あんなに地味だったのに
スープラはずっと黙ったままのリップを振り返る。
「リップはどう思う?」
「……」
「リップ?」
「えっ? 何かしら……じゃなかった、何が?」
ゼータと会ってから、リップは少しおかしい。
時々、うわの空で考え込んでいる。
その後は、いつものリップの口調と、エリアルのふりをした時の口調どちらかに振れる。
エリアル口調の時は、物腰もなんだか丁寧だ。姫スープラみたいな洗練された雰囲気がある。
なんか気配もおかしい気がする。
リップの違和感はスープラも感じていたようだ。
「ねえリップ、今とか、お兄ちゃんのところでやってたそれは癖になったの? さすがにちょっと気になってきた」
「え? あー、そのー」
「ロキシーの仕込みではないってことか」
「……私ではありませんよ。ゼータではないですが、さすがに悪趣味かと」
「あれはほら、えっと、デュパープが、ね?」
リップはおろおろしている。
「あの場での一度きりの出来事だと思っていたのですが違うのですか……?」
ロキシーは何か違う話をしているように聞こえる。
「え、あ、気に入ったというか」
なんだろうね、このぎこちなさは。違う人みたいだ。違う人? ん?
夏央はふと思いついたことを口に出してみる。
「で、エリアルさん、なんでリップに降りてきたの?」
「な!! なんでわかったの?! あなた何者?」
リップ? があっさり認めた。
「まおー!」
「え? ええ? それ冗談じゃなかったの??」
ちょっとリュリー、嬉しそうに教えるのやめて。リップが怖がっている。いや、リップが今更そんなことで怖がるはずないんだ。
「ふふん。こやつはお主の属性の変化まで感じておったぞ?」
あの違和感ってそういうのだったのか。
「この訳知りな幼女も何者なの? リップ? え? そうなの?! ちょっと待って……あれ? また戻れないよ?? どうして??」
リップは自分の顔をぺたぺたとさわりながら、より一層狼狽えている。
「幼女て……。ふむ。まあ、ひとつの器にふたつの魂じゃからな。ホイホイ入れ替われると思うこと自体が間違いじゃぞ?」
ブラウドラッハは呆れたように言う。
「やはりエリアルでしたか。あの瞬間だけの奇跡、白昼夢のようなものかと考えようとしたのですが」
ロキシーは自分を納得させようとしていたらしい。
リップは疲れたように笑った。
「ごめんねー。そのつもりだったんだけど。えっと、説明すると長くなるから短くシンプルにまとめるとね……」
本人曰く、リップにはエリアルの魂が降りているらしい。
リップが来たから干渉、体に入り込み、やりたいことが終わって抜けようと思ったらうまくいかなかったらしい。
どちらの意識が表に出るかはコントロール出来ておらず、現在はエリアルが表に出ている状態。
「リップごめんー。そんな怒らないでー」
とエリアルらしいリップは頭を抱えた。
ややこしいからとりあえず表に出ている方、今はこの人は「エリアル」という話になった。
「それはそうとして、ロキシー、なんだかすごいメンバーに囲まれてるわね。あとなんか可愛いし」
エリアルはリップとの対話で、こちらから大した説明をすることも無く夏央に関連する状況を理解したらしい。手間が省けて良かった。
「まあ、そうとも言えますね。リミッター付きの魔王までいますし。あのグランツヴェルトがこんな可愛らしい外見の存在だとは私も思いもしませんでした」
「違うわ。ロキシー、あなた自身よ? なんか羨ましいな。こないだまではあんなに地味だったのに」
ロキシーは嬉しそうに笑ってからはっとなって、それからどんよりとした顔になった。
「あなたもそう思ってたんですか……。地味……。そうですよね。こちらが認識出来ないだけでずっとみてたんですよね?」
確かにエリアルはゼータに言っていた。「ずっと見ていた」と。
スープラが遠慮がちに尋ねる。
「エアリアルさんは……生きているの?」
「私は死んだのだと思う。でも、理由は……わからないけど、意識はずっとゼータの近くをさまよっていた。これが幽霊ってものなのかな? でも他の幽霊には出会ったことはないのよ」
「リップはどうなってるの?」
「リップは私の頭の中にいるような感じで、声は聞こえるし表情も意識に浮かぶわ。
逆の時は、この目を通して世界を見ているというか、視界を共有してるけど体は動かせない。切り替わるきっかけが分からないけど、時々交代するみたいね、
ってリップほんとごめん。一度だけ借りるつもりだったのに、こんなことになるとは思わなくて。お願いだから大声で歌を歌うのはやめて頂戴……!」
エリアルは頭を抱えてうずくまった。涙目。
もちろん、リップの歌はエリアルにしか聞こえない。
まあ、そうだよね。自分の体が乗っ取られてるこの状態は怒るよねぇ。
夏央はエリアルとリップ、双方に同情した。




