↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
66/103

ここにいたんだね

◇◇◇


【夏央視点】


 夏央はテントの中で目を覚ました。


 洞窟の中だからわからないが、夜は明けているくらいの時間だろう。少し肌寒い。


 隣で横になっていたブラウドラッハはすでに起きていたようだ。

 目が合うと視線で何かを伝えてきた。


 ブラウドラッハの視線の方を確認すると、僅かに開いたテントの入口の先に、スープラとリップが見えた。


 エーテルのエリアルの前で、ひとつの毛布を分け合うようにして寄り添って座り込み、小さな声で何かを話している。


 エーテル結晶から生じた光と、揺らめく焚き火の炎が、二人を優しく照らしている。


 ふと、リップが振り返る。


「あ、起こしちゃったか」


 済まなそうに言う。


 うん、リップに戻ったようだ。


 目配せをして頷き、夏央とブラウドラッハは静かに二人の近くに移動する。


 ロキシーはリュリーと一緒に、隣に張ったテントの中で寝ているはずだ。


 シャルロットはだいぶ離れた場所で、壁を背にして眠っているようだ。本当に眠っているかはわからない。


 リップの中のエリアルに気づかれたかも知れないが、そう簡単に信じられることでも無いだろう。


 あの後、シャルロットは何を尋ねることもなく、ひとり難しい表情を浮かべて、エーテルの中のエリアルをずっと見つめていた。



「あれから何も答えてくれないんだ。辛いみたいで」


 誰が、とは言わない。


「確かに辛そうだったな」


「ずっと、ここにいたんだね。昔のままで……」


 スープラが言う。


「愛されてたんだな、って思うよ。お互いに、辛かっただろうね」


 リップが答える。


「時を止めている、か……。ここから移動したらどうなるんだ?」


 夏央は傍らのブラウドラッハに問いかける。


「止めていた時間が一気に進みますわ。本来あるべき姿へと進むだけ。干からびるか腐敗するか。いずれにしろ、あまり見て気持ちの良いものではありませんよ」


 思わぬ方向から聞こえてきた聞き慣れぬ声に、ひっ、とリップが声を上げる。


「それは、世の理を捻じ曲げたことに対する当然の報いでしかありませんわ。生まれいずるものは等しく死ぬ。いかなる想いがあったとしても」


 厳かに言い放つ声の主を探すと、モノトーンのゴスロリ風のドレスを纏った、黒髪の少女が立っていた。


「誰??」


「シュバルツシュッドクローテじゃ。ようやく起きたか、寝ぼすけめ」


 ブラウドラッハが夏央の疑問に答える。


 どこかで聞き覚えがある。


「……グランツヴェルト?」


 思わず声に出し、夏央はハッとなってシャルロットの方を確認する。


 寝ているようだ。


「問題ありません。彼女には何も見えませんし、聞こえませんわ。彼女の疲労は大きく、深い眠りに落ちています」


 シュバルツシュッドクローテと呼ばれた少女が答える。


 見た目はブラウドラッハと同じ年齢くらい。整った顔立ちに涼しげというよりは些か冷たい目元。ストレートの黒髪ロングで前髪を切りそろえている。白い肌が際立ち、アンティークドールのような容貌だ。


「久しぶりじゃの」


 一歩前に出たブラウドラッハが声をかける。


「貴女はなぜここに?」


「聞いて驚け! 妾はマスターを見つけたのじゃ! こやつが魔王じゃぞ!」


 シュバルツシュッドクローテは、ブラウドラッハのドヤ顔をあっさりと受け流して、夏央を見る。


「わたくし達が実体化出来ている辺りからその可能性に思い当たりましたが、やはりそうなのですか」


「なんじゃ。驚かせ甲斐がないのう。すごいことなんじゃがのう」


 しょぼんとしてブラウドラッハが夏央の服の裾を掴む。何それかわいい。


 ふむ、と言った感じでシュバルツシュッドクローテは顎に手を当てて夏央を見る。


「魔王……? 普通の人間に見えますわ」


「俺はそのつもりなんだけどさ…」


「わたくしたちを実体化させる普通の人間はいませんわ」


どっちも初登場時点で人型だからよくわかんないな。


「それはさておき、ここの主が戻ります。時間はあまりありませんわ」


 無表情だったシュバルツシュッドクローテの顔には、やや緊張感。


「主? ゼータ?」


「いいえ。コキュートスドラゴンですわ」


「物語に出てくる伝説の竜? 実在するの?」


 スープラが問いかける。


「ええ。ここは本来コキュートスドラゴンの巣。これだけの濃度のエーテルが放出されれば、さすがに異常を感じて戻ってきますわ。季節外れの吹雪もその前触れに過ぎません」


「そしたら、お姉ちゃんはどうなるの?」


 リップが震える声で問いかける。


「ドラゴンの判断次第としか言えません。侵入者は貴女たちなのですから」


「少なくとも十年は帰ってこなかったんだろ? 今更戻ってくるのか?」


 夏央の希望的観測にブラウドラッハが答える。


「竜の時間感覚は人間とは違うからの。十年などほんの一時に過ぎぬ」


 リップがふらふらとよろめいてしゃがみ込んだ。


「リップ? 大丈夫?」


 支えようとしたスープラを手で止めて、リップが厳しい表情で顔を上げる。


「……リップは大丈夫よ。私のことはいいから、朝になったらあなた達は山を降りなさい。なるようにしかならない。肉体が滅べば、私も消えるでしょう。そこの女の子の言う通り、あるべき状態に戻るだけなのだから」


 違う。エリアルが出てきたんだ。


「でも……それじゃあお兄ちゃんは……!」


 泣きだしそうなスープラを、物悲しげな、それでもどこか優しげな表情で、エリアルがそっと抱きしめる。


 そんなことにゼータは耐えられるのだろうか、と夏央も思う。


「シュバルツ、これはお主の仕業では無いのか?」


 ブラウドラッハが問いかける。


「その答えは、はい、であり、いいえ、ですわ。わたくしは自ら力を行使していません。そもそもわたくしたちは単独では無力であることは貴女もわかっているでしょう?」


「これ、ってなんのこと?」


「エリアルに関わる諸々じゃ。体の保存、精神の分離、そしてリップへの干渉。シュバルツが関わっているならある程度説明はつくのじゃが」


 ブラウドラッハは不服そうだ。


「グランツヴェルトの力…? でもいいえ、ってどういうこと?」


「あの方が、無意識に私を使ってこの状況を作った可能性は否定しないということです」


「装備しなくても使えるの?」


「装備する、というのは、ひとつの形に過ぎませんわ。その場にあって、使おうとする意思、力を欲する意思があればどうとでも。とはいえ、ブラウドラッハが言ったこと全てを成したわけではないでしょうが」


 シュバルツシュッドクローテは表情を変えることなく答える。


「ロキシーが前に話してた、耐え難い苦痛と対価は?」


 グランツヴェルトを無理に使えば苦痛を伴い、相応の対価を支払わなければいけないはずだ。


 シュバルツシュッドクローテは夏央の後ろに視線を向けた。


「貴女もやらかしていたのですね」


「ええ。すみません」


 突如聞こえたロキシーの声に夏央は仰け反る。話し声で起きてきたのか。


「流石に私も起きますよ。すみません、続けてください」


ロキシーはシュバルツシュッドクローテに続きを促した。


「そもそもあの方は常に耐え難い苦痛を抱えて生きているようなもの。とうの昔に壊れてしまったおもちゃの力だと信じているようですし、気づいてはいないと思いますわ」


「……本当にアレだったんですか。エリアルのわがままに付き合って作ったんですよ。有名店のアイスを家でゆっくり食べたいって言われて…。人に使うとか想定外すぎます」


「あったわね……そんなこと……。なくしたと思ってたわ」


エリアルがスープラを抱きしめたままつぶやく。

ロキシーは呆れている。


「あんなに苦労したのに……。しかし、無意識に使ったことも驚きですが、あの苦痛に気づかないって相当ですよ?」


ゼータの感じている苦痛はロキシーが呆れるほどらしい。夏央は改めて痛ましさを感じた。


「しかしなぜあなたは急に実体化したのですか?」


ロキシーがシュバルツシュッドクローテに尋ねる。


「私がその子を起こしたんだよー?」


リュリーがキラキラと飛ぶ。


「え?」


「マスターを持たないわたくしは幻のようなもの。とはいえ、魔王のマナと妖精からの干渉を受ければ、魔王から知覚されずとも、さすがに実体化もしますわ」


リュリーの干渉でシュバルツシュッドクローテは実体化したらしい。


「ブラウドラッハもそうだったの?」


「いや妾はそもそも夏央の前に現れる気満々じゃったからの。知らんぷりを決め込んでいたシュバルツとは違うわ」


ということは、実体化にはある程度のマナが必要で、かつグランツヴェルトの意思も必要ってことなのか。そして妖精はその意思を無効化できる。妖精すごいな。


「……リュリーって実はすごいの?」


「そうだよー! 妖精はすごいんだよー!」


リュリーは嬉しそうだ。


「知りませんでした……」


ロキシーはガックリと肩を落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。