心の奥に隠している秘密
長かった話を分割したので2話分後ろにずれています。
ロキシーの前に、サーフ、かさね、そしてゆいと呼ばれた少女がこうべを垂れていた。
「申し訳ありません、ロキシー様。此度の戦いであなたを失うわけにはいかないと思い、万が一に備えてゆいを控えさせておりました」
サーフの言葉に、ゆいが無言で頭を下げる。
「いえ、助かりましたよ。ゆいがいなければああはいきませんでしたからね」
ロキシーは疲れた顔をして笑う。
「しかし、死ぬ気とは感心せんの」
ブラウドラッハがロキシーから分離して姿を現した。
「覚悟は常にしています」
眉一つ動かさずゆいが答える。
「おぬしではないわ。ロキシーじゃ」
「あ、あはは」
「ちょ、ロキシー! ふざけんな!」
リップが声を荒げる。
「ロキシー、そういうの困るよ」
珍しくスープラが不満そうに抗議する。
「すみません」
リップとスープラは一緒になってしばらくロキシーに文句を言っていたが、言いたいことは言い尽くしたらしく、二人がかりでロキシーに抱き着いて押し倒した。
「死ななくて良かった!」
「だめだからね!」
ロキシー、生きてるかな? 押し倒されたときにゴン、って痛そうな音がしてたけど。
「ブラーシェちゃんもー、がんばったねー!」
リュリーがブラウドラッハにしがみつく。
「こ、これ、しがみつくでない! あと、ちゃんづけするでないわ!」
嫌そうだけどなんとなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「ところでブラウドラッハ。ロキシー平気そうなんだけど、何を代償にしたんだ?」
「ええ、だいぶ疲労はしていますが、前回とはいろいろ違うようなのですが…」
押し倒されたまま、ロキシーが同意する。
「ばかめ」
ブラウドラッハが不機嫌そうに答える。
「前回はおぬしがわらわを押さえつけて無理やり使ったからそうなったのじゃ。疲れているのはおぬしの鍛え方が足りぬだけじゃ」
「面目ありません……」
「でも、肉体もしくは精神の一部をもらう、って言ってなかったか?」
「うむ、もらったぞ。ロキシーが心の奥に隠している秘密を覗かせてもらったわ」
ブラウドラッハが意地悪そうにニヤリと笑う。
「こやつはのう、夏央に男扱いされていたのがよほど堪えたようじゃぞ。
あれ以来、自分は周りからずっとそう見られていたのかと悩み、だから独り身なのかといまさら愕然としての。
これからは服を変えたほうがいいかとか、ちゃんと化粧したほうがいいかとか、それはもう日々悶々としておるわ」
ロキシーが真っ赤になって両手で顔を覆う。
うわーん……とか小さく聞こえるんだけど気のせいだよね。
「うっわ、ゲスいなー」
「うん、それは下種だな」
「なんでじゃ! エーテルの器が壊れるとかよりよっぽどいいじゃろうが! これでも使用量に応じて手加減してやったのじゃぞ?!」
「つーか、夏央もひどいわー」
「夏央、ロキシーを男だと思ってたの? うそでしょ……?」
「え、なんで俺に誘爆するかな……。いや、ロキシーさん、本当にすみませんでした」
先日のロキシーの取り乱した姿がよみがえり、改めて申し訳ない気持ちになり、夏央は素直に謝った。
「いえ、私も誤解を招くような言い方でしたので、気にしなくていいですよ……」
ロキシーは座り込んだまましょんぼりとしている。
「ロキシー、そんな悲しい顔しないで。今度こそ私が服選んであげるから。これからはちゃんとかわいいの着ようね!」
「そうだよ、デュパープみたいにもっと肌を出さないと! もったいないよ! これで懲りたでしょ! これからはちゃんとしてよね!」
「ロキシーよかったねー! これでもて期がくるねー!」
「えー……」
三方面からの同時攻撃。
ロキシーどうなっちゃうんだろ。申し訳ないとは思いつつも、なんか面白そう。笑いをぐっとこらえる。
「わははは。大戦の英雄も形無しですな」
サーフがこらえきれず笑っている。
「兄上、ロキシー様に失礼ですよ」
寄り添うように隣に立つ、ゆいがたしなめる。
かさねよりも頭一つ分背が高く、かさねは将来こうなるのかな、と思わせる、似ているけど大人びた美貌。長い黒髪のポニーテールはロキシーよりもだいぶ長く、かさねのツインテールに印象が似ている。
「お、おねえちゃん、それよりいつからいたの?」
「ずっとよ?」
「ずっとって?」
「あなたが兄上を『セルティフィカート殿』って呼んでる時にはもういたわよ……。勤めがあったから何も言えなかったけど……あとでお説教ね?」
笑顔が怖い。
あ、この人怒ってるな、と夏央でもわかる。
「ひいい……」と、いままで想像もしなかったような表情でかさねがおびえている。
「でも、ちゃんと言い直したのは可愛かったからお説教は少な目にしてあげる」
あ、でもお説教はするんだ。かさね、まだ震えてるんだが。
「しかし、ゆい。死ぬ気とは関心せんぞ?」
サーフがとがめるように言う。
「あくまで心構えです。兄上を残して死ぬつもりはありませんよ」
「……うむ、ならばよい」
あれ? サーフ、照れてる? こんな反応するんだ?
なんかいいな、この信頼感。
夏央はブラウドラッハを呼ぶ。
「あのさ、ブラウドラッハ」
「なんじゃ、詫びならもう聞かぬぞ?」
ブラウドラッハはからりと笑う。
「え?」
「わかってもらえたらならそれで十分じゃ。使い手とこのように話ができる日が再び来ただけで妾は満足じゃ」
「それでもちゃんと謝っておきたいんだよ。あんな顔させたし。本当にごめんな」
あのときのブラウドラッハの許しを請うような眼差し。それは今でも夏央の心に深く突き刺さっている。
「しつこいわ! もうよいのじゃ!」
そっぽをむいて言う割に俺の服の裾握ってるし。なんかデレてるな、と思ったけど突っ込むのはやめておいた。
「ところでさ、前に見た、十年前のあの映像。ホントなんだよな?」
「妾は人とは違い、過去のねつ造などせぬ。ありのままの真実じゃ」
「誰かに見せることはできないのかな?」
「夏央が妾と契約し、同調したからこそ見ることができたモノじゃ。そんな都合よくは出来てはおらぬ」
「そっか。え? 契約?」
「城の地下で契約したじゃろ? あれで妾とお主のパスがきちんと繋がった。お主の言う絆じゃな」
あれは契約だったのか。まあ、悪いことではない、よな? おかげで助かったし。ちゃんと聞かなかったのは自分だし……?
「……じゃが、もしおぬしが誰かに伝えたいと思う時が来た時には、協力はしよう。見れるかどうか保障は出来ぬがな。今ではないのだろう?」
「うん、まだいいや。ありがとう」
「礼などいらぬ。おぬしはまいますたーなのじゃからな。もっと気軽にスキンシップをするとか態度で気持ちを示せばよいのじゃ。あとそろそろ『ブラーシェ』と親しげに呼んでくれてもいいのじゃが?」
「え、あー、うん」
幼女とスキンシップなんてしてたら異世界でも事案発生じゃないのか。愛称……あだ名みたいなものなのかな? 気恥ずかしいけどそっちのほうがまだハードルが低いよな?
「なんでそんなによそよそしいのじゃ! この幼女モードがいかんのか? ああ、そうか! おねえさんモードがお主の好みなのか!」
いやそれはそれでどうなのか。
「ならばもっとおぬしのマナをよこすのじゃー!」
なんだかんだで夏央の異世界生活はあともうちょっとは続きそうな感じだ。
……フラグ? いやいやいや。
今後どうなっていくのかはぜんぜんわからないけど。
本当にどうなるんだろうね?
まあ、それもいいかな、と思う夏央であった。




