どのような結末を望むのですか?
◇◇◇
【夏央視点】
夏央は、リップを抱きかかえると、ロキシーに診てもらうべく借りている家に戻った。
幸い、ロキシーはスープラ、かさねと共に家にいた。
かさねはロキシーに何かを報告しに戻ったようだった。夏央達をチラリと見たあと、一言二言話し、頷いて出ていった。
ロキシーはすぐに容態を診てくれた。
「確かに……酷く疲労していますね」
精神的な疲労なので法術でどうにかできるものではないのだ、とロキシーは話してくれた。
それから、リップは自分に任せて、街の様子を見てきて欲しい、と頼まれた。
山での件がどう広まっているのか、確認してきて欲しい、との事だった。
◆
夏央は、スープラとブラウドラッハ、シュバルツシュッドクローテを連れて街に出かけた。
街の中の様子をそれとなく見て回ったが、山に行く前と変わった様子はない。
ゼータのところに来たノートメアシュトラーセ軍については、山中で目撃されたワイバーン駆逐の為に向かったことになっており、犠牲を払いつつも駆逐は成功したと喧伝されている。
例の多脚戦車を出したことも公表されていたが、相手を考えれば問題無いと認識されているようだ。宰相の速やかな判断に賞賛の声さえ出ていた。
「わかんないもんだな。どうしてこんな話になってるんだか」
夏央の疑問はブラウドラッハが引き取る。
「件の宰相とやらは切れ者だと言うことじゃよ。明らかな失策を挽回どころかひっくり返して己の評価を上げおった。こちら側が抗議などするはずもないと踏んでおる」
「……あー! そういう事か! 考えもしなかった」
夏央は感心しつつも、思い至らなかった自分が少し悔しい。
シュバルツシュッドクローテが立ち止まった。
姿勢良くスッと顔を上げ夏央を見る。
「魔王。貴方はこの件、どのような結末を望むのですか?」
「結末?」
「ええ。魔王の力を用いれば、宰相のような手段を取らずとも、力技で白を黒とすることも出来るはずですわ。今起きている問題を貴方はどう納めるつもりなのでしょう?」
「それは……」
夏央は言い淀む。自分が納めることは考えていなかった。
「ごめん、そこまでは考えてなかった。エリアルを他の場所に移せば当面の問題は無くなるとは思ったけど、自分の力で解決することは思いもしなかった」
「そうですか」
シュバルツシュッドクローテは、表情を変えない。
肯定でも否定でもなく、相槌に過ぎないのだろう。
「城を更地に変えることだって出来ますでしょうに」
「いや待って、物騒すぎる」
「こやつ……マイマスターはまだまだ力を使いこなせておらんからのう」
「そんな悠長なことで間に合いますかしら?」
「そうじゃの。それは妾も少し気にしておる。何かのきっかけで指数関数的な適応力を見せてくれるのでは無いかと思ってはおるが」
「それは希望的観測というものですわ」
「おぬしには何か策があるのか?」
「……それは愚問ですわ。わたくし達は主体的には動けすないのですから」
「それは分かっておる。動きの制約を踏まえた上での策を尋ねておるのじゃ」
淡々と話すシュバルツシュッドクローテに、ブラウドラッハはじれったそうに問いかける。
二人がこんなにシリアスに話すのを夏央は初めて見た。
いや、ちょっと待て。「間に合う」ってなんの事だ?普通に考えればエリアルとリップのことに聞こえるけど何か全く違うやり取りをしているようにも聞こえる。
「あのね、私思ったんだけど」
考え込んでいたスープラが僅かに首を傾げ、口を開いた。
「エリアルさんは本当に死んでいるの? 魂が留まっている事と関連性は無いのかな?」
夏央はハッとした。その考えは無かった。
そもそも遺体の時を止めている、としか認識していなかった。
シュバルツはふむ、と考え込んだ。
「先ほどあの方が倒れた時、状態を確認して気づいたのですが、あの方、いいえ、エアリアル様の魂に魔王の力の残滓を感じましたわ。現在のエアリアル様の状態には恐らくは先代魔王が関わっていると考えられますわ」
「なんじゃと」
十年前。ゼータを庇って倒れたエリアルを見て、魔王は正気を取り戻したように見えた。
彼女は泣き叫び、エリアルの体に触れ……何か光った? あの時に何かしたのだろうか?
「ブラウドラッハ。マキナはあの時何をしてた? 何が光ったような気がするんだけど」
いや待てよ。
どうしてあの場面の記憶があるんだ?
ロキシーは持っていて使った。使えば何かが繋がり、ブラウドラッハの記憶に残るのかな?
でも何故ゼータ達の場面の記憶がある?
あの時、ブラウドラッハを持っていたのは誰だ?
「妾はその場面を知らぬ。お主は何故それが見えた?」
「ゼータがブラウドラッハを持っていた?」
「あら、覚えていないんですの? 使われて消耗していたからでしょうか。貴女は私と一緒にエアリアル様が持っていたのですわ」
だからシュバルツはエリアルの足元に落ちていたのか。
「あの後でロキシーが拾ったの?」
「そうですわね。まあ一度使われればパスが残りますからしばらくは様子が見えますけど」
シュバルツは少し記憶を探るような目をした。
「私達は使われていませんが、確かにあの魔王は何かしていましたわね」
シュバルツにも記憶があるのか。ということはシュバルツはゼータの記憶を持っているのだろうか。
「魂だけに何かをしたってことはないよね。体にも何かしたんじゃないのかな。お兄ちゃんだけじゃなくて、マキナさんの力もあって今の状況が起きているとか?」
エリアルの命をマキナが繋いだ?
「じゃあエリアルはまだ死んでない? 俺にもどうにかできる可能性がある?」
シュバルツはブラウドラッハと視線を交わしてから、まずスープラを見て小さく頷いた。
「可能性は限りなく低いですが否定はしません。貴女の推測は一考の価値がありますわ」
シュバルツは夏央に向き直る。
「肉体と魂のつながりが途切れていないと仮定して、あの洞窟にエアリアル様の魂を連れて戻りエーテルに触れさせ、あとは貴方次第でしょうか。ただし、十年の歳月がエアリアル様にどのように影響するかは別の問題ですのでお忘れなく」
最初に会ったとき『止めていた時間が一気に進みますわ』とシュバルツは言った。
「魂を体に戻せてもそれで解決ではない、ってことだよね?」
「おっしゃる通りですわ」
戻せるかどうかは自分次第。そして戻せたとしても解決ではない。
それでも前に進んだことは確かだ。
「わかった。ありがとう、シュシュ」
シュバルツは頷いた。
隣に立つブラウドラッハと目が合う。ブラウドラッハも頷いた。
「ロキシーのところに戻って話さないと!」
スープラが夏央の袖を強く引き、四人はもと来た道を戻り始めた。




