あなたを守りたい
夏央の視界の端で、舞うように戦っていたロキシーが倒れた。
「ロキシー!」
夏央が放った剣技が、ロキシーの周囲の兵士たちをはじき飛ばす。
エリアルの術式だろう。間髪を入れず竜巻状の水流が現れて兵士達を押し流していった。
ロキシーが戻ってきた。
「夏央! 助かりました。さっき少し様子がおかしかったようですが大丈夫ですか?」
やらかしたことをロキシーにも気づかれていた。
ロキシーは、険しい顔で夏央を見つめている。その表情が、ふっと和らぐ。
「大丈夫そうですね。すみません、夏央に負担をかけすぎました」
いや、そんなことは無い、とは夏央は言えなかった。確かに厳しかった。
「ロキシー、怪我は?」
スープラがロキシーの体をチェックする。
「大したダメージはありません。疲れて足を滑らせました」
「ロキシー、大丈夫なの?」
エリアルとゼータ、ラファエラ、シャルロットが一旦戻ってきた。
「大丈夫です。リップは?」
「私は平気よ」
言いながら、エリアルはシャルロットに回復の術式を使っている。
「貴方が一番酷いわね」
シャルロットは肩で息をしている。顔色も悪い。
「すまない。軍は一旦立て直しに入ったようだが、おそらく追加があるはず」
確かに攻勢が一旦収まった。攻めあぐねたのか、と思ったが何か違う気がする。
「……なんだこの感じ?」
嫌な気配に慌てて周囲を探る。巨大な何かがすごい速さで接近している。
「なにか来ますね」
ロキシーが夏央に答える。
その瞬間、上からまた何かが落ちてきた。質量のある塊が三つ。
ズドン!!!
ズドン!!!
ズドン!!!
着地の衝撃で洞窟が揺れる。もうもうとわきあがる土煙。いずれもさっきの比では無い。
夏央達はふらつく体を何とか支える。
土煙の向こうに、さっき倒した多脚戦車が三台、直立していた。増員の兵士もいる。
敵兵から歓声と雄叫びが起こる。
「形勢逆転、という訳ですか。自分達も埋められるとも知らずに」
ロキシーがため息まじりに呟く。
「私も同じ認識だ。身内の恥を晒すようだが、秘密を知るものは少なくて良いと考えているはず」
夏央は思う。あいつら無茶苦茶だ。
いや、待てよ? 穴の底にいるような状況で、そもそもどうやってあいつらを追い払うんだ?
皆殺しにするしか無くないか?
(夏央! また種に侵食されておるぞ! 気をしっかり持て!!)
脳裏にブラウドラッハの怒声が響くがあまり気にならない。それよりもさっき向かってきた敵兵の下卑た怒声が脳裏に蘇る。さっさとみんな殺してしまう方がいい気がする。
不意に、両頬をむぎゅっと挟まれて、顔を無理やり下に引っ張られた。
目の前にブラウドラッハがいる。
「あれ?」
「落ち着けといっておるだろうが。お主の力を持ってすれば、あやつらをすり潰すことなど容易い。殺したければ殺してしまってもかまわん。じゃが、殺るなら自分の意思でやれ。種に誘惑されるな。誘惑に甘んじれば容易く魔王に堕ちるぞ」
「夏央?」
スープラが冷ややかな目で夏央を見つめている。
「私たちを心配してくれているんだろうけど、そういうのだめだよ?」
底冷えのするような怒りを感じて、夏央は震えた。
ブラウドラッハに手を重ねるようにして、スープラも夏央の顔をむぎゅっとする。
「私たちは負けない。私はあなたの足でまといにはならない。並び立ちたい私を認めて欲しい」
真っ直ぐな瞳が、夏央を射抜くように見ている。
自分が、というズレた思いが、スープラにも伝わっていたのだと夏央は気付く。
「守ろうとしてくれるのは嬉しい。でも、私は守られるだけの存在にはならない。私こそ、あなたを守りたい」
夏央の気付きは、スープラの言葉によって裏付けられる。
下卑た敵の声を聞いてから、冷静さを失っていたのだと思い知らされた。
自分をコントロール出来ないのがもどかしい。
無意識に何かに引き寄せられている感じがする。
「……わ、わかった。ごめん」
夏央は心から謝ったつもりだったが、スープラとブラウドラッハは手を離してくれない。
「……手を離してくれんと妾も動けぬのじゃが?」
ブラウドラッハが、無表情で夏央を見つめるスープラを見上げる。
スープラは、そんなブラウドラッハを見て、首をかしげた。
「……あっ、ごめんね。ついカッとなって」
えへへと笑ってスープラは手を離した。
夏央は反省している。
独りよがりすぎて何だかすごく恥ずかしい。




