行ってみればわかるわ
「おめでとうございます。さて、さっそくですが、週末は少し遠いところに遠征しますよ」
なんか聞き覚えのある声がしたと思ったら、いつの間にかロキシーが来ていた。
「妾も行くのじゃ」
「いくのじゃー!」
「こら! 真似をするでないわ!」
「ないわー!」
ブラウドラッハとリュリーも一緒だった。
ブラウドラッハは、効率だとかなんだで基本は小学生くらいのサイズで生活している。夏央と契約したことでマナ的な問題は解決したらしく、たまに大人になってたりするので油断ができない。
リュリーは仲間が出来たようで嬉しそう。
まあ、よくわからない生き物という点では確かに仲間なのかもしれない。
「夏央、おぬし、今なにか妾に失礼なことを考えておったのではないかえ?」
え、心を読まれた?
「心など読まずとも丸わかりじゃ、バカめ。妾とリュリーを同類だとか思っておったのであろう!」
バレてた。
「だいじょうぶー! わたしとー、ブラーシェちゃんはー、なかよしだよー!」
リュリーがむぎゅつとしがみつく。
「やーめーるーのじゃー」
嫌そうにブラウドラッハが振り払おうとする光景もなんだか見慣れたなー。
「ブラーシェ、じゃ! もっと親しげに!」
また心を読まれた。
「ロキシー、どこに行くの?」
スープラが思い出したように尋ねる。
「ミッションくれるの?」
いつの間にか出てきたリップが期待に満ちた眼差しをしている。
くれるの、ってお菓子をねだる子供か。
「ミッションは……どうでしょうね? 今回は北に向かいます」
ロキシーはそう宣言した。
◇◇◇
デュパープに促されて店内の個室に移動。
ロキシーが改めて口を開く。
「ゼータに会いに行きます」
「え……?」
ロキシーが何を言ったのかよく分からなかったが、徐々に頭が追いついてくる。
一番驚いているのはもちろんスープラ。
「で、でもどこにいるのか……」
「そもそも生きてるの?」
スープラもリップも表情は冴えない。
ゼータは、十年前に姿を消した。
国は滅び、両親は亡くなり、婚約者だったエリアルも亡くなった。
それだけの目にあって、そもそもまだ生きているのだろうか、夏央でさえそう思わずにはいられない。
夏央は、ブラウドラッハの記憶を見る形で、絶望したゼータの姿を見ている。
万が一生きているとしても、会っていい状態だとはとても思えなかった。
「どこにいるかは把握してますし、月に一回くらいは会ってますよ?」
「え……? えぇー?!」
「はあ?!」
ロキシーが何を言っているのかよくわからない。
「そもそもあんな去り方したのに……」
「あんな去り方……夏央は何かを見たんだよね?」
「えっ? どんな去り方?」
「いや……えっと、ブラウドラッハ?」
「妾に振るでないわ」
「私は聞いて知ってるけど大した事じゃないわ。ロキシー、話を進めて」
言わなくてもいいことを言ってしまってオロオロする夏央だったが、デュパープが先を促してくれた。
「まあ、とにかくいろいろあってゼータは全てを捨てて去っていったんです。そのあと、法術で連絡取ろうとしたら、全然反応なかったんですけど、一週間連絡し続けたら連絡取れまして。居場所も知ってますよ」
「あれはもうストーカーの域にはいってたわよ」
「あはは……。平常心じゃなかったということで。ファランクスやレギオンとは連絡取れませんでしたけどね」
「お兄ちゃん……生きてたんだ。でも……」
スープラが複雑そうな表情を浮かべる。
「大丈夫。ゼータはスープラを見捨てたりはしてないわ」
デュパープがスープラが濁した言葉を引き取った。
「あの時点ではゼータはスープラが生きてることを知らなかった。
そもそもあいつに子育てなんて出来っこないのよ。ショックが大きかったのもあるけど、そもそもあの王子様にそんな甲斐性はないわ。
それに仲良しのリップと一緒の方がいろいろいいだろうし、ってことでロキシーが二人を引き取ったのよ。
それはゼータも了承しているわ」
「この街を勧めてくれたのはデュパープでしたね」
「そうだったんだ」
どこかほっとしたようにスープラが言葉を漏らす。
リップがスープラを無言で抱きしめる。
「ありがとう、リップ。一緒でよかった」
二人の頭を優しく撫でながら、デュパープがロキシーを見る。
「学園長の肩書まで付いてきたのは予想外でしたけどね……」
ロキシーの目からハイライトが失われた。
「で、どうして今頃ゼータなの?」
デュパープの問いかけにロキシーは速やかに復活した。
「ええ。ファランクスに力で対抗出来る存在を考えた時に、私にはゼータしか思いつかないんです。私が自分でできれば一番良いのですが」
「ゼータが応じてくれるとも思えないけどね。でもあれから十年。スープラを一度会わせておくのもいいのかもね」
「でもそんないきなり……」
スープラは助けを求めるように視線を彷徨わせる。
リップがそのほっぺたをむにーっと引っぱった。
「えー?」
「あたしに気を使わなくても大丈夫。せっかく生きてるってわかったんだから会った方がいいんじゃない? お姉ちゃんの元彼、あたしも会ってみたいしさ」
「そんなんじゃなひよーもおー」
ちょっと痛そう。でもなんかスープラ嬉しそう。
「あんまり期待はしない方がいいわよ?」
「なんかさっきから微妙な含みがあるよね?」
夏央はさっきから感じていた疑問を口にした。
スープラとリップの温度感と、ロキシーとデュパープのそれはなんとなく違う。
「ええ、まあ……」
「そうねえ。説明するよりも行ってみればわかるわ」
ロキシーは気まずそうに言葉を濁し、そんなロキシーを横目に見て、デュパープは事も無げに言った。
不思議そうな顔をするスープラとリップを見ながら、夏央は一抹の不安を覚えた。




