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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
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ハンターさん

 街に入り、デュパープに言われたパン屋はすぐに見つかった。


 しかし、リップが指定されたパンは入荷未定。入ってきてもすぐ売り切れてしまうらしい。


「奇跡のパンはここで売ってたのか……」


「だね……」


 リップとスープラがつぶやく。


「奇跡のパンねえ。なんかありがちな気がするんだけど」


 夏央の感想にスープラとリップが食い気味に食いつく。パンは食べていないのだけれども。


「そんなことないよ! 学園の購買にもたまに入荷するんだけどすごい人気なんだから」


「食べると幸せになれるって有名なの! これだから異世界人は!」


「え、じゃあここまで買いに来る必要なくない?」


「ええ。実は私の伝で入荷してもらってるんですけどね」


 ロキシーがふふっと笑う。


「「えー?!」」


「あれおいしいよねー!」


 愕然とするスープラとリップだが、リュリーは食べたことがあるらしい。夏央がふとブラウドラッハを見ると。


「ブラウドラッハ、よだれ……」


「なっ?! 妾がヨダレなど垂らすわけがなかろう! よかろう、まいますたーよ、そのパンを妾にも食べさせるのじゃ!」


「いや、だから売り切れだって。ほら、わざわざお店の人に聞かなくてもここに貼り紙もあったよ。


『エリアルのパン工房特製 奇跡のパン 売り切れ入荷未定 徹夜での順番待ちは禁止しています』


だってさ」


 こんなに寒くても何日も並ぶ奴いたんだろうなー。あと転売屋とか出そう。ネットで転売。この世界にネットがあるのか未だによくわからないけど。


 うん? エリアル? あれ?


「お姉ちゃんの名前と一緒……」


 貼り紙を見つめたリップがつぶやく。


「ええ、それはゼータの工房の名前です」


 ゼータ。


 婚約者を戦いで失い、国も地位も何もかもを失い、失意のまま姿を消した十年前の英雄。……パン屋? パン屋なの? 

 パン屋に恨みはないけど、パン屋と言うと、さっき売り切れのことを話してくれた、人のいいおっちゃんみたいなイメージが強い。あと定期的にでかいアンパン焼くおじさん。ガ〇ダム乗ってた人もパン屋になってたな。シー……いやそれは昔の名前だ。忘れないと。


 前に見た、スープラにどこか似た面差しの貴公子然としたイケメンとのギャップが大きすぎて、夏央はちょっと思考が追いつかない。


「お兄ちゃんがあのパンを……」


 スープラはちょっと感動してるみたいだ。どれだけすごいパンなんだ?


「いやあ、遠くから来てもらったのに悪いねえ。人気だからもっと作ってくれ、って頼んでるんだけど、あんまり儲ける気も無いみたいでね。まあ、自分で店も出さずにうちに委託してるぐらいだし本当にそうなんだろうなあ」


 手が空いていたのか、パン屋のおっちゃんが、店の前に屯っている夏央達に済まなそうに声をかけてきた。


「いえいえ、しょうがないですよ。運が無かったですね。そのパンはどんな人が作っているのですか?」


 ロキシーがしれっと聞く。


「ああ、山のほうに工房を建てて住んでる男が作ってるんだよ。寡黙で人付き合いもしないし、ちょっとかわってるけど、あいつの作るパンは本当に美味いんだ。俺も頑張ってるんだけどなんか根本的に違う気がするんだよなあ。まあ、いいけどな」


 人の良さそうなおっちゃんが笑う。


「おっといけねえ。あんまり人に話すなって言われてたんだった。お姉さん美人だから教えちまったけど、俺が言ったって誰にも言わないでくれよ」


「あはは。ありがとうございます。大丈夫です、言いませんよ」


 ロキシー、めっちゃニコニコしてる。


 チラッとこっち見て「ドヤァ」って顔したけど見なかったことにしておこう。

 うん、その節はゴメンね。そんなにキャラ崩壊するくらいアレだったのか。


「あいつは顔もいいし、腕っぷしも強いから、パンだけじゃなくあいつ自身も人気があってな。どこで聞いたのか、あいつをひと目見たいと噂を聞きつけてうちに訪ねてくる娘もたまにいるくらいさ」


「それは知りませんでした」


「うちの嫁は俺の方がいい男だって言ってくれるけどな。おっと惚気けちまった」


 ガハハ笑いするおっちゃん面白いな。


「まあみんなすげなく追い払われてるらしいんだがな。顔がいいからなんて妬んだ奴も昔はいたが、何故か女も寄せ付けないし、やっかまれることも無くなってな。

 山の方で時々発生する魔物の駆除をしてくれたりとかいろいろ助けて貰ってるから、街の連中はモンスターのハンターさんなんて呼んでてな。感謝してる奴も多いよ」


 元勇者だし、魔物の駆除くらいは余裕だろうな。いやしかし、何をしてるんだろうか。略して…略しちゃダメだ。


「そういやあ、妖精とは珍しいのを連れてるな! 山の方に昔はけっこう普通にいたって言うけど、久しぶりに見たな!」


 おっちゃん楽しそうだ。


 夏央達は、とりあえずそこでパンを買った。


 店の隣はカフェのようになっていて、買ったパンをその場で食べられるようになっていたのでちょうど良かったのだ。


 うん、普通に美味しい。


 ブラウドラッハとリュリーが分け合って食べてるのがなんだか微笑ましい。


 ひと休みして、次の目的地に向かうことにした。


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