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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
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話 騎士道などとうに捨てている


 動け! 動いてくれ!


 夏央の気持ちとは裏腹に、腕にも脚にもまるで力が入らない。ヨロヨロと立ち上がりかけて転ぶ。

 ブラウドラッハの支援が無ければとっくに意識を失っていただろう。


「お兄ちゃん……!」


 スープラが苦しげに呻く。いつのまにか髪の色がシルバーブロンドに戻っていた。


 ゼータに向かって小太刀を振り上げたラファエラが嬉しそうに笑う。


「さようなら、英雄さん」


 血飛沫が舞う。


 ゼータは左手を犠牲にして小太刀を止めていた。


「エリアルは人を大切にし、己が生を全うしようとする。どんなに無様でも」


 ラファエラは小太刀を引き抜こうとしてゼータと揉み合う。


「往生際が悪い! 黙れッ! がっ」


 ラファエラは後ろから何かにぶつかられたように一瞬浮き上がり、唐突に大量の血を吐いた。


 夏央は目を見張る。


 ラファエラの胸から、スープラが落としたゼータの刀が飛び出していた。


「な…にを……?」


 驚愕の表情で振り返ろうとするラファエラの後ろにはシャルロット。


 一体いつそこに??


 夏央は全く気付かなかった。


 シャルロットの影からフワリとリュリーが浮き上がり、この場にそぐわないキラキラした音を立てながら離れていく。


「卑怯な……。それが騎士のすることか? 所詮は……妾の子」


 血を吐きながらよろよろとシャルロットに振り向いたラファエラが嘲笑う。

 ラファエラの姿が霞み、エリアルの擬態から元のラファエラに戻っていく。


「なんとでも言え。騎士道などとうに捨てている。私は私が守りたい人たちを全力で守る。どんな汚い手を使ってでも」


 シャルロットは鋭い目を向けて答えた。


「……どいつもこいつも使えない」


 ラファエラは吐き捨てるように言う。


「これで……勝ったと思うなよ」


 ラファエラはエーテルのエリアルに手のひらを向ける。


 エーテルのエリアルにあの禍々しい首輪はもう無い。

 ロキシーは対処を終えている。


 俺たちは勝ったのか……?


 しかし、ラファエラに動揺は感じられない。


 血塗れのラファエラは……青ざめた顔で薄笑いを浮かべた。


「綺麗な終わり方などさせてやるものか……。惨めに足掻いて醜く共に堕ちろ……」


 ぐらりと傾いたラファエラが倒れる。


 その言葉に反応したように、エーテルのエリアルの下から、赤く光る巨大な魔法陣のようなものが浮かび上がった。


 魔法陣は内側に向かって収束すると、ひときわ明るく輝いて消えた。


 その瞬間、エーテルは音を立てて砕け散った。


 砕けたエーテルの向こうで、今まで沈黙していたコキュートスドラゴンがゆっくりと巨大な目を開く。


 夏央は反射的に恐怖を覚えるが、不思議と威圧感は感じない。


 ドラゴンはラファエラに目を向け、それからエリアルを見た。


 ラファエラの周りにゆっくりと血溜まりが広がっていく。ラファエラはぴくりとも動かない。


 エーテルの中にいたエリアルは倒れることなくその場に立っている。


 不思議そうにぱちぱちと瞬きする。


 何が起きた??


(これは……いや、まずはシュバルツの意見が欲しい)


「エリアル!!」


 息も絶え絶えだったはずのゼータが真っ先にエリアルの下へと向かう。


「お姉ちゃん!!」


 叫びながらリップもよろめきつつ駆ける。


 夏央はシャルロットを見る。

 シャルロットは夏央と目が合うと不安そうに頷いた。


 シュバルツが珍しく不機嫌そうな表情を浮かべて姿を現す。


「まずはエアリアル様のところへ行きましょう」


 シャルロットはラファエラの身体から刀を回収した。


 夏央はシャルロットの手を借りて、苦しそうに呻くスープラを助け起こし、四人でエリアルの下へと向かった。



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