間に合って良かったです
◇◇◇
【夏央視点】
「こんにちはー」
ゼータと共にラファエラが来た。
優しそうなその笑顔とは対極的にゼータの表情は険しい。
「ゼータさんから頼まれたのでお手伝いに来ましたー」
頼まれた?
夏央はラファエラの言葉を反芻する。
エリアルとロキシーの表情が曇る。シャルロットは怪訝そう。
あれ? またシュバルツが居なくなってる。姿を消したのか。
「あら? そちらの方は体調が悪そうですねー?」
ラファエラが心配そうにエリアルを見る。
「ええ、彼女は生まれつき体が弱くて。いつものことなのでお気になさらず」
ロキシーが代わりに答えた。
エリアルは話を促すようにゼータを見た。
「ラファエラがエーテルのエリアルを診てくれる事になった。早速行こうと思う」
「先日は軽く診るくらいしか出来なかったのですが、どうにかできるかもしれないと思いまして」
「すごいですね。私は諦めていたのですが」
ロキシーは素直に驚いているように見える。
ラファエラは夏央とブラウドラッハにはできないことが出来る? 流石に違和感を覚える。
「もちろん100%とは言えません。でもできることを試してみるつもりですー」
「正直なところどのくらいですか?」
「そうですねぇ」
とラファエラは少し考え込んだ。表情は険しい。
「いいところ30%くらいかなと思っていますー」
高くは無い。でもゼロよりはかなり高い。
ラファエラはエリアルの体と魂のつながりに気づいていたのだろうか。
でもエリアルの存在に気づいているようには見えない。
「またノートメアシュトラーセ軍が現れる可能性がありますー。護衛も兼ねて皆さんも同行して頂けないでしょうかー?」
「確かにそれはあり得ますね。でもドラゴンは大丈夫なのですか?」
ロキシーが尋ねる。
「ええ。それについて病院のつても使って調べてみたんですー。これも絶対とは言えないのですが、コキュートスドラゴンはおそらく大丈夫ですー。
条件は三つ。一つはドラゴンに対して敵意を向けないこと。次にドラゴンに攻撃をしないこと。最後にエーテルを持ち出そうとしないこと、です。これを守ればあちらから攻撃してくることは無いそうですー」
「よくわかりましたね……」
「過去に遭遇して一人生き残ったという人から聞き取った資料がありましてー。逆に言えばそれしか根拠は無いのですが」
ラファエラは少し申し訳なさそうに言った。
「まあ実際我々もこうして生きて帰ってきた訳ですし、信憑性はありそうですね」
ロキシーは納得したようだった。
「ご理解いただけて何よりですー。では、と言いたいところなのですがー」
ラファエラはシャルロットを見た。
今まで見たことのないような厳しい目をしている。
「この情報を持ってお父様のところに戻られてはいかがですかー? まあ言わなくても途中で姿を消しそうですけどー」
シャルロットはラファエラを睨み返した。
「なぜそう思う? 私に帰る場所は無い」
「あなたのお父様がそう簡単にあなたを手放すはずは無いと思いましてー。この情報があれば前回の失敗は十分挽回出来そうですしー。躊躇いながら仲間を斬ったかいがありましたねー。他にも色々探っていたのではないですかー?」
「そんなことあってたまるか!」
シャルロットは立ち上がり、吠えるように叫ぶ。
「あなたが深夜にここを抜け出して兵士と話しているのを見たという人もいますよ?」
ラファエラの間延びした口調が変わる。
「何故それを」
「お父様の指示で今までどれほどの人数を手にかけてきたのかこの場で皆さんに話しましょうか? 私は病院関係者です。検死もたくさんしましたから、ある程度把握していますよ? 今度はこの人たちを手にかけるのですか」
シャルロットは目に見えて青褪めた。
「そうか、あんたはゼータを狙ってたもんね」
エリアル? リップ? がベッドから立ち上がり、険しい表情を浮かべてシャルロットに詰め寄る。
「さも仲間のようなふりしてそんなこと考えてたんだ? エアリアルにもちょっと似てるもんね。自分ならワンチャンあるって思ってたのかな?」
シャルロットは戸惑うようにして後ろに下がる。
背後にはドア。逃げようとしているようにも見える。
どういうこと? 夏央は混乱する。リップなのかエリアルなのかわからないし、二人がシャルロットを糾弾し始めたのもわからない。しかもラファエラの糾弾をシャルロットは否定していない。
スープラを見るが、スープラも険しい表情でシャルロットを見ていた。
ゼータは……どういう感情なんだろう? 困惑してる? たくさん言い寄られてきたらしいし、またか? みたいな気持ちなんだろうか?
ロキシーは真顔。
まるで悪役令嬢の断罪だ。
シャルロットはそんな人だったんだろうか。
ゼータの話を聞いて傷ついた表情を浮かべていたシャルロット。
せめて最後は騎士らしく、と言っていたシャルロット。
苦しそうに元の仲間と戦っていたシャルロット。
おそらく号泣していたシャルロット。
どちらを信じればいい?
ちらりとブラウドラッハを見るが、何も答えてはくれない。
……違うと思う。ラファエラを疑うわけじゃないけど、夏央が見てきたシャルロットはそんな人ではないような気がした。
夏央は前に出ようとした。が、引っかかりを感じて振り返る。
ブラウドラッハが服を掴んでいた。
「あんたの望みが叶うと良いわね!」
声に振り返るとリップ? がシャルロットを突き飛ばしていた。
「なっ」
突き飛ばされるとは思わなかったのか、シャルロットは体勢を崩す。
ぶつかったドアが後ろに開き、シャルロットは倒れ込んだ。
突き飛ばした側のリップ? も体勢を崩してそのまま折り重なるようにしてドアの向こうに倒れ込む。
想定外の事態に夏央は動けない。
「うう……」
リップ? がドアの向こうで低く呻いている。
駆け寄ったロキシーがリップを助け起こしたようだ。
「最悪の事態になる前に間に合って良かったです。さようなら、シャルロットさん」
冷たく言い放つロキシーの声が聞こえた後、玄関のドアが開閉する音が聞こえた。
シャルロットは出ていってしまった。
またしても気を失ってしまったリップの体をロキシーがベッドに横たえた。
誰もが無言。お互いに視線も合わせず、何かを考え込んでいるようだ。
ちょっと前まではこんなことになるなんて思いもしなかった。
……何かできることはあったんじゃないのか?
夏央は何もできなかった自分の無力さを嘆かずにはいられなかった。
ブラウドラッハは何も言うことはなく、無言で夏央の手を握っている。
ブラウドラッハはなぜ止めたのか。
でも、ブラウドラッハは意味の無いことはしない。
止めたことも何も言わないことも、きっと意味があるのだと夏央は信じた。




