またすぐそういう事を
◇◇◇
【シャルロット視点】
ゼータと別れたシャルロットは、別れ側のゼータの言葉をエアリアル様に伝えなければいけないと思った。
家に戻ると、幸いにもロキシー様とエアリアル様がいた。エアリアル様は顔色が悪く、ベッドに横になっていた。
シャルロットの話を聞くと、二人は険しい表情を浮かべる。
「今更何をしようというの……?」
「ちょっと嫌な予感がしますね」
何かを吹っ切ったようなゼータ様の表情を思い出す。
昨日の夜はエアリアル様に同意していたし、朝は何も言っていなかった。
「すみません、私が言ったことが良くなかったのでしょうか?」
嫌だ、と言ってしまった。我慢していたのに。きっとみんな我慢しているのに。
「いいえ、あなたのせいではありません。みんな思っていますから。私だってそうです。エリアルを失うなんて本当は嫌ですよ」
ロキシー様はふっと顔を背ける。語尾が震えていた。
「私にエアリアル様を移す事はできないのでしょうか? 他の人の体に入れるなら、私にも可能なのでは? と思ったのですが」
「確かにあの時、リップの体を借りた時、根拠は無かったわ。リップの体なら借りれる、そう思って強く願っただけだった」
少し遠い目をしていたエアリアル様は、厳しい顔で私を見る。
「でもね、それはリップの代わりにあなたを危険に晒すことになる」
「望むところです」
迷うことなく即答する。
「またすぐそういう事を」
エアリアル様が少し呆れたような声で言う。
外見は私より若いのにまるでお母さんみたいだ。
なんだか胸が温かくなって、思わずふふっと笑ってしまった。場に削ぐわない。気持ちを改める。
「すみません、違います。私は獣人であり、騎士として日々鍛えています。妹さんとは体力も精神力も違うと思うのです。私はあなたを失いたくない。でも、それと同じくらい、あなたの役に立ちたいのです」
私は自分の意思で、私にできることをしたい。
エアリアル様はふむ、と頷いて頬に手を当てる。
一考の価値はあったようだ。
「ただいまー! ロキシー! どこ?」
スープラ様の声が聞こえた。
◇◇◇
どこ? と言いつつもエリアルの寝室だろうなと見当を付けて部屋に向かったスープラはドアをノックする。
ロキシーの声を確認してドアを開けると、ベッドに横たわったリップが目を覚ましていた。
ううん、違う。エリアルだね。
明らかに顔色が悪い。
スープラが口を開く前にエリアルが焦ったように言う。
「ちょうどよかった。このままだとリップが危ないの。あなた達の力を貸してもらえるかしら?」
エリアルはブラウドラッハを見ている。
ロキシーも否定することなく難しい顔をしている。
シャルロットはぽかんとしている。
シュシュが現れたときも眠ってたし、シャルロットは何も知らないはず。
良いのかな? 夏央も怪訝な顔をしている。
「良いのよ。私をシャルロットに移せないか、って話をしていたの」
エリアルはスープラの疑問を理解していた。
手短に夏央とブラウドラッハ、シュバルツの事をシャルロットに説明する。
シャルロットは唖然としている。
「背格好は似ていますし、外見も共通点が多いですわね。遠縁だったりするのでしょうか? わたくしは器としては条件を満たしていると思いますわ」
「しかし、できなくはないかもしれんが、保証は出来ぬぞ? それなりの対価も必要になりそうじゃが、心の準備はできておるのか?」
呆れた様子のブラウドラッハを、不思議そうにシュバルツが見る。
ブラウドラッハは視線を合わせ、ほんの少しだけ首を横に振った。
何か言いかけたシュバルツはそのまま黙っていた。
「やはり対価は必要ですよね。そもそもブラウドラッハの求める対価とはなんなのです?」
困った顔をしたロキシーがブラウドラッハに訊ねる。
「ふむ。我らは漠然と対価とよんでいるが、実際は、人の力を貰い、それを元にして支援をする、ということになるかのう」
「力?」
「いわゆるマナ、生命力。物理的、精神的なエネルギーと言った方がまだ伝わりやすいかと思いますわ。わたくしたちはそのエネルギーを他の力に変換するのです」
歯切れの悪いブラウドラッハをシュバルツが補足する。
「例えば、隠している秘密、葛藤はそれだけで心のエネルギーを消費するのですわ。そのエネルギーを奪い、変換する。
等価交換というか、奪われたエネルギーの辻褄が合うように秘密であれば開示され、能力であれば失われます。逆にマイナスとなる何かを付与することでエネルギーを得ることも可能ですわ」
「以前のロキシーのケースは、マイナスの付与によるものじゃろうな」
「なるほど……。対価をこちらで決めることも可能なのでしょうか?」
「出来なくはないが、ちと難しいかもしれんの。理屈は説明出来ぬが、判定に時間がかかりそうじゃ」
「ありがとうございます。では出来なくはない事として記憶しておきますね」
「それで……貴女たちは契約されますか?」
シュバルツが、感情を感じない事務的にさえ聞こえる口調で、エリアルとシャルロットに問いかける。
自分が聞かれたわけじゃないのにビクッとしてしまった。
夏央に男だと思われて悩んでたロキシーの秘密を思い出す。ロキシーは恥ずかしかっただろうな……。
でもブラウドラッハの言い方だとランダムじゃなくて選んでいるようにも感じる。ブラウドラッハは優しいからまだましなものを選んでくれてたってことなのかな?
「それは……私でも可能なの?」
エリアルが訊ねる。
「試したことは無いがおそらくはできるじゃろうな。体を持たぬお主が対価を差し出す覚悟があるならば、な」
厳しい表情で、ブラウドラッハが答える。
魂しかないのに対価を払って大丈夫なの?
二人のやり取りに不安を感じる。
「ありがとう」
静かに頷くリップのエリアル。
横顔を見つめていた、私の袖がクイッと引かれた。
引いたのはシュバルツ。
精一杯背伸びして、シュバルツは私の耳に口をよせ、囁く。
「貴女の抱える秘密も大事に取っておくと良いですわ。その秘密であれば、相応の対価を得ることができるでしょう。魔王の力並みには有効ですわ」
私の秘密。
夏央には話したけど公にしなければあまり意味はない、大きな秘密。
シュバルツは口を閉じ、無表情に人差し指を立ててみせる。
何も言うな、ということね。
スープラは黙って頷いた。
「それじゃあブラウドラッハ、早速だけど力を貸してもらえるかしら?」
エリアルが言う。
リップもそうだけどエリアルも決断が早い。
エリアルのことは小さい頃の記憶しかないけど、そんな姿を見るとやっぱり姉妹なんだなって実感する。
「うむ。力としての親和性を考えると、妾よりもシュバルツのほうが良いと思うぞ」
「そうですわね。先代魔王の件もありますし」
「「先代魔王??」」
シュバルツの言葉に、エリアルとロキシーの声が重なる。
そうだ、それを話さなきゃ。
「それは私から話すね。さっき」
私が言いかけたところでガチャリとドアが開いた。
お兄ちゃんとラファエラさんが立っていた。




