本当にお前だったのか?
◇◇◇
【ゼータ視点】
ロキシー達が去ったことを確認して、ゼータは戸締りをし、店の奥へと戻る。
幾重にも設置された、魔具による防壁の先にある長い階段を抜けて、地下に向かう。
いつ誰が、どんな目的で作ったのかは一切わからない、忘れられたダンジョン。
やがて、ゼータは巨大な扉の前に辿り着く。
巨大な扉の下部を加工して埋め込まれた、人が通れる大きさの扉を解錠する。
その先には、ドラゴンが群れで住めそうな、さらに広大な空間が広がっていた。
辺りには、無数のエーテル結晶が無造作に埋まっている。
極めてレア素材のはずのエーテルがあふれるような場所はゼータも他には見たことがない。
そもそも、この山は、コキュートスドラゴンなる神竜が住まう場所と昔から言い伝えられていたらしい。こんな環境ならそれもあながち間違いでもないのかもしれない。
ただ、それはゼータにとっては些事でしかない。
奥に、淡く輝く巨大なエーテル結晶が屹立している。
ゼータの心を占めているのは、この巨大なエーテルの結晶体。
その中で刻を止め、ふわりと浮かぶように佇むエリアル。
変わらぬ美しさを保ちながら、エリアルはそこにいる。
何かを話すことはもちろん、動くこともない。
ゼータの魔力の大半を魔具に注ぎ込んで維持していた時間停止の法術は、この特殊な場所の力によって今も維持されている。
エリアルを包み込むエーテルは、消費されるどころかむしろ増えてさえいる。
ゼータの負担はほとんど無い。
今にも動き出しそうなほど、何も変わらないエリアルの姿。
「エリアル。さっきのあれは何だったんだ? 本当にお前だったのか? それとも、ロキシーとデュパープの悪ふざけなのか?」
もちろん、答えはない。
悪ふざけには見えなかった。
見間違えるほどの姿以上に、あの声。あの話し方。
エリアル以外であるはずがなかった。
しかし、エリアルの体はここにある。
体を借りた、とエリアルは言っていた。
それが本当なら、エリアルの魂はまだこの世界にとどまっていた、ということになる。
実際、エリアルはゼータを見ていたとも言っていた。
胸の奥が疼く。
エリアルは悲しんでいた。
そんなことは思いもしなかった。
ゼータの望みはただひとつ。
エリアルとの再びの邂逅。それだけだった。
邂逅は叶ったのかもしれない。
でも、この先にはもう何も無いのかもしれない。
そんな想いがゼータの脳裏を掠めていった。




