雑魚の典型だな
天井に開いた大穴から、雪がちらつき、身を切るような冷たい風が吹き込んでくる。
降りてきたノートメアシュトラーセ軍は、三十から四十人規模。やはりシャルロットの部下達だったらしい。
シャルロットが怒りも顕に、前に進み出て怒声を上げる。
「何故お前達がここに展開している! こんなものまで持ち出して、一体誰の命令だ?!」
少し豪華なフルプレートアーマーを装備した指揮官らしき男が前に進み出てきた。兜を脱いで答える。
「あなたの御父上ですよ、鬼姫殿下。ようやく役に立ってくれたと事の他お喜びでした」
その言葉に、シャルロットはたじろぐ。
「父上が……私に監視をつけていた? くっ……あの方ならやる……。わかっていたのに!」
あの親父か。
夏央は、かさねに見せられた映像を思い出す。
娘を道具としてしか見ていなさそうな男だった。
シャルロットは本当に何もしていなかったようだ。
むしろ、あの親父はいつから娘を監視していたのか。そもそもシャルロットはどういう立場なのか。
夏央は薄ら寒い気持ちになった。
「理由は知りませんがね。これ程のエーテル鉱脈がこんな所に眠っていたとは。御父上の目は正しかったということですよ。しかしなんとまあ、これを速やかに報告しないなんて国に対する裏切りですねえ」
指揮官は嘲笑しつつ答え、それからあたりを見渡し、興奮気味に続ける。
「これ程のエーテル鉱脈があれば我が国は一変する。エーテル漬けの人間までいるとは。なんの実験かは知らないが、こんなことは聞いたことがない。何もかもがとてつもなく貴重ですよ。実に愉快だ」
「……私は騎士だ。彼女は訳あってこのような状況にある。それを守らないということは、私の騎士道精神に反する」
シャルロットは自分に言い聞かせるようにそう宣言する。言いながら、シャルロットは落ち着きを取り戻したようだった。
指揮官は、手をひらひらと振りながら、面倒くさそうに答える。
「まあなんでもいいですが。今からこの場所は我々の管理下に置かれます。歯向かうものは殺しても良いと言われています」
兵士達が、夏央達を取り囲むように散開し、剣を抜いた。
クラブマンと呼ばれた足付き戦車が、器用に足を踏み変えて移動し、砲口をシャルロットに向ける。
ゼータの望んだ状況は既に無くなっている。
戦いは避けられない、と夏央は思うが動揺は無い。
種の力なんだろうな、とは思うが、今はありがたいと思う。
この状況で竦むのは絶対に嫌だ。
(うむ、それでこそ我がマスターじゃ。存分に支援してくれよう)
ブラウドラッハの声が脳裏に響く。
目が合うと八重歯を見せてニヤリと笑う。
(あほう、八重歯でないわ! キバじゃ!)
夏央は、スープラを見る。
強い眼差しでスープラは頷く。スープラにも動揺はない。
リップは……エリアルか。戸惑いを露わにしてゼータを見つめている。
ゼータはフルプレートアーマーの男を見ている。表情は変わらないが、怒ってる気がする。
ロキシーは……うん。怒ってるな。
「宰相殿は、首尾よく目的を達成出来れば、あなたを嫁にくださるそうですが……。地位は欲しいですが悩みどころですね。あなたもエーテルに漬ければ、そこの女性のような美しさを手に入れられるでしょうか? しかし、エーテルに漬けずとも妻として夜毎に嬲ることが出来るならそれも一興ですかね」
過去に何があったのかは知らないが、明確な悪意を夏央はこの男に感じた。
嫌な顔だ、と思った。
「よく喋る。権力をちらつかされて増長する雑魚の典型だな」
何か言ってやろうとした夏央はロキシー、ではなくゼータに先を越された。
口を開きかけたロキシーもあれ? って顔をしている。
「なんだと?! 俺を誰だと思っている!」
「知らん。肩書きがなければ話もできないのか? 御託はいいからさっさとかかってこい。エリアルには指一本触れさせん」
ゼータの瞳に冥い焔が灯った。




