エリアルの回想
◇◇◇
【エリアル視点】
そう、あれは王立学院小等部の初日の事だったわ。
「お父様、ただいま戻りました」
「おかえり、私の可愛いエアリアル。学校初日はどうだったかな?」
「私、お父様に謝罪をしなくてはならないわ!」
「どうした? なにか壊してしまったのかい? そのくらいじゃ私を驚かせることはできないよ?」
「私、やらかしちゃったの!」
「んん?」
「ゼータ王子を、私の婚約者をこてんぱんにのしちゃったの!」
「……く、詳しく聞かせなさい」
「淑女の名前をきちんと言えないどころか、『言いにくいから エリアルでいいだろう』なんて酷い侮辱をされたの! だからやり返してやったの」
宰相であった父があれほど青ざめるのは初めて見たわね。
私に色々質問して詳しく話を聞き取ると、父は速やかに王城へと向かったわ。
結局ゼータは、嫌そうに謝罪はしたものの、エリアル呼びをやめなかったわ。今思えば滑舌が悪かったのかもしれないわね。
それで私達二人は何度も喧嘩をしたわ。
父は私の話を聞く度に、王城へ向かったわ。申し訳ないとは思ったけれど、私は悪くないって思ったわ。
幼い第一王子とその婚約者が繰り広げる諍いは、当初は微笑ましく見られていたみたい。とはいえ、毎度毎度喧嘩になるものだから、さすがにこのままではまずいだろうということになり、私達二人は王と父の付き添いの中で対峙することになったの。
「まったく。最初から素直に謝っておけば良いものを。ここまで拗らせるとは情けないにも程がある。王たるもの簡単に謝ってはいけないなど誰が教えた? そもそもお前は王では無いし、このザマではなれるかどうかも怪しいぞ」
ゲシュペンシュタット王が嘆息する。
「ここには俺たちしかいない。まずはきちんと謝罪しろ」
でも、私の前に立つゼータは、悔しげに俯くだけで何も言わなかった。
私、とてもがっかりしたの。
今までの鬱憤もあったし、ここはかっこよく決めてやろうと思ったわ。
「ではしようがありませんわね。ゼータ王子。貴方との婚約、破棄させていただきますわ!」
本で読んだお話のように、わたしは高らかに言い放った。
父は大きく口を開けて固まったわ。
ゲシュペンシュタット王は大きな声で笑っていたわね。
ゼータはあっけに取られ、それから言い返してきた。
「ならば俺はその婚約破棄を破棄させてもらう!」
後はもうまさに子供の喧嘩だったわ。呆れるお互いの親を後目に、お互いに破棄を破棄だと言い合ったの。
最終的には、王に拳骨を落とされたゼータが涙目で謝ってその場は手打ちになったわ。
どうやってちゃんと仲直りをしたのかは忘れてしまったわ。
◇◇◇
シャルロットは思わず苦笑してしまった。
「確かに深窓の令嬢には程遠いですね」
エリアルは優しく微笑む。
(ね。実際はこんなものなのよ。誰が作った綺麗なお話なんて忘れてしまいなさい。あなたは、あなたの見たもので判断すればいいわ)
実物はお話よりも素敵でしたよ。私、エリアルに会えて本当に良かった。
私にできる事を全力で、とシャルロットは改めて思う。
(こんな話を聞いてもシャルがそう思ってくれるなら嬉しいわね)
シャルロットはエリアルの言葉に穏やかな気持ちになったが、部屋のドアの前に人の気配を感じて気持ちを引き締めた。
「誰?」
「いい反応。ロキシーに頼まれて来た」
(あら、かさねが来たのね。せっかくだしちょっと代わって貰えるかしら?)
(わたくしが切り替えを支援しますわ。よろしくて?)
シュシュの声にシャルロットは同意する。
意識が切り替わり、ふっと体が軽くなった。
視界はあるのに体が浮いているような頼りなさ。体が動かないことに恐怖を覚えるが、これが切り替わったということなのかと納得する。
立ち上がっただけなのに、いつもの自分よりも動きに優雅さがある。
自分のものではないような体が勝手に動いてドアを開ける。
ドアの向こうには見知らぬ黒髪の少女が立っていた。肩には妖精さんもいる。
いや、この少女は見た記憶がある。でも私の記憶じゃない。これはエリアルの記憶?
「来ると思ってたわ、かさね」
かさねと呼ばれた少女は首を傾げた。
確かに、話したこともない私に親しげに話しかけられればこうもなるでしょう。
「確認する。エリアルが初めてロキシーに会ったのはどこ?」
「え? あー、そうね。孤児院の庭の木の上だったわ」
どういう状況なんですか??
「正解。エリアルと認める」
かさねは満足したように頷いた。
「良かったわ。それじゃあロキシーのプランを聞かせて貰える?」
自分の声なのに自分ではない。何もかも違和感しか無いが、此処から先へのエリアルの前向きな気持ちが伝わって来て、シャルロットはなんだか嬉しくなった。
ラファエラが何を企んでいるのかはわからないが、私たちが止めてみせる。




