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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
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見殺しにするつもりか?

「……目の前の敵に集中しましょう。そろそろ動きます」


 ロキシーがそう促した時、さらに上から何かが現れた。


 眩い光が降り注ぐ。


 大穴が開きつつも崩壊せずに留まっていた地下空間の天井が、音もなくきれいな円を描いて消失していく。


 絶えることない光の中を、緩慢にさえ感じられるほどゆったりと何かが降りてくる。


 広げられた巨大な翼が、ふわりと羽ばたき、何か大きなものが静かに着地した。


 それは、新雪のように白く輝く一体のドラゴンだった。


 現れたドラゴンの未だかつて無いほどの圧倒的な存在感に、夏央は声も出ない。


 ドラゴンの表情は読み取れない。


 まるで仏像のように、すべてを見通しそうな薄く開いた目をして佇んでいる。


 目が合ったら恐らく殺される。


 体が竦んで動けない。魔王の種の補正があってさえこの状態ということが怖い。



「これはコキュートスドラゴンか?! 素晴らしい! 目標変更だ! まずはこいつを生け捕りにしろ!」


 夏央が驚くほど無遠慮に、敵指揮官が喚く。


 兵士たちがワラワラとドラゴンの周りに群がる。多脚戦車が威嚇するように、ドラゴンの正面に並ぶ。



「今のうちに移動しましょう」


 ロキシーの声を聞いて、ようやく体が動いた。


 そろそろと後ろに下がりながら、地下空間の入口の扉付近まで退避する。確認すると人数が足りない。


 ゼータとリップのエリアルがいないのだ。


 洞窟内を見渡すと、エーテルのエリアルのそばに立つ二人が見える。ここよりもだいぶドラゴンに近い。


「なっ?」


「どうして……」


 ゼータはエリアルのそばを離れる訳にはいかないんだろうな、と夏央は思う。


 そちらへ戻ろうとするシャルロットをロキシーが制止する。


「見殺しにするつもりか?」


「いいえ、少なくとも今は動かない方がいい……」


 ロキシーの表情は硬い。


 視線の先を追うと、ドラゴンが目を開いていた。

 蒼く輝く瞳が、指揮官の男を見ている。


 ドラゴンの胸が深呼吸をするようにゆっくりと上下し、やや緩慢とも思えるゆったりとした首の動きを経て、ドラゴンの顎が開く。


 そして放たれるブレス。


 ゴオオオオオオオオ!!!


 洞窟内の空気が震える。白い光の粒子が正面の空間を横なぎにする。


 目も眩むような輝き。


 夏央が目を開くと、多脚戦車は足先の一部を残して消失していた。


 兵士も同じように、3分の1程が、体の一部を残して消失していた。


 洞窟の壁も抉られたように消失し、空間が広がっていた。


 ドラゴンの前にいた指揮官の男も例外ではなく、上半身が綺麗に無くなっていた。


 さらにブレスが吐かれる。


 首の動きと吐かれたブレスだけで、兵士たちは追加された分も含めて呆気なく消えてしまった。


 洞窟内に静寂が戻る。


 戦闘の痕跡は綺麗さっぱり消えてしまった。微かな血の匂いさえ残っていない。


 ドラゴンは、周囲を一瞥し、身体を丸める。

 どうやら眠りについたようだ。





夏央たちはドラゴンの圧倒的な攻撃に呆然としていた。


人がたくさん死んだとか、そういう衝撃を遥かに超えていた。


正直、兵士らはまあ自業自得だしいいかな、と夏央は思う。


凄惨な光景もなくただ消えたみたいな状態ではありつつも、恐怖よりも驚きが強いのは種の補正なんだろうな、とは一応気づいてはいた。


周りにも補正は入っているらしい。ありがたいとは思いつつも、周りの認識や感情までコントロールする種はたまらなく怖いと思った。同時に、常に意識することでしか種の支配からは逃れられないのではないかとも思った。


「……ロキシーとどっちが強いの?」


スープラの質問にロキシーが苦笑する。


「いえ、さすがにあれには勝てませんよ? 普通のドラゴンならまだしも、コキュートスドラゴンは、ドラゴン種の中でもさらに上位の存在ですし」


ロキシーはどこまで本気なのかわからない。


「そんなことより、二人はどうやって救出する?」


シャルロットはロキシーがふざけていると理解したらしい。

険しい表情を隠そうともせず、問う。


ゼータ達の姿はこちらからは見えない。

ドラゴンが動いていないことからおそらく無事だろうとは分かる。


ロキシーより強いというゼータ。

そのゼータに並び立つエリアル。巻き込まれたリップは可哀想だが、あの二人があっさり命を落とすとも思えなかった。


「ドラゴンが休眠に入ったこの状態なら自分で戻って来れるでしょうが……ゼータがあの場所を離れられるかは微妙ですね」


ロキシーが真顔に戻って答える。


確かに、ゼータがエーテルの中のエリアルを置いて逃げてくるとは思えない。


「まあそれはそうじゃろうが、腹もすくじゃろうて」


ブラウドラッハが嘆息する。


「おなかすいたねー!」


夏央の胸元からもぞもぞと出てきたリュリーが笑顔で頷く。


リュリーを見たらなんだかほっとした。

朝起きてから何も食べていなかったことを思い出す。

一気に疲労と空腹が襲ってきた。


「確かに」


スープラと顔を見合わせて力なく笑う。


「彼らはいずれ戻ってきます。ここでこうしていても埒が明かないですし、ひとまず撤退して休憩しましょうか」



ラファエラにも声をかけ、ロキシーに従って地上にあるゼータの工房まで戻ることにした。



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