あなたの手を握る資格
◇◇◇
「シャルロットさんも知らなかった様ですが、この場所は何なのですか?」
話を変えるように、ロキシーはゼータに尋ねる。
ゼータはひどく戸惑っているようだ。
しかしむしろそれ故に頭が働かないのか、質問には答えた。
「……ああ、以前エリアルと旅していた時に偶然見つけたんだ。混乱の中でこの場所ならばと思い移動した。時を止めるものといい、移動といい、お前の魔道具無しにはここに至ることはできなかっただろう」
「アレですか……? エリアルのわがままに付き合ってようやく作ったアレ? 人に使うことは想定してませんし十分も保たないような効果しかない出来損ないのはずなのですが」
ロキシーは首を傾げた。
アレはおもちゃのようなものだ。こんな事象を引き起こせるようなものではない。
「しかし実際にこうしてエリアルを止めている」
「それは確かにそうですが……。まあいいか」
ロキシーは頭を切り替える。道具のことは今はどうでもいい。
「この洞窟内に充ちたエーテルの結晶。おそらくはこれがこの一帯に魔物を引き寄せていた原因です。
魔物はエーテルを好むそうです。おそらくは半年前の地震の影響でエーテルが漏れだし始め、魔物を呼び込んでいたのでしょう」
「……確かにあれ以降に魔物の脅威度は上がっていると思う」
シャルロットは無言。
エーテルの中のエリアルをぼんやりと見つめている。
「崩落の状態はどうでしたか?」
ゼータは戻ってきた方向を振り返った。
「崩落は止まったようだ。崩壊した場所はかなり離れていた。洞窟の位置から想定してここに影響が出る可能性は少なそうだ。それと、天候が悪化している。季節外れだが、吹雪いてきた」
「さすがにこの状況で帰れとは言いませんよね?」
「……好きにしろ」
ゼータは背を向けてそう答え、エーテルの中のエリアルを見つめ、スープラに抱かれたリップに視線をさまよわせた。
それから、何か言いたげに口を開きかけ、躊躇い、諦めたようにロキシーに視線を向ける。
「……俺は上に戻る。この場所と置いてあるものは好きに使っていい」
ゼータは、資材が積んである場所を目で示した。
それから、もう一度エリアルとリップに視線を彷徨わせて、二度と振り返ることなく戻っていった。
「だそうです。今日はここに泊まりましょう」
ロキシーがシャルロットを見て言う。
「私も……いいのか?」
「ええ。あなたを追い出して遭難させるよりも、恩を売っておいた方が良さそうですし」
シャルロットはひどく疲れたような顔で答える。
「言われなくとも、ここでの出来事を報告するつもりは無い。ゼータ殿にもあなたにも恩がある。それに私は謹慎中だ」
「ありがとうございます」
「いや、礼はいい。崩落もあったし、魔物のさらなる増加が起きるなら、それに伴ってここが露見するリスクは今まで以上に高まると思った方がいい。それは忘れないでくれ」
「ええ。十分です」
ロキシーが差し出した手に、シャルロットは首を横に振って答えた。
「いや、私にはあなたの手を握る資格がない。お気持ちだけいただいておく」




