どこかで見た最終回
夏央たちがシュティレンヒューゲルの街に戻って来てから、早いものでもう三週間ぐらいが経過している。
ゴッテスフルス王立学園では二学期が始まった。
異世界で魔王認定されたと思ったらゴッテスフルス王立学園の生徒になっていた。
何を言っているかわからねーと思うが……俺にもわからねー。
「夏央ー、朝から何ひとりでぶつぶつ言ってんの?」
「おはよう、夏央!」
リップとスープラだ。
さすがにこの二人の制服姿にも見慣れた。って口に出てたのか。
「おはよー。いや、なんかいろいろあったなー、と思ってさー」
ノインドラッハでファランクスと戦ったのが遠い昔のようだ。
あれからもう何年もたってるような気がする。
結局、夏央の身柄は、監視の意味も含めてロキシーに預けられ、最初の街、シュティレンヒューゲルにみんなで戻ってきた。
一応、渡されたアイテムで位置情報とか取られているらしい……。まあ、拘束されるよりはましかなと夏央は思う。
そして、王様権限で学園に編入。一応試験は受けたが意味があったのかなかったのか夏央にはよくわからない。
「無事に編入できてよかったね、夏央」
「無理だと思ってたわ。勉強けっこうできるんだね。意外」
「失礼だな。異世界だけど基本的にはあんまり変わらないし」
「でも法術系はまるでだめだったみたいだね。むしろよく点取れたね」
「わかるかあんなの」
不正がないことを示す意図があるのか、試験結果は貼りだされていた。法術以外はまあそこそこ。
数学とかは元の世界と同じだったけど、法術に関しては試験問題に何が書いてあるかさえ夏央には分からなかった。選択問題で奇跡的に点数が取れたが、本当に奇跡としか言いようがない。
ちなみに、試験にブラウドラッハを連れていけば! という夏央の閃きは、ロキシーに速やかに却下された。
すごくいい笑顔で「不正はダメですよ?」というロキシーはちょっと怖かった。
話しながら歩いている三人を同じ制服を着た女の子達が追い越していく。
二人は友達が多いのか、都度挨拶を交わしている。
女の子ばっかりだ。
「というかここって女子率高くないか?」
「ここは王都からは離れているけど、王立で寮も完備されてるし、それなりの身分とか資産のある家の子女が多いんだよ」
「知らなかった……」
「お風呂で顔見られてなくてよかったじゃない。面が割れてたらさすがに学園にいられなかっただろうし」
リップは楽しそうだ。
「あと、学園長はじ・ょ・せ・いだからね。もう間違えないでよ」
「そうだね。学園長は女性のロキシー」
「うぐっ……。一回分かれば間違えないって」
夏央はロキシーの家に住むことになった。
男ではないとわかってしまったので、色々気を使うけど監視も兼ねているそうなので選択肢はない。
それと、ロキシーの服装が変わった。
基本的にスカート。いや、ほぼ間違いなくスカート。
腕や足、肌の露出が増えた。
そういう格好をしていると、ああ女の人だったんだなと今更ながら理解する。いやむしろこの人を男だと思っていた自分は頭がおかしい。そんなレベル。
髪を下ろして化粧を変えたロキシーは、普通に綺麗なお姉さんだった。衝撃だった。
戻ってきてすぐの頃は、スープラとリップがコーディネートした服を日替わりで着せられていてちょっと面白かった。
二人が好む服や化粧の系統が違うので、ロキシーも日替わりでキャラが変わっていた。
基本は申し分のない知的な美女で、そこをベースに、スープラ寄りの綺麗なお姉さんになったり、リップ寄りの派手目なお姉さんになったり。
デュパープも参戦したが「こんな格好で表に出られません!」とロキシーは半泣きになっていた。
うん、ちょっと目のやり場に困るしドキドキするから、ああいうのはやめて欲しいな。
デュパープのコーディネートのせいで、ロキシーの体中に無数の傷跡があることがわかった。
背中には今も残る大きな火傷の跡。だからこそ肌を出してなかったのかと、夏央は居た堪れない気持ちになった。
こんなのファンデーションでいくらでも隠せるわよ、とデュパープは気にもしてなかったけど。
とはいえ、ロキシーが肌を出すことに責任を感じた夏央は、ブラウドラッハに協力してもらって、少しずつ傷跡を修復することにした。なんかできる気がしたので。
ついでに、壊れたというエーテル回路も合わせてゆっくり修復を進めている。
もし気付かれたら「ロキシーがブラウドラッハと契約したからじゃない?」と言い逃れるつもりだ。
通う学校はお嬢様だらけのほぼ女子校で、住む家は綺麗なお姉さんと二人暮しとかどんなラノベだよ、と幾度となく自分で突っ込んでしまう。
まあ、ロキシーは学園長の仕事が忙しいらしく、朝は早いし夜も遅いことが多い。
とはいえ、ブラウドラッハとリュリーがいてくれて話し相手には困らない。良かった。良いのかな?
さすがに学校は二人には遠慮してもらっている。
「夏央ー、学校着いたよ。大丈夫?」
リップが目の前で手のひらを左右に振っている。
スープラはニコニコしている。
二人とは同じクラスだ。二人はロキシーの遠縁設定だけど普通のクラス。貴族クラスとか進学クラスみたいなのじゃなくて本当によかった。
あと、若干男子がいるのがせめてもの救い。元の世界同様に、男子の人数が少ないからクラス内でなんとなく肩身は狭いけど。
なんだかんだで学校に通うのはほっとするな。
元の世界ではそんなこと考えたこともなかったけど。
異世界過ぎる日々に少し疲れていたのかもしれない。
スープラの前で大見えを切ったけど、具体的には何も出来てないしなぁ。
むしろ、このまま異世界モノじゃなくて日常系にシフトして欲しい。
◆
あー、うん。そう思っていた頃がありました。
「今日は夏央のGT登録をするね」
放課後、夏央たちはヘブンアンドヘルに来ていた。
まさかのGT登録。
ようやく許可が取れたとのことだ。
訳あり異世界人をGT登録させるのは、学校に通わせるよりも手続きが大変だったんだよ、とスープラが話していた。
GTの組織は国からも独立していて、王様であっても口を出せないらしい。
「いやでも俺、法術も使えないし、登録してもなんにも出来ないと思うんだけど……」
「バカね、GT登録すると、GTとしての資格と身分が手に入るのよ。ミッションを受けるのは無理だけど、一般人では入れない場所に入れたり、買い物で割引きがあったりとかいろいろ便利なの!」
異世界物ラノベでよくある、冒険者ギルドへの登録みたいなものなのかと夏央は納得する。
身分や特典など、テンプレ通りだ。異世界は冒険者が優遇されすぎな気がする。
「でもそんな簡単に登録できるの?」
「出来るわけないでしょ。私たちだってようやく夏休み前に資格が取れたんだから」
うん、スープラが最初に会った時にそんなこと言ってたよね。
「だからね、夏央が取れるのは見習いの資格なの。特典はあるけど、正規の資格を持っている人の同行が条件。具体的には私たちと一緒にいれば特典が受けられる感じだね。あとそもそも資格取得に当たってはある程度のランク以上のGT複数からの推薦も必要とかそれなりにハードルが高いの。何のコネも実績も無い人には間違いなく無理」
夏央の登録には、ロキシーとデュパープの他にも高レベルGTが関わってくれたらしい。
いいのかわるいのか。
店内にいたデュパープに、ただいまーとか声をかける二人と一緒に、夏央も例の窓口に並ぶ。
順番はすぐに来た。
スープラが持ってきた書類を窓口の人に渡す。
うん? この人、ウェイトレスもしてた気がするな。
同じ店の中だしシフトかなんかなのだろうか。
書類をチェックする手が途中で止まり、首をかしげはじめた。
あれ、さっきまでテキパキ処理してた感じだったけど、なんかオロオロしてる?
「スープラ、助けてー。私この書式見るの初めてかも」
小声で囁いたみたいだけど夏央にも聞こえた。
やっぱり困ってたのか。
「あ、これ普通とちょっと違うの。登録マニュアルの後ろの方に書いてないかな?」
「えー? あれ? これ……かな??」
「えっと、その次のページにないかな? あ、それそれ」
スープラは窓口に上半身を突っ込むようにして手順の説明をしている。
ということはスープラはできるのか。これスープラがやった方が早いんじゃないのか?
「あのさぁ、スープラが登録作業したほうが早くない?」
リップもそう思ったらしい。
あ、窓口の人キラキラした目でリップを見てる。
首をすごく縦に振ってる。
「それじゃぁこの子の経験にならないでしょう?」
見かねたのかデュパープがきた。
窓口の子の表情が途端に曇る。えーとか言ってる。
「それはそうなんだろうけどレアケースでしょ? 意味無くない?」
「そういうリップもこの書式はやったことないわよね?」
「うん。初めて見るしねー」
「初めてじゃないわよ。スープラと一緒に研修したじゃない……。いいわ、まとめて私が教えてあげるから、リップもこっち来なさい」
えー、と嫌そうな声を上げながら、リップはデュパープに連れていかれてしまった。
並んでいる窓口の端にあるドアから裏に消える。
まもなく、夏央とスープラがいる窓口の中は三人体制に。なんか狭そう。
デュパープの説明が続き、しばらくして疲れた顔でリップが窓口から夏央の世界でも見慣れたサイズのカードを差し出してきた。
「はい、コレがGT見習いの身分証。もうホント面倒だから二度と登録しないで」
さっきまでとだいぶテンションが違う。
いや、二回はないだろ。
「裏に指紋当てて」
言われた通りにすると、カードが全体的に青く発光した。
かっこいい……。
素晴らしい異世界感。経験値とかレベルが表示されるんだろうか。
え? そんな都合のいいものない?
「異世界ラノベじゃないんだから。単なるパーソナライズよ。買い物したりお金を預けたりもできないからね。あと、そこにサインもしておいて」
異世界なのになー、とがっかりしつつ、言われた通りに渡されたペンで名前を書き込む。
よく分からなかったので普通に漢字で書いた。
どうやらこれでGT(見習い)になれたらしい。
「おめでとう、夏央。GTの世界へようこそ!」
スープラが宣言するようにそう言う。
そして拍手。
パチパチパチパチ。
追うように店内から怒涛のような拍手。
バチバチバチバチバチバチ!!!
「「「おめでとう!!!」」」
夏央が驚いて固まっていると、GT登録はみんなでお祝いするしきたりなんだとスープラが教えてくれた。
前に見た初めてのミッションみたいなものか、と夏央も納得する。
なんかここの仲間になれた感じがしてうれしいな、と夏央は思う。
「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
ダメだ、それはどこかで見た最終回だ。
まだ何も終わってない。




