↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
54/103

それが騎士のなさることですか

 姫騎士の目が今初めて「生きている」という事実に気づいたかのように見開かれる。


「ゼータ殿と言えば、明るくよく笑う快活な…」


 ゼータを見つめる姫騎士の表情が困惑に染まっていく。


 夏央はそのゼータを知らない。


 ロキシーはまた遠い目をしている。さっきの呟きといい、彼女はその頃のゼータを知っているのだろう。


 姫騎士の困惑は続いている。


「あなたは何故そんな悲しい目を……? それにどうしてこんな場所に……?」


 ゼータは答えない。


 姫騎士はゼータ達の物語が大好きだったのだろう、と夏央は思った。


 憧れた物語の主人公の片方が、実はまだ生きていて、山の中で人の目を避けるように隠れ住んでいる。

 姫騎士の困惑がわかる気がした。自分が同じ状況になったら絶対混乱する。


(何故生きている! と怒らないだけまだましじゃろうな。それに客観的に見てみよ。あやつの視点では隠れ住んだ上に美女を侍らせているように見えるのではないか?)


 あっ。それはそうかも。


 姫騎士の表情が困惑から訝しげなものに変化する。


 ゼータの周りの面々を順番に見回している。明らかに誰かを探している。

 リップを見て少し考え込んだが首を横に振る。繰り返し何度も見回す。

 それから、ひどく寂しそうな表情が浮かんだ。


 彼女が探している人はきっとここにいない。


 姫騎士はキッとゼータを睨んだ。


「……エアリアル様は? どうされたのですか? なぜあなただけが?」


 ゼータは無言。


 姫騎士の表情に怒りが滲む。


「……違う。あなたはゼータ様ではない。私が憧れたゼータ様とエアリアル様の結末がこんなはずがない」


 夏央は誤解を解きたいとは思うが、口を挟める雰囲気ではない。


「ゼータは誰かの憧れになれるような男ではない」


 一切感情のこもらないゼータの言葉は、むしろゼータ自身に向けられているように夏央は感じた。


「……私の憧れを勝手に否定するな!」


 姫騎士はゼータに言い返し、その眼差しには憎しみが満ちていく。


「愛しい人を失い、同胞を殺され、国を滅ばされたゼータ様がこんなところで生きているはずがない。もし本当に生きていれば、先頭に立って国の復興に力を奮っているはずだ。民を見捨て、こんなところで世捨て人になっているはずがない。違う……お前は偽物だ」


 事態を傍観しながらも姫騎士に多少共感していた夏央は、伝わってくる怒りの感情と、掌を返したようなその言い方に途端に心がざわつき始める。


 前に見た、ゲシュペンシュタットの光景が脳裏をよぎる。


 あれだけの思いをしたゼータにむかって……何も知らないくせに……。何言ってんだこいつ?


 ドロリとした黒い感情が生まれる。奥歯が軋む。


「夏央、落ち着いて」


 その声にハッとすると、スープラとブラウドラッハがそれぞれ夏央の手を握っていることに気づいた。


 目が合うと、二人ともわかっている、とでも言うように頷く。


「落ち着け。この程度の事で動じるでないわ」


「あ、ああ」


 黒い感情が引いていく。……また危なかったのかもしれない。


「俺がどこで何をしようと俺の勝手だ」


 姫騎士と対照的にゼータは淡々としている。


 その態度に姫騎士が苛立つ。


「お前の活躍だけでなく、お前の仲間たちの話も怪しいものだな! 戦時中もどこかでコソコソ逃げ回っていたのではないか? エアリアル様も本当は見殺しにしたのではないのか!」


 それはいくら何でも言いすぎだろう、と口を挟もうとした夏央は、近くで膨れ上がる殺気に思わず振り向く。


 ゼータの雰囲気が一変していた。


 まるでさっきの夏央自身のようだ。いや、それ以上か。


 夏央の下げている刀が、ゼータの元へ行きたがっているような気がした。


「俺はどうでもいいが、俺の仲間たちを侮辱することは許さん。抜け。相手になってやる」


 ゼータの殺気が姫騎士を襲う。


 しかし、姫騎士は動じない。むしろ牙をむく虎のようだ。


「光栄だ。紛い物の英雄など叩きのめしてやる」


 姫騎士は怖気付くことも無く、剣を手にする。


 比較的大きな両手剣だ。


 夏央が無言で渡そうとした刀に、ゼータはほんの一瞬懐かしそうな色を目に浮かべたが、断った。


「俺はもうこの剣には相応しくない」


 ゼータの左手が、虚空から一振のロングソードを掴み出す。


「下がっていろ」


 ロキシーがやれやれといった顔で頷き、夏央達を促す。


 止めないらしい。まあそうだろう。ロキシーも怒りを抑えているように見える。


 夏央達が下がるのも待たずに、姫騎士の剣が猛然とゼータに襲いかかる。


「はああああッ!!」


 速い。


 が、振り下ろされたその大剣を、ゼータは抜き放ったロングソードで難なく受け止める。


 受け止めながらもゼータは驚いている。


 姫騎士もあっさりと受け止められたことに驚いているようだ。


 そのまま、流れるように打ち合う。


「意外とやりますね」


 ロキシーが呟く。


 発言は問題だが、この姫騎士は強い。


 ゼータは確かにすごい。夏央など比較にもならない。


 でも姫騎士もかなり強い。

 大剣をまるでショートソードのように軽々と振り回す膂力も凄いが、技術の裏付けを感じる。日々の鍛錬が見えるようだ。

 夏央がブラウドラッハの支援を受けても勝てない気がする。だが、ゼータはそれを軽くあしらっている。


 ロキシーが言った、ファランクスに対抗できる存在、というのがわかる気がした。


(ほう、よく見えておるの)


 ブラウドラッハの声が聞こえる。


 夏央は、ブラウドラッハと契約してから、魔王の力を使うトレーニングをしている効果もあるのか、色んなことが認識できるようになった。


 今更だけど、そもそもあのファランクスと戦うとか、冷静に考えると意味がわからない。


(ふふっ。補正かかっておったからな。まあよい。ステータスも見てみよ)


 ウィンドウが浮かび上がる。


 自分の戦闘中には勝手に出てくるが、こういう状況でも確認することが出来るらしい。


 ゼータのステータスは、前に見たファランクスを一部上回っている。


 しかし、ウィンドウは紫。ロキシー同様のバッドステータスだ。


 ゼータもバッドステータス?


(そうじゃな。これは妾とは無縁じゃぞ?)


 対して、姫騎士。


 シャルロット・フォン・ローゼンシュタインという名前だ。


 ステータスはゼータには劣るがかなり高い。


 二人は激しく打ち合っている。


 ゼータを揶揄するだけはあるのかもしれない。


 姫騎士の剣技を凌ぎ、ゼータが剣技を発動させる。

 同じ剣技のようだが、スピードも威力もゼータのほうが上だ。


 力の差を見せつけたいのかもしれない。


 姫騎士は凌ぎきれず吹っ飛んだ。


 いや、後ろに飛んで多少は衝撃を逃がしてるな。


 姫騎士が愕然とした表情で頭を振って立ち上がると、まとめていた金髪がはらりとほどけた。


 綺麗なロングの金髪を風になびかせ、姫騎士が再びゼータに襲いかかる。


「まだまだっ!」


「くっ!」


 あれ? ゼータの動きが急に悪くなった?


 ぎこちない動きで明らかに押し負けている。


 むしろ防戦一方。


 姫騎士も気づいているようで。


「どうした! 余裕のつもりか?! 馬鹿にするな!」


 怒りに任せた単純な力押し。


 しかし、ゼータの動きは悪い。


 剣技をまともに食らってゼータは膝をつく。


 余裕と言うよりもむしろ体が言うことをきかない、そんな様子に見える。


「いけませんね」


 ロキシーが動く。


 が、ロキシーよりも先に、ラファエラが二人の間に割って入っていた。


 発動寸前の剣技をキャンセルして、姫騎士がたたらを踏んで踏みとどまる。


 剣先を掠めたピンクの髪がはらりと風に舞うが、割って入ったラファエラは動かない。


「邪魔だ! どけ!」


「やめなさい。それが騎士のなさることですか? なんの咎もない方に剣を向けるなど」


 別人のように、有無を言わせぬ、毅然とした雰囲気。


「騎士」という言葉で、我に返ったように、姫騎士の剣先が下がる。


 ラファエラはさっきまでののほほんとした口調に戻り、首を傾げる。


「この方は何らかの不調を抱えていますー。貴方ほどの方が、そんな方を負かして嬉しいのですかー?」


 え、なんでバッドステータスだってわかるんだろう?


 恥じるように、姫騎士の顔にさっと赤みがさす。


 後ろに控えていた騎士が取り繕うように言う。


「女に助けられるとは情けない。大戦の英雄など過去の遺物ですな」


「……くっ。行くぞ」


 姫騎士が踵を返した。


 軍が去っていく。


「ゼータ?」


 ロキシーの声にゼータがふらりと立ち上がる。


「まだ休んでいたほうがー」


 肩を貸そうとするラファエラをゼータは手で遮る。


「わかっただろう、ロキシー。俺はこのざまだ。お前の役には立てない」


 ロキシーは無言。


 夏央はみんなを見渡す。


 リップの顔色が特に冴えない。


「ロキシー、とりあえず今日は帰ろうよ?」


 スープラの言葉にロキシーが頷く。


「そうですね。ラファエラさんも一緒に戻りましょう」


 ロキシーはラファエラも促し、街への帰路についた。




 街へと戻った夏央達は、ラファエラと別れ、宿を確保した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。