お前の大切な女を守るために
夏央達はエーテルのエリアルのいる場所に戻ってきた。
広間は雪と氷に覆われ、広い空間のほぼ中央にコキュートスドラゴンが丸くなって眠っている。コキュートスドラゴンの下が少し盛り上がっているように見えたが、多少近づいてみるとエーテルの小さい結晶がまるで円座の様に集まっているのが分かった。
エーテルのエリアルはあろうことかドラゴンの正面にあった。さらに一回り大きくなったエーテルがエリアルを包んでいる。
そもそもこんな位置だったか? ドラゴンが何かしたのか?
ラファエラは躊躇うことなくエーテルのエリアルに向かっていく。ゼータもそれに続く。
多少離れているとはいえ、文字通りドラゴンの目と鼻の先だ。
先行した二人以外は歩みが遅くなる。うん、普通に怖い。
目を覚ましてブレスを吐かれたらおしまい。そうならないだろうという予感はあるけど怖いものは怖い。
ラファエラとゼータはエリアルのエーテルにたどり着いた。
ドラゴンはなんの反応も示さず、眠り続けている。ラファエラが調べてきた情報は今の所は確かなようだ。
ラファエラはエーテルとその中のエリアルを丹念に調べている。何かメモを取りながら、首を傾げたり、頷いたり、腕組みをしたり。
ゼータはその様子を油断することなく監視している。
ふと、ラファエラが振り返る。
満足したように笑っていた。
「わかりましたー。エアリアルさんはまだ生きていますー」
夏央はゼータが安堵して立っていられなくなるんじゃないかと思った。
でも、ゼータは変わることなく立っていた。エーテルのエリアルを見て、それからラファエラを促すように視線を向ける。
ラファエラが口を開く。
「でも、私の力だけでは回復させることはできませんー」
ラファエラの瞳が夏央を捉える。
「グランツヴェルトの力が必要ですー。お譲り頂けますかー?」
ラファエラにグランツヴェルトの話をしただろうか?
していないはずだ。いや、待って。譲れ??
思わずゼータを見る。
ゼータは首を横に振る。
ブラウドラッハには聞くまでもない。
ロキシーは厳しい目をラファエラに向けている。スープラとリップも同様だ。
「俺達には蘇生は無理だ」
そもそもエリアルが居ない。シュバルツもいない。
「あなたにやってほしいとは言っていませんよー?」
ラファエラが苦笑する。
「そのグランツヴェルトを私に譲ってくださいー。私なら使いこなせるのでー」
「なぜそこの娘がグランツヴェルトだと?」
ゼータが尋ねる。
「話したじゃないですかー、見たことがあるとー?」
ラファエラが笑う。
違和感。こんな笑い方をする人だっただろうか?
「ファランクス、と言えば分かりますかー?」
聖病院は魔王崇拝派、とかさねが言っていた。ファランクスもそうだったはずだ。
夏央は考える。つまり、ラファエラは。
「ファランクスとヴァイスティーガーですか」
ロキシーが答える。
「ええ。正解ですー」
頬の横で両手を揃え、嬉しそうにラファエラが答える。
ああ、この人は。
「ブラウドラッハは渡せない。力を借りるだけではだめなの?」
夏央は一縷の望みをかけて尋ねた。
「まあ、そう言うでしょうねー」
ラファエラはゼータに向き直る。笑みが消える。
「ではゼータ。彼らを倒してグランツヴェルトを奪ってください」
口調が変わった。声音も冷たく。
「お前は何を言っている?」
ゼータがラファエラを睨む。
ラファエラが睨み返す。
「私の両親を殺したように、この人たちを殺して、グランツヴェルトを奪いなさい。奪ったグランツヴェルトの見返りとしてあなたの大切な彼女は蘇生してあげるわ」
「お前の両親だと?」
戸惑うゼータの隙をついて、ラファエラの手がずぶりとエリアルを包むエーテルへと入り込む。
エーテルの中のエリアルの首に赤く禍々しく光る荊のような首輪が現れる。
「ええ。忘れたとは言わせないわ。私はあの場で、あなたが私の両親を殺すのを見ていた」
ロキシーの顔が険しくなる。
スープラとリップが戸惑っているのがわかる。
ラファエラはあの場にいた?
「せっかくグランツヴェルトで力を得たのに! お前が殺した! お前達が! 私の両親達を皆殺しにした!」
血を吐くような声でラファエラが叫ぶ。
ふわふわしたラファエラの面影はもうない。
この人は、敵だ。
「さあ! 殺し合え!! お前の大切な女を守るために!!」
エリアルを人質にして、ラファエラが嗤った。




