↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
52/103

奥様でいらっしゃいますか

 開けるかどうか迷ったようだが、ロキシー達の視線が煩わしかったのか、ゼータは諦めたようにドアを開けた。


「こんにちはー。こちらがエリアルのパン工房ですか?」


 ウェーブがかった桜色の長髪がのぞく。


「すごい綺麗な人きた」


 リップが声を上げる。


 明るい色のコートを羽織った、優しそうな笑顔を浮かべた女の人が立っていた。


 穏やかさを感じる金色の瞳。整った面差し。たしかに綺麗な人だと夏央も思う。


「誰に聞いた?」


「いつもお客さんにそんな物言いをしているのですか?」


 愛想など欠片もないゼータの口調に、ロキシーが呆れたように声を上げる。


「ええ、街のパン屋さんが教えてくれましたー。いつも売り切れで買えなくて困っているとお話したら、こちらに直接足を運べば手に入るかもしれない、とおっしゃいましてー」


 桜色の美女はゼータの口調はまるで気にしていないように、ニコニコと話す。


 どうやらあのパン屋のおっちゃんが話したらしい。口が軽すぎる気がする。


「またか…。あいつは若い女に弱すぎだ…」


「売ってあげないんですか?」


「今はないしここでは販売はしていない。出来たら例のパン屋に納品するから帰れ」


「それは残念です…」


 笑顔が一転、悲しそうに曇る。


「そんなに人気なの?」


 夏央は思わず尋ねる。


「ええ。それはもうー。私も食べたことはないのですが、食べると幸せになれる、って評判らしいんですよー。すみません、押しかけてしまって。どうしても食べてみたいと言う子がいるのでついー」


 金色の瞳を細め、まるでそのパンを食べているかのように楽しそうにふわふわと笑う。


「え? 子供いるの? またロキシーと同じ怪物系なの?」


 どう見てもいいとこ二十代前半だ。そんなことを言う子供がいる年齢には見えない。


 ロキシーといい、この世界は年齢不詳が多すぎる。ロキシーなんかもう歳を取らずにずっとそのままの容姿で生きていそうな気がする。


「いえいえ、私の子供じゃありません」


 慌てたようにブンブンと横に手を振る。


「私って怪物系なのですか…」


 ロキシーが独り言のように言って、目から光が失われた。


「私、医者なんですー。最近麓の街に越してきまして。ああ、申し遅れました。ラファエラと申しますー」


 ラファエラと名乗ったピンクの髪の人はふかぶかと頭を下げた。


「これはこれはご丁寧に」


 ロキシーが復活したようだ。


「奥様でいらっしゃいますかー?」


「いえいえ、ただの友人です。店主の非礼をお詫びします」


 ロキシーはにこやかに答える。基本、女性扱いされるだけでうれしそうに見えるのは気のせいだろうか。


「いえ、こちらが押しかけてしまったのがいけませんので。入院している女の子がどうしても食べたいと言うので非番のタイミングで手に入れようとしたんですけど、残念ながら売り切れで。つい勢いでここまで来ちゃいました」


「勢いって……。ここ街からかなり遠いよ?」


 異世界の人ってすごいな、と夏央は感心する。


 しかし、幸せになれるパンをたべたいと願う女の子、とか大丈夫なんだろうか? いや、むしろイベントフラグ? いやいや、ここはゲームの世界じゃないしね。


「聞いていいのか分かりませんけど」


 スープラが遠慮がちに口を開く。


「その女の子、入院が長いとかなんですか?」


「ええ……い、いえ、大丈夫です。あの子は明るい子ですし」


 思案げな表情と取り繕うような笑顔。


 何かあるとしか思えない雰囲気。


「……お兄ちゃん、ダメなの?」


「ないものは無い」


「……ゼータ?」


 リップが咎めるように言う。さっきのお姉ちゃんプレイなのか。


 ゼータは僅かに呻く。


「……材料を切らしている」


「……」


「……焼けるとしても三日後だ」


 ゼータは視線に耐えかねるように、リップから目をそらして、ロキシーとラファエラを見る。


「いずれにしろ、最近この辺りの魔物がおかしい。明るいうちに帰ることだ。あんたもな」


 ロキシーは首を傾げた。


「でもあなたが倒しているのですよね? 街の人々は、あなたをハンターさんと呼んでけっこう慕っているようでしたよ」


「そんなつもりは無い。襲ってくるから倒しているだけだ」


 ゼータは淡々としている。


「そうだ、面倒なのでここに」


 言いかけたロキシーの言葉に、ゼータは被せるように言う。


「ここは人を泊めるようにはなっていない。話が済んだなら帰れ」


 十年前の出来事はここまでゼータを変えたのか、と夏央は思った。自然と人を率いるような雰囲気はまるで無く、徹底的に人との関わりを避けているのが感じられる。


 ゼータは生きていて、あれから十年経っている。話を聞く限り、あまり人とは関わらず、暮らしてきたように思える。まあそもそもそんな終わり方をするお話は嫌だ。あれから一人きりで、思い出を抱えて生きるなんて辛すぎる。想像できないというかしたくもないと思った。


 怪訝な表情を浮かべながらこちらを見ていたブラウドラッハと目が合う。


(……なんじゃ、こやつは)


 頭の中に声が聞こえてくる。


 うん? どうしたの?


(いや……こやつはお主とよく似ておるの)


 似ている…? 俺がこのとんでもない王子様級イケメンと? 目が二つあるとかくらいしか共通点ないぞ?


(阿呆じゃな。そもそもこやつは王子様だし、顔ではないわ。心の内に闇を抱え、生きることに倦み、人や世界と距離をおいているところがよう似ておる)


 距離、は置いてるのかも。目の前の世界が他人事に感じるときは確かにある。


(それみよ。同じではないか)


 夏央は思う。自分も周りからはそう見えていたのかと。


 なんだろ、あんまりいいもんじゃないな。


(ほう。そう思うか)


 うん、ゼータには悪いけどさ。


(妾と契約したことで種に対抗出来ているということなのかの。種の力があればむしろそちらを好ましいと思ってもおかしくはない)


 そうなのか?


(種はこの世界にお主を適合させ、負の感情を増幅して魔王化させる力があるからの。魔王化に繋がる力は抑えておるが)


 適合、ね。あれ無いと俺はそもそもこの世界で生きられないから無いと困るかも……。ホント無理。


(その節は済まなかったのう。今はこやつじゃ。まあこやつもよく闇堕ちせずによく耐えておるわ)


 闇堕ち? いわゆるダークサイドに堕ちる的なものか。


(そうじゃ。負の力に引きずり込まれての。陽のあたる場所には戻れぬようになる。魔王に到達した者や我らグランツヴェルトを利用した者達のように、な)


 どうして耐えれてるんだろう。


(何かがこやつの心を浄化しておる。立ち直らせるには程遠いが、ギリギリの所で引き止めているようじゃ)


 定番の展開なら、その何かを隠すために人と関わらない、ってことになるんだけど。そんなベタな事ないか。いいものを隠すってのもよくわからん。まあ、普通になんか人間嫌いそうだしな。


 何となく今まで読んできたあまたのラノベやアニメを思い出す。


(それはいいもの、なのかのう?)


 え?


(良いものが良い効果をもたらす訳では無い。こやつにとってどういう影響を与えるか、に過ぎぬ)


 やだな、そんなフラグみたいなの。




「昔はよく泊めてくれたじゃないですか?」


 ロキシーが開き直ったようにいう声で夏央は我に返る。


 え? あれ? どういう関係なの?


「それは……エリアルがいた頃の話だろう。二人の時間を何度もお前達が邪魔して……邪魔だった」


 ゼータはエリアルという言葉に微かに表情を和らげたが、声のトーンが下がる。


 邪魔者だったらしい。お前達、ってことは他にもいるな。


「あはは。まあそれはそれで」


 ロキシーは悪びれない。


「……いいから帰れ」


 僅かな逡巡を見せたゼータが固い意思を示す。


「もう少し押したらいけますかね?」


 ロキシーの呟きに、ゼータは表情は変えないまま、あからさまな殺気を見せた。


「帰れ」


 ロキシーはどこか面白がっているようだが、スープラとリップは気が気ではない、といった様子だ。


 ゼータの殺気でリュリーが夏央のコートの中に潜り込む。


 忘れていたが、ラファエラはぽかんとしている。誰かフォローしてあげて。


 それはさておき、何やら外が騒がしい。人気のない山の中なのに。


 金属の擦れる音。人の話し声。何かが駆動するような……エンジン音?


 夏央はそっとドアを開けて覗いてみた。


 軍隊??


 軍服っぽい服。フルプレートアーマー。なんか謎の装備。馬。


 何やら一戦交えそうな集団がこちらに近づいて来るのが見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。