かなりのイレギュラーです
「さて、あなたの今後の処遇ですが」
ロキシーは言葉を切って少し間を置いた。
「通常のケースであればGTに依頼して王都まで護送、王都のエンジニアが本人の持っているログを解析して、位置情報やプロトコルを特定して送り返す運用になっています」
……よくわかんないけどなんか凄くちゃんとしてる。戦国とか中世とか侮っててごめんなさい。ん、でも「通常のケース」?
「ということは俺は通常のケースではない?」
「飲み込みが早くて助かります。残念ながらその通りです。王立学園に施された防壁のリアルタイムスキャンと振る舞い検知をすり抜けて侵入し、施設を破壊。しかも意識を持ちコミュニケーションが可能。近年稀に見るかなりのイレギュラーです。即拘束、もしくは警告なしに即時攻撃してもいいレベルですね」
「そう言われるとなんかとんでもない存在みたいだな俺……」
「いや、実際そうなのですよ?」
ロキシーの眉間がかすかに険しくなる。
「で、要するになにものなのー?」
じれったそうにリュリーが言うが、ロキシーは自分のペースを崩さない。わかりやすくゆっくり丁寧。
「謎です。ただ紛れ込んだだけなのか、良いものなのか悪いものなのか、まるで判断が付きませんね。ただ、王はなにか知ってそうな物言いではありましたが」
「そうかー。まだわかんないのかー」
リュリーはそれでいいらしい。納得している。
王様まで身近な存在らしい。
「王?」
やはり異世界ファンタジーらしい。話が広がってきた。もう少し細かいことが知りたい。
「ええ。この国、ゴッデスフルスの主、メルキュレイ・ゴッデスフルス・レバックは、高度な法術を使いこなす賢者の一人であり、国を守る法術防壁の基礎理論を組んだ方なのです。あなたの場合は、王都まで行き、一度王に会う必要があるでしょうね。それであなたが何者なのかが判明するはずです」
「どうやって行けばいいの?」
「まあ、王都までは通常の場合と同じようにGTに依頼して護送してもらいますよ。後で手配しないといけませんね」
「ロキシーはいかないのー?」
「うーん、私は仕事がありますからね。どうしたものか」
少し迷ったようにロキシーは答えた。
ロキシーによると、この世界には、GTと呼ばれる職業があるのだそうだ。
GTはこの世界の誰しもが一度は経験するポピュラーな職業で、様々な雑務を請け負う。
そこまで聞いて、夏央はまさかアレか? いわゆる冒険者とかモンスターのハンター的な? と思ったが、ほぼその通りだった。
武器や法術を駆使して、魔物の駆除や素材の回収。護衛だけでなく傭兵のような事もするらしい。
魔王がいるんだからそりゃ魔物もいるよね……。どこまで続くんだこの世界? ラノベ書いて投稿できるんじゃないか?
「あなたの件もそうですが、最近この世界では何かの予兆とも思える不可解な出来事があちこちで発生していて、私も最近は王の指示で細々とした調査をしていたのですよ」
ロキシー、まるで古き良き時代のゲームのオープニングみたいなセリフを……という言葉を夏央は飲み込む。ちょっと待ってなんかかっこいいんだけど。
「学校の仕事だけでも手一杯なのにさらに色々押し付けて……安月給でどれだけ人をこき使う気なのかあの師匠は……」
妙に生活感のある呟きが続き、夏央が感じていたかっこいい雰囲気を速やかにぶち壊した。
「……予兆ってやっぱり魔王とかなの? でも魔王は十年前に現れたんだよね? もうしばらくは現れないんじゃ?」
「出現間隔が決まっているわけではないのですよ。しかも前回出現時はそれ以前に比べてかなり軽度の被害で済んでいますし。被害規模と出現間隔に因果関係があるならば可能性は上がりますが、そもそもそこが不明なので何とも言えませんね」
「本当に災害みたいだな魔王……」
「なおが魔王だったりしてねー。なんか名前の響きも似てるしー!」
リュリーがなぜか嬉しそうに夏央の顔を覗き込む。
「いいですねその仮説は。異世界から来た謎の人間が魔王ならばいろいろうまくつながります。十数年前に異世界から来たという人も行方知れずみたいですし」
ロキシーが夏央を見る目がなんだか怖い。
「でもリュリー。さすがに今回はそれは無いと思いますよ。夏央からは何の力も感じませんしね」
「隠してるだけかもよー。だって空から降ってきたんだよー? 人間は空からは降ってこないよー? 羽もないしー」
リュリーは疑い深そうな顔で夏央の周りをふわふわと飛んでいる。
「隠している、か。通常とは違う現れ方をしているのは事実ですからそれも無くはないですね」
話がおかしな方向になってきて、夏央はなんだか怖くなってきた。大丈夫なんだろうか、この人たちは。
「そんな力があったらこんなとこで混乱してないでさっさと何かしでかすわ!」
「魔王なんだからそこは用意周到にいかないとだめだよー?」
「もしくは何かのきっかけで一気に覚醒するとかもありえますね」
夏央を見るロキシーの目が真剣で怖い。どこまで本気なのかわからなくなってくる。そうだ、王様なら何かわかると言っていた。
「すみません、疑いを解くためにとりあえず王様に会わせてください」
なんだか言わされてしまったような気もするなと思いつつ、夏央はげんなりしつつ両手を上げて降参の意図を示した。
「でもそんな簡単に会ってもらえるの?」
ロキシーは軽く頷いた。
「理由が理由だけに大丈夫ですよ。そもそもあなたの件の対応はすでに王から指示がありましたし」
え、それ大丈夫なの? 王様にも目をつけられてるってこと? 連絡の取り方も謎だ。
コンコン。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
ロキシーが声をかける。
ガチャッとドアが開き、微かに風が吹き込む。澄んだ声が聞こえる。
「おまちどうさまでーす。『ヘブンアンドヘル』です! ランチデリバリーに伺いましたー!」
ふわりと部屋に入ってきたのはメイド服姿の女の子。何か爽やかな薫りがした。
年頃は夏央と同じぐらい。肌は白く、清楚に整った顔立ちには可憐な雰囲気。ポニーテールにした栗色のロングヘアが、彼女が纏う正統派美少女感をさらに高めている。
スカートにふわふわしたボリュームがある黒いミニのワンピースに白いエプロン、絶対領域のまぶしい白いオーバーニーソックス、レースのついた白いカチューシャ。エナメルっぽい黒い靴。
メイドさんのコスプレにしか見えないが、話の内容からしてウェイトレス的な人なのかもしれない。短い袖とスカートからはすらっとした細い手足が伸びている。
意識せずとも見とれてしまうほどに、美しく透明感のある美少女。
「スープラでしたか。あれ? ランチなんてお願いしてましたっけ?」
「してますよ?」
スープラと呼ばれた女の子はふふーっと笑い、左手をちょうど夏央から見えない角度に伸ばして、何やら銀色の箱を取り出した。
え? 今どこから出てきた? 持ってたか、こんなの?
銀色の長方形の立方体。意匠はオシャレな感じだが、どう見ても蕎麦屋さんとかの古き良きおかもち。
メイドさんがおかもちを持っている。違和感なく。
ずしりと重そう。いや、絶対さっきまでは持ってなかったはず。




