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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
1章
44/103

スープラのターン

2話分後ろにずれました。

◇◇◇



 夏央は不思議な人だ。


 私とは全く違う世界で生きてきた異世界人。この世界の常識が通用しない。


 私が王女だと知っても、驚きもしなかった。


 ううん、本当は驚いていたのかもしれない。


 それでも、夏央は何も変わらなかった。今まで通り、普通に接してくれた。


 その事が、とてもうれしかった。



◆



 夏央を元の世界に戻すために王都に同行したはずなのに。


 辿り着いてみれば、夏央がここに来たのは私のせいだと分かった。


 私が夏央をこの世界に召喚してしまっていた。


 お母さんと同じように。


 将来の魔王として。


 マキナさんと同じように。


 子供のころ、お母さんから話は聞いていたし、そういうことが将来、自分の身に起こるかもしれない、と理解はしていたつもりだった。


 だけど、それはあまりにも唐突で。心の準備をする暇もなくて。取り返しのつかないことで。



 でも、夏央は許してくれた。


 うれしすぎて思わず抱きついちゃった。夏央は黙って受け止めてくれて。抱きしめてくれて。幸せな気持ちになった。


 夏央が倒れたのはびっくりしたけど。疲れてたのかな?




◆



 思い返してみると、初めて夏央に会ったとき、なんだかドキドキワクワクしてた。


 だから、ありもしないランチの注文をでっち上げて、夏央の情報を得るためにロキシーのところに行った。


 私を見て、夏央はとてもびっくりしたみたいだった。


 デュパープのお店の制服はかわいいから、いい印象を持ってもらえたと思うんだけど聞きそびれちゃったな。


 あの私の行動は、単純に異世界人に対する興味だと思っていたけど、今思うと、もしかしたら私の血によるものだったのかもしれない。


 魔王と召喚者は強い絆で結ばれている気がするの、とお母さんは言っていた。


 あれはこういうことだったのかな。どこかで会ったことがあるような気さえした。


 だから、私は夏央のために何かしてあげたい、助けてあげたい、って思ったのかな。


 それとも、いきなり選択肢のない状況に陥ってしまった夏央に過去の自分の境遇を重ねていたのかな。


 よくわからない。


 でもあの時。私が夏央の件を引き受けたいって言った時。


 夏央が素の私を受け入れてくれた気がして、すっごくうれしかったんだ。




 でもまあいちばん最初のあの出会いはあんまりだよね。


 お風呂って……。


 正直忘れたい。なかったことにしたい。


 リップと違ってわたしぽよっとしてるから……。リップはスタイル良くてうらやましいよ。


 なんで怒るの、リップ?


 いつも駄肉って言ってるのリップじゃない!



◆



 それから王都への旅に出て。


 初の実戦は何もできなくてくやしかった。夏央にはああ言ったけど、本当は全然眠れなかった。


 夏央は優しかった。確かにそうだよね。誰にでも初めてはあるよね。


 あのロキシーでさえ、初心者の頃は失敗したことだってあるはず。そう思ったら肩の力が抜けたよ。


 でも、無事に到着した王都で夏央が一人で連れて行かれることは予想していなかったから正直焦ったし、ロキシーにも裏切られたみたいで本当に頭にきた。


 ロキシーが何度か夏央を「魔王」と言っていたけど、悪い冗談だよね、って思ってたし。


 リップは私の反応にちょっと戸惑ったみたいだけどすぐにわかってくれたから嬉しかったよ。


 うん、付き合い長いもんね。リップ大好き。




 私は本気で怒ると普段からは考えられないくらい冷静沈着になるらしい。


 リップが前にそんなことを言って怖がってたよね? 怒って話を聞かないリップのほうがよほど怖いと思うんだけどなぁ。


 そもそもロキシーと時折訪れていたこの城は、小さい頃の私とリップにとっては格好の遊び場だった。


 元の立場を失った私たちは、いつからともなく、大きくなったらGTになることを夢見ていたよね。


 私たちの目に映るGTの人たちは、なんだかとても楽しそうだったから。ロキシーとデュパープが知り合いだったこともあって、私たちはよくデュパープのところでGTの人の話を聞いたものだ。今でこそだいぶ盛ってたんじゃないのかな? とは思うけど。


 だから、ロキシーの用事でこのお城に来たときは、いっぱしのGT気分で城中を探検して回った。王様からもらった王族レベルの権限があるIDカードは私たちの宝物だった。


 どこに何があるかなんてほとんど知ってたから、夏央の居場所だってすぐに分かった。


 でも、本当に魔王だったなんて。


 私が召喚したのかもしれない、と今更気づいた。


 むしろ、私以外に魔王を召喚できる存在はいないはずなのだから、間違いなかった。


 正直、震えた。


 気が遠くなりそうだった。


 でも、リップが私の手をぎゅっと握ってくれた。それでなんとか気持ちが落ち着いた。


 うん、私のせいで夏央がひどい目にあわされるなんて許せない。


 魔王は討ち果たすと言われて、夏央が呆然としてた。


 気づいたらもう声を出していた。


 ロキシーはびっくりしてた。王様は普通。もしかしてわかってたのかな。


 自分で言ってるとは思えないくらい、すらすらと言葉が出てきた。そうだね。私、本当に怒ってたみたい。


 私の声で、不安そうだった夏央の表情が少し明るくなったみたいに見えた。よかった。


 でもあの時は、私のせいでごめんね、って言ってあげられなかった。夏央は何も悪くなくて。私のせいなのに。


 言い訳のように、無事に送り届ける、って言ったら笑ってくれた。


 なにそれ優しいよ。


 本当のことを知らないとはいえ、私が救われた気持ちになってしまった。


 ロキシーは何か考えがあったみたい。


 そうだよね、ロキシー、そんな人じゃないよね。

悪く思ってごめん。



◆



 何年か前から、ロキシーとの距離感がつかみにくくなっていた。


 優しい姉のような、母のようなロキシー。


 でも、ちょっとした距離を感じる時があって。


 ロキシーは私が魔王を召喚するって知ってるのかも、監視してるのかも、って気になって。不安になって。でも聞けなくて。


 そんな思いをリップには打ち明けられたけど、ロキシーには怖くて直接聞けなかった。


 距離感はリップも感じてたよね。


 基本的には家族同然なんだけど、ふと他人のような雰囲気になる。怒って当然なのになぜか怒らない。一歩引いてる感じ。


 そんな違和感がどうしても引っかかって、二人で家を出た。自立したかったってのも強かったんだけどね。


 デュパープは二つ返事で受け入れてくれた。


 他にも住み込みの子はいるし、そろそろそういうのもいいと思うわ、って言ってくれた。ロキシーは遠慮しすぎなのよ、とも言ってたけど。


 まあそんな経緯もあったから、ロキシーがすんなり味方になってくれてほっとした。


 王様には悪いことしたなーって思うけど。


 そうだよね。やっぱりあれは王様が悪いよね!



◆



 とはいえ、ひとまずはグランツヴェルトが手に入って本当に良かった。手に入ったというか、仲間になってくれたというか。


 いろいろあったけど、夏央の魔王の力は多少コントロールできるようになってきたみたいだし。


 お母さん、ちゃんと言っておいてよ!って当時はわからなかったのか。


 まさかあんな可愛いとは。


 リップは「リアルのじゃロリかよ!」ってなんか私と違うところで衝撃を受けてたよね。


 リップは可愛いものが苦手ということになってる。

でも本当は好きなんだよね。「人前でかわいいものが好きな自分」を出すのが嫌、キャラじゃないとかそんなことを前に言ってたよね。


 本当はリュリーのことも好きなんだと思うんだけどなぁ。


 え? 違う?



◆



 城の地下でのオートマトンとの戦闘は本当に危なかったね。

 フレイムタイガー戦に参加できなかった私は、あのとき初めて死を実感したよ。


 怖かった。


 自分が死ぬことも怖かったけど、自分の大切な人たちが死ぬかもしれない、ってことがこんなに怖いことなんだって初めて知ったよ。


 十年前、ロキシー達はこんなことを繰り返していたんだろうね。


 夏央も戸惑ってたみたいだけど、必死に戦ってくれた。

 ブラウドラッハ……ブラーシェの力を借りるために、なりふり構わず懇願してたよね。


『何を引き換えにしてもいいから! 二人を助けさせてくれ!!』というあの時の言葉。


 私達にも聞こえてるって考えなかったのかな?


 あんなこと言われたら一生忘れられないよ。リップもそうだよね?


 あのときは聞けなかったけど。『何の夢もない』なん『未来に期待もしてない』ってどういうことなんだろう。


 私には楽しく生きてほしい、って言ったのに。

 夏央も楽しく生きてくれないと私も楽しくないよ、っていつか言ってあげたい。



◆



 あの後、ファランクスさんが現れて。聞かされた十年前の話。


 ショックだったよ。話が違いすぎるから。


 今まで生きていた世界が、実は作り物のような、舞台の上の描き割りの背景の世界だったような感じで。


 現れた魔王をお兄ちゃんたちが倒した。魔王軍によってゲシュペンシュタットは壊滅したと教えられていた。


 でも本当はゲシュペンシュタットを壊滅させたのは同じ人間だった。


 夏央が一時的に魔王っぽくなったのもわかる気がする。私だって、正直今まで感じたことがないようなどす黒い感情が自分の中に生まれた気がしたもの。


 今のこの世界が崩れてなくなるわけではないけど、考えると何とも言えない気持ち悪さがある。この件は未だに気持ちの整理がつかない。



 夏央がファランクスさんに倒されて、城に戻ってきて。


 ロキシーが、初めて、十年前のいろんな話をしてくれた。


 三人で朝まで話したね。


 ロキシーの話もおおむねファランクスさんの話した内容と同じだった。


 リップのお姉ちゃん、エアリアルさんは、わたしのお兄ちゃんを庇って犠牲になってしまった。


 いたたまれない気持ちになって、リップに謝ったら、本気で怒られたね。


 そうじゃないでしょ、って。


「私の家族はみんな死んだ。それを改めて確認した。それだけだよ」


 リップはそんなことを言ったけど、じゃあどうして泣いてるの? って尋ねたら私も涙が止まらなくなって。二人でわんわん泣いた。


 お兄ちゃんとエアリアルさんは本当に仲が良かった。


 エアリアルさんをエリアル、って呼び始めたのも幼い頃のお兄ちゃんだったそうだ。噛むって。滑舌悪かったのかな。


 エアリアルさんも最初は「略すな!」って本気で怒ったらしいけど、呼びやすくて広まっちゃったんだって。


 二人はいつも一緒だった。


 きっとこのまま結婚するんだろうな、素敵だな、って子供ながらに思ってたよ。


 そしたらリップとは親戚だね、って喜んでたのに。


 お兄ちゃんはあれからどうしたんだろう。


 まあ会えたからどうなるということでもないんだけど。


 それでも会ってみたいような、会ってはいけないような。



◆



 軽い気持ちで始まった、私とリップの初ミッション。


 そんなこんなで、旅に出る前は想像だにしなかった展開が待ってた。


 あれを想像するとか無理だからね。予想外なんてレベルじゃないよ。


 結局、魔物との戦闘はそれなりに経験値が積めて少し慣れてきたから、GT初ミッションとしては上出来だったと思う。


 でも城の地下といい、ノインドラッハといい、いまいち活躍できなかったなぁ。


 えっ? 必要な支援はしっかり的確に出来てた?


 支援があってこそ火力が活かせる?


 うん、そういってもらえると有難いんだけど。


 今更だけどね、なんか私って火力無いし地味だなって……。


 レイピア、もっと修練を積まないといけないなぁ。相応に使いこなせれば、姫騎士って感じでかっこいいと思うの。ドレスアーマーとか装備して!


 あ、姫は内緒だったね。髪の色も戻したし。


 剣技載せられればけっこう使える武器って言われてるけど……剣技かぁ。




 請け負ったミッションは達成ということになった。


「王都まで連れ来てもらったし、いろいろひとまずどうにかなったんだから達成でいいでしょ」


 夏央がそう言ってくれて、ミッション依頼書にサインしてくれた。


 ロキシーは、日数に応じた一般的な成功報酬と、特別ですよ、って言って臨時ボーナスもくれた。


 帰ったらデュパープにもお礼を言わないとね。




 魔王が復活するという件については、王様が改めて組織的な調査をすることになった。


 今回のグランツヴェルトのトラブルで、お城の中もいろいろ大変なことになったらしく、組織の再編だなんだで王様がへとへとになってた。


 今までのような内々の調査ではなくて、今後はきちんと予算を組んでしっかりと調査をするのだとか。


 あと内通者の所属先にも影に日向に相応のプレッシャーをかけるのだとか。大人って怖い。


 ロキシーも引き続き王様のサポートをすることになった。


「またパティの仕事増やしちゃうなぁ……。どうしよう」


 ってロキシーは心配してた。


 今回の留守では、秘書官のパトリシアさんにロキシーの学園長としての仕事を代行してもらっていたらしい。


 パトリシアさんは、沈着冷静で仕事の出来る女! って感じの人だ。「沈黙のパトリシア」という二つ名で恐れられているとかいないとか。


 ロキシーは「人増やさないとだめかな……いっそパティが学園長でいいんじゃないのかな」とかぼやいてたけど、それは職務放棄だよ。





 夏央はたぶん二学期から一緒に学園に通うことになりそう。


 ブラーシェがいるから当面魔王化の問題はないということになったけど、監視もかねてロキシーが身柄を預かることになったんだって。


 私とリップと夏央の三人で、ロキシーの仕事を手伝う予定。


 まあそもそも私と夏央は当事者だしね。


 ちょっとリップ、私は当事者じゃないのかって拗ねないで。一緒だって言ったでしょ! 私とリップは今までもこれからもずっとずっと一緒なんだから。


 えへへ、って何それ可愛いなぁ。


 そういう可愛いところをもっと出せばいいのに。


 え? ダメなんだ? ぷー。


 ちょっ……ほっぺぷにぷにしないで!


 やめてー。


「リップ、控えよ!」


 あ、あれ? 王女の威厳が効かない?銀髪じゃないと効果無いのかな?


 そこは! やーめーてー!



 ノートメアシュトラーセに帰ったら、まずはロキシーをつれて三人で服を買いに行こう。


 ロキシーをめいいっぱいおしゃれさせて、もう夏央に男だなんて思わせないようにしようね!


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