そんなの生きてるって言えないもの
【引き続きシャルロット視点】
シャルロットはふと我に返る。
「もしかして、私の考えたことってエリアルに筒抜けですか?」
(その通りですわ)
この声はシュシュと呼ばれていたゴスロリの娘?
(ええ。わたくしのことはシュシュとお呼びください)
「失礼しました。シュシュ。あなたにもそうなんですね」
(声に出さなくても良いわよ? ほら、人が見てる)
エリアルの声でようやく周りを意識する。
通りを歩いている人が不思議そうにこちらを見ていることに気付いた。
なるほど、これでは怪しい人だ。
私が巡回で見かけたら「少し宜しいですか?」と声をかけてしまう事案だ。
トラブルは避けたい。怪しまれるのは困る。
そうか、まずはラファエラの伏兵の確認をしておかなくては。
シャルロットは家の周りを歩きながらそれとなく人が隠れられそうな場所をチェックした。少なくともこの辺りに伏兵はいなそうだ。
それから、家の出入りを確認できそうな場所を見つけて潜む。
騎士らしさは皆無だが、今までの経験から良くも悪くもこういう行動には慣れている。
落ち着いたと見たのか、エリアルが話しかけてきた。
(私の考えに気付いてくれてありがとう。シャルを追放しようとしたラファエラの行動はチャンスだと思ったの。もしラファエラに悪意があるなら、きっと私たちは彼女の思惑に対するカウンターになれる)
ええ。戸惑いましたが、私もこのタイミングしかないなと思いました。
(ロキシーも気付いてくれて助かったわ。スープラも気づいてたわね。ゼータは気づいていないでしょうね。夏央も気付いてないかな)
私も同じ認識です。男性二人は困惑してましたね。
それよりも、聞かないのですか? ラファエラの言っていたこと。
シャルロットは気になっていたことを尋ねた。
(シャルが話したければ聞くし、言いたく無ければ聞かないわ。そんな話をしなくても、私は今のあなたを信じているから)
ありがとうございます。
(本人が許可すれば記憶は見えますわ)
シャルロットは、エリアルに知って欲しいと思った。
隠し事はしたく無い。
私とて完全に孤独だったわけでは無い。
兵士と話していたのは、仲の良かった獣人の兵士に、自分の無事を知らせ、軍の状況を聞きに行っただけだ。
過去の汚れ仕事。
思い出したくはない。今でも時折夢でうなされる。
それでも私がこの手でやった事だ。無かったことにはできない。
幼子を手にかけることだけは拒み、父に酷い折檻を受けた。当時の騎士団長が庇ってくれなければ、もっと酷い目に遭わされていただろう。
父に逆らった騎士団長は立場を失い、辺境に飛ばされてしまった。
思い出すと今でも感謝の気持ちと申し訳なさに押しつぶされそうになる。
(もう良いわ。もう思い出さなくていい)
穏やかなエリアルの声に我に返る。
家の方に人の動きを感じて視線を向けると、何人か人が出てきた。
(あら、人が出てきたわね)
もうすぐ夕方ですが、これから移動するのでしょうか?
(リップの体調次第でしょうけど、まだ無理でしょうね。ラファエラも無理はさせずに連れて行くと思うわ。早くても明日の朝あたりになるのではないかしら?)
見ていると、出てきたのはゼータとラファエラ、夏央のようだ。食事の調達に行くのだろう。
そう思ったらシャルロットは急にお腹が空いてきた。
違和感を覚えるほどに空腹を感じた。キツめの訓練をしたときでさえここまで空腹を覚えることはない。
エリアルに断りを入れて今日の宿を確保し、宿の食堂を利用した。
夕食は今までにないくらいの量を食べた。シュシュから魂が二つある事が理由だと説明された。
エリアルからは謝られたが自分が望んだ事なので笑って済ませた。
部屋に移動するとエリアルが声をかけてきた。
(私、あなたに感謝を伝えたかったの。昨日の夜、私の代わりに泣いてくれたのよね)
いろんなことがありすぎてなんだか遠い昔のような気がした。
シャルロットはその時の事を思い出す。
私はあの時、エリアルが泣いているのだと感じたんです。エリアルは、ゼータ様の為にここで泣くわけにはいかないんだ。そう思ったら、涙が止まらなくなったんです。
お恥ずかしいところをお見せしました。
(いいえ、ありがとう。あなたの言う通り、私はゼータの前で泣く訳にはいかなかった。私が泣いたら彼は私を葬ることを断固拒否すると思ったから。まあ、泣かなくても結局ゼータは何やら仕出かしてしるようだけれど)
目を閉じるとエリアルがため息をついた姿が浮かぶ。
(私が死んだら、ゼータを頼むわね。きっと後悔の念でボロボロになってしまうだろうから)
それはシャルロットにとっては思いもよらない言葉だった。
そう思うなら何故終わりにしようなどと言うのです? 待っていれば何か手立てが見つかるかもしれません。
(状況は消耗戦に移行したわ。ゼータはきっと私を守って死ぬまで戦うでしょう。でも遅かれ早かれ、必ず力尽きる。わずかな時間を稼ぐだけで、得られる結果は変わらないわ)
エリアルは悲しげな笑顔を浮かべた。
(そもそも失った彼女の遺体の時を止めて一緒に暮らすなんて間違ってる。愛してもらえるのは嬉しい。でも、そんなの生きてるって言えないもの。辛くてもちゃんと生きて欲しい。それに……)
何かを言いかけてやめたエリアルの表情が暗い。
それに?
シャルロットの問いかけに、エリアルは首を横に振り、明るく笑う。
何を言いかけたのだろうという疑問は次の言葉で吹き飛ばされた。
(いいえ、なんでもないわ。私を失った後は落としどきよ。時間はかかるかもしれないけど、彼はきっとあなたを放っておけないから。可愛いし)
か、可愛い? わたしが?
(ええ、とても可愛いわ。だから、頑張りなさい。どこの誰とも分からない相手に取られるくらいなら、あなたに任せたいわ)
いたずらっぽくエリアルが笑う。
私が可愛い? 素直に嬉しいけど、言われたことがなさすぎて戸惑う。続けられた言葉も衝撃的すぎた。理解が追いつかない。
……私はあなたの代わりにはなれません。ただ、叶うなら、盾でありたいと思います。
自分が何かの役に立つならば、それは戦闘をおいて他にありません。あなたのような連携を行う信頼構築は出来ないでしょう。ならば攻撃を弾き、負担を減らす盾でありたい。
シャルロットは淡々と思いを伝える。
(あなた真面目すぎるわ!)
エリアルは頬をひくひくさせて見たことのない表情を浮かべている。
真面目なんですよ! こういう性格なんです! それに、私が憧れたのは、ゼータ様だけではありません。エリアルとゼータ様、なのです。エリアルの代わりになんてなれません。無理です!
最後の言葉は悲鳴みたいになったと思う。
意識の中に浮かぶエリアルが、はぁーとため息をついて肩を落とした。
(そっか、私もセットなのね。誤解していたわ)
そうです! その誤解はダメ! です。
(シャルが憧れた私は、その後に書かれた物語の「私」でしょう? 多分それはすっごく美化された素敵な姫君だったりしたのではなくて?)
それは……まあ、そうですね。
(ゼータもお話と違っていて驚いたでしょう? まああれは後からだけど。でも私も大して変わらないわ)
エリアルは楽しげに笑う。
そうなのですか?
正直意外だと思った。本人の体ではないが、佇まいや振る舞い、物腰。厳しく躾けられた貴族の令嬢、といった雰囲気。
少々お転婆なところは物語とは違うなとは思ったけれど。
(まあ、厳しく躾けられたのは確かね。それにお転婆かもしれないわね)
エリアルが笑う。
思ったことが筒抜けなことを忘れていた。失礼すぎる。
す、すみません。
(ふふふ。いいのよ。少なくとも、一般的なお話に出てくるような深窓の令嬢には程遠かったわねぇ。例えば子供の頃……)
エリアルは話し始めた。




