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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
72/103

いっそ殺すか

◇◇◇


【夏央視点】


 夏央達も戦っていた。


 夏央はブラウドラッハの力を借りるつもりだったのだが、シャルロットとラファエラのいる状況で融合するのは流石にまずい。


(うむ、今の状態で出来る支援をしよう。まずは与えられた役割を果たすことに集中するのじゃ)


 ラファエラに蹴散らされつつ、敵集団の一部はこちらにも向かってくる。


 ロキシーは土の術式を使って即席の遮へい物を構築しつつ、足をとめずに動き回り、小太刀を振るって少しずつ敵を行動不能にしていく。


 夏央もロキシーを抜けてやってくる兵士の対応をしなくてはいけない。スープラを守らないと。


(ふむ、対人戦は怖いか。ちと調整するくらいならできそうじゃ。木刀だと思って振るえ)


 人を相手にすることに躊躇していたのをあっさり読み取られた。

 ブラウドラッハの支援なのか、刀というよりも木刀を握っている感覚になる。


 鎧武者戦のように、装備の隙間を狙って剣を振るう。軽装の相手は、剣を持つ腕を狙った。


 手に伝わる骨の折れる感触と、今まで経験したことの無い、むき出しの殺意を持つ集団に夏央は戸惑う。


 種の影響を受けて麻痺はしているんだろうけど、殺意を持って向かってくるたくさんの人間の相手をするのはやはり怖い。


 そもそも対人戦だって初めてだ。なんで平気なんだ?


(夏央よ、なぜ剣技を使わない?)


 戸惑う夏央にスープラと後ろにいるブラウドラッハが語りかける。


 あ。使える。いやでも、この乱戦だと撃ったあとの隙が……。


(バカめ。そこはスープラにフォローを頼めば良いのじゃ。ほれ、奴はちゃんと分かっておるぞ?)


 スープラを見ると、ブラウドラッハの声が聞こえているかのように頷く。


 これも魔王のバフの効果なのか?


(まあそれもあるじゃろうが……。スープラも大変じゃの)


 うん?


(ぼけっとするでない! 今じゃ!)


 ロキシーの背後に踏み込んだ数人に向かって、見慣れたウインドウから剣技を選択する。ブラウドラッハと融合してる時よりは少ないけど、使えるだけありがたい。


 刀が紫色に光り、範囲攻撃の剣技が発動する。弾き飛ばすことはできたが発動後一瞬動けなくなる。


 それを見逃さなかった別の兵士をスープラの術式が地面に縫い付ける。岩が降ってくるとかとても痛そう。


 遊撃的に戦うロキシーにフォローされながら、スープラと互いに守り守られ、エリアルのリップにも支援されつつ、夏央は応戦する。


 ロキシーの動きは、かつて勇者パーティにいた事を納得させる動きだ。自分達に対して数に勝る相手と戦い慣れている。


 夏央も負けじと奮戦する。


 しかし、それなりのダメージは与えているつもりだが、回復の術式を使える者がいるらしく、何割かは復活して迫ってくる。


 以前よりも力は増している実感はあるし、コントロール出来ているとも感じている。


 でも敵が多すぎる。


 彼らが放つ殺意。殺意。殺意。


「男は殺してもいいが女は生け捕りだ!」


 殺意に交じる、粘つくような視線。


 夏央はその雰囲気に呑まれつつ、焦る。補正が入っているはずなのに伝わってくる感情。殺意ではないから補正がゆるいのか。いずれにしろ、そんな狂気は自分には無い。


 なに考えてるんだこいつら? 頭おかしいんじゃないのか? こっちだけ殺さないとかよく考えてみたら無理ゲーでは?


 剣を振るいつつ、こいつらは本当に人なのか?そんな気持ちが沸いてくる。


「……面倒くさいな、いっそ殺すか」


 自分の口から出た言葉に夏央は驚いた。


 えっ? 今俺が言ったの?


 その刹那、スープラに迫る敵。


 勝手に動いた体は、敵を自分でも驚くような速さで斬りつけていた。確実に死んだと思うような勢いだった。


「夏央!」


 スープラが叫ぶ。


 夏央は蒼白になる。


 殺した……?!


(ちっ! 馬鹿め。焦るでない。焦れば持っていかれるぞ。お主の本来の力の前では、雑魚は雑魚に過ぎんのだ。スープラと自分を守ることだけ考えて振るえ!)


 ブラウドラッハが舌打ちしつつ夏央の中で叫ぶ。


 たしかに先程倒した相手は死んではいないようだ。夏央は気持ちを切り替える。夏央の不足はブラウドラッハが補ってくれる。


 そう信じて心を鎮め、剣を振るう。切りつけた刀に伝わる、相手の骨が折れる感触が意識の外に消えていく。


 最初はたどたどしかった連携が少しずつ滑らかになっていく。


 ゴッデスフルスを目指して旅をした最初の頃を思い出しながら夏央は剣を振るった。



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