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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
1章
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グランツヴェルトって?

 みんなでテーブルを囲み、お茶を飲んで小休止。


 リュリーがクッキーをボリボリとむさぼり食べている。


 おなかすいてたのか。


 レバック王は一段楽したころあいを見計らって改めて話を再開した。


「さて、ロキシーよ。『グランツヴェルト』を覚えておるな?」


「ええ……。しかしまさか今その名を聞くことになろうとは思いもしませんでしたが……」


 ロキシーの顔色が明らかに変わるのが夏央にもわかった。場に緊張感が戻る。


 レバック王は淡々と続ける。


「ならば話は早い。あれを夏央が使えばどうなるかの?」


「しかしそれは!」


 ロキシーは青ざめた顔で戸惑いを隠せないように声を荒らげる。


 夏央はロキシーが大声を出すところを初めて見た。


 何か重大なやりとりがレバック王とロキシーとの間で交わされている。夏央が知らない、そしてロキシーが取り乱すほどの、重大な何かが。


 夏央はその「何か」を求めて仲間たちを見る。しかし、スープラもリップも、いうまでもなくリュリーも首を横に振る。


「何ですか、その『グランツヴェルト』って?」


 夏央は我慢できなくなって訊いた。


 ロキシーは躊躇しているようだ。レバック王は僅かに目を細め、ロキシーを促す。


 ロキシーはスープラとリップを見た。二人が「ん?」と言いたげな表情を浮かべる。


 ロキシーは少し目を閉じ、それから話し始めた。


「正式名称は長いので通常は『グランツヴェルト』と呼びます。これははるか昔の賢者が作ったと言われる、特殊な魔具のことです。


 それらは、賢者自身が神獣になぞらえて生成・召喚した式神を腕輪などに封印し、力の源としています。種類はかつて存在した五行思想に基づき、全部で五つあることがわかっています。


 東を司る、ブラウドラッハ。


 南を司る、ローテフェン。


 西を司る、ヴァイスティーガー。


 北を司る、シュバルツシュッドクローテ。


 中央を司る、ゲルプドラッハ。


 過去の調査の結果、グランツヴェルトには人間の様々な潜在能力を引き出したり、法術の既存の概念を超えた事象引き起こす力があることがわかっています」


「どういうこと?」


「ええ。端的にいうと、使用者が普段使えない力を発揮したり、使えない法術が使えたりすることが出来ます。ただ、グランツヴェルトにはマニュアルのようなものは存在しないので、発揮される力は使用者の能力とセンスに委ねられます。ただし、もしこれを使いこなし、力を引き出すことが出来たとしても、やはり恐ろしく危険なアイテムであることは間違いありません」


夏央はロキシーが言ったことを懸命に整理している。何か鍵になりそうなアイテムが出てきた感じがする。人の潜在能力を引き出すアイテム。


でも、なんか都合良すぎないか? 使いこなすことが出来ても危険というのが引っかかる。 使いこなせるのなら問題ないんじゃ?


結局、夏央は自分が思ったままの疑問をロキシーにぶつけてみた。


「使いこなしてもどうして危険なの?」


「使いこなせるということは、相当強力な力とセンスを持っているということです。並みの修練では手に入れられないような、桁違いの力です。その圧倒的ともいえる力を手にした人間が、そのままでいられると思えますか?」


普段は穏やかなロキシーが珍しく熱くなっている。

レバック王は黙ったまま微かに顔をしかめる。


「力を手に入れた人間は、必ずその力を使ってみたいという欲望が出てきます。その欲望に抗える者のほうが少ないのです。そして、力を手に入れた人間は傲慢になります。この力が自分のものなら、使って当たり前、とさえ考えます。誰もが人を超えた力に憧れる……。それは仕方のないことです。しかし、その力に飲み込まれてしまうことになれば……」


「恐ろしく危険なことになるのじゃ。特に魔王が自分の力を好きに使えるようになってしまうのならばな」


レバック王はロキシーの言葉を遮るように静かに補った。


危険なアイテムというのはわかった。ただ、ロキシーがそこまで深刻になっている理由が夏央にはよくわからない。


しかも魔王を制御できるのなら理想的なアイテムなのでは。


「はーい。しつもーん」


リップが軽い感じで手を挙げる。


「それはどこにあるの? ってゆうか、なんで二人はそれを知ってるの? 部分的にだけどやたら詳しいよね?」


スープラとリュリーもうんうんと頷く。心底不思議がっている顔をしている。


言われてみると確かにそうだと夏央も思う。


「確かに」


「それは……」


言いよどんだロキシーに、レバック王が助け船を出した。


「それはわしが話そう。なぜなら、わしがそのグランツヴェルトを持っているからじゃ」


「ええっ?!」


夏央は思わず声を上げた。どこか他人事のように聞いていた話が、急に現実味を取り戻す。


「正確には、グランツヴェルト・ブラウドラッハ。ちと心配じゃが、ロキシーがおれば大事あるまい。それと、グランツヴェルトには魔王を制御する力があるという情報がある。試したことはないのでなんともいえんがな」


「魔王を制御? そんな話は私がいた頃はありませんでしたが……」


「うむ、おぬしがここを離れてからわかった情報じゃ。しかし実績はない。だからこそ夏央の協力が必要だといっておるのじゃ」


「え、それを使えば……」


スープラは思わず腰を浮かしかける。


「慌てるな。ここにはない」


レバック王はスープラを目で抑え、続けた。


そのグランツヴェルトは以前ある人物から預かったもので、この国の西にあるノインドラッハ山の頂にある神殿に保管されているらしい。


「どうしてそんなところにあるのー?」


リュリーの問いに、レバック王は嬉々として答える。


「そこが一番安全だからじゃ」


そこはこの国の安寧を祈って建てられた場所だそうだ。


山はそれなりに高く道も険しいが、誰でも訪れることが出来るのでそのような重要なものがあるとは考えられていないらしい。


実際にはグランツヴェルトは強力な結界に守られているため、並の人間では近づくどころか、知覚することさえ出来ないとレバック王は言う。


「何でそんな不便なところにおいちゃうのよ?」


リップが憮然とする。


「悪用されたら困るからのう」


リップの態度に、今度は少々困ったようにレバック王は答える。


「じゃあ、そこにいけばグランツヴェルトが手に入るんだね」


スープラが話の続きを促す。


「そういうことになりますね。いずれにしろまずは手に入れてから、ですね」


ロキシーは普段の冷静さを取り戻したように答えた。


こうして、夏央は特に拘束されることもなく、スープラたちと共にノインドラッハ山というところに行くことになった。




◇◇◇




それから、リミッターを取りに行く準備が必要であることなどを理由に、王は出発までの数日は城にとどまるようにと言った。


また、「お前たちだけでは心許ない。護衛を一人つけてやろう」と言って、金属の鎧に身を包んだ騎士を紹介してくれた。


騎士は、意識しないほど自然に、影のように王の背後に控えていた。


いつからいた? もしかして最初からここにいたのか? ぜんぜん気づかなかった…。騎士ってそういうものなの?


冑を脱いだその騎士は、王都の正門で会ったサーフだった。


「光栄です、ロキシー様」


サーフは、日焼けした顔に笑みを浮かべる。その髪は海焼けしたように赤茶けていて、その名の通り鎧よりも浜辺が似合いそうな雰囲気だ。


「……何でロキシーがいるのに護衛が必要なの?」


怪訝そうにリップが言う。


「なんじゃ、GTだと言ったわりにロキシーを当てにしておるのか?」


ハッとなったリップが慌てて答える。


「そんなことないし」


「まあ、そうであろうの。しかし、ノインドラッハに行くには、お前達では戦力的にやや不安が残る。夏央は不確定要素じゃしの。今後に向けて、一人前の騎士の戦いを見ておくのも良いと思うぞ?」


おおなるほど、と思いつつも、なんだか、用意が良すぎて引っかかる。城に来てから、何だかんだで王様の思い通りに話がすすんでいるような気さえする。


拘束や軟禁されたりしないのも、ゴッデスフルスにいる限りは王の手の上にいるようなものなんだろうし。


いやでもスープラとリップの乱入は想定外のはず。考えすぎなのかな?


サーフを含めて、ノインドラッハ行きの打ち合わせと雑談を半々くらいでしばらく話をした。


礼儀正しく謙虚な騎士、といった雰囲気。話している態度からして、敬語は使っているが、ロキシーと実年齢はおなじくらいなのかもと夏央は感じた。



◇◇◇




夏央たちはいったん宿に戻って荷物を回収することにした。


ロキシーは、王と話すことがあるとのことで、その場に残った。サーフも同様。

てっきりサーフは監視目的で夏央に付いてくるものだと思ったので拍子抜けした。


夏央たちは、街を散策し、夕方に城へと戻ってきた。


スープラとリップは城で働く者にも知られた存在らしく、顔パスで出入り自由。


一緒にいるリュリーも夏央も何もとがめられることは無かった。二人は好き勝手に城の中を歩き回り、たまにすれ違う人とあいさつを交わし、泊まるべき部屋を確保してくれた。


城で働く者は住込みも多いようで、その人たちに交じって食堂で夕食をとり、大浴場も使うことができた。


ちなみに、夏央が入った男の大浴場は街中も城の中もタオルを湯船に浸しても良いルールだった。やはりここは異世界らしい。


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