い……!!
頭痛がする。何気なくスープラと目が合う。
スープラは照れたような表情を浮かべて俯き、上目遣いに夏央を見返した。
「つがいって言ってたね……?」
「言ってたな……」
(しっかりせい! もっと大事な情報があったじゃろが!)
ブラウドラッハの声が割り込む。
危ない。ちょっと妙な雰囲気になりかけてた。それどころじゃなかった。
シャルロットとエリアルが危ない。
(やっと届いたか。意識が戻った……戻ってはおらんな。そこは別の空間じゃな。体は大丈夫か?)
ほっとしたようなブラウドラッハの声。
「うん、大丈夫だと思う」
「ここはどこ?」
《我の作り出した空間だ。ふむ、ここに介入してくるとは面白い。お主も実体化させてやろう》
コキュートスドラゴンの声とともにブラウドラッハも姿を現す。
「見た目は大丈夫そうじゃな、安心したぞ」
「ブラーシェもこんなことできるの? 同じ龍だよね?」
「できる訳が無かろう。妾は所詮作り物じゃ。せいぜい鱗の一枚程度の存在だろうて」
スープラの問いに呆れたようにブラウドラッハが答える。
《謙遜するな。我の空間に介入出来るなら大したものだ。鱗の二枚程度はあろう》
空気が震える。コキュートスドラゴンが笑ってる? 笑うんだ? でも二枚程度なんだ。突っ込みどころが多すぎる。空気を読んで夏央は突っ込まずに耐えた。
《さあ、種を起こしてやろう。魔王、お主が覚醒せねば死にかけの仲間は助からんぞ。喰われぬように気をつけろ》
「種を……起こす?」
「聞いたことはないが実体化させるのじゃろう。本物は何というかスケールが違うの。来るぞ」




