↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
1章
13/103

テスタメントのスクリプト?

 ぞろぞろと中庭に移動した。思っていたよりも広い。


 夏央はみんなから離れて場所を確保する。


 真剣は数えるほどしか触ったことがないのに、何故か持ちなれているような違和感。また違和感だ、と思いつつ、すぐに気にならなくなった。


 まずは呼吸を整える。


 それから、刃を上にした状態で、右手で柄を握り、剣を自分に対してほぼ直角になるように持つ。左手で鯉口を切り、右手を後ろに引くようにしながら同時に左手の鞘を前に押し出すようにして抜き放つ。




◇◇◇





 ロキシーは夏央が刀を抜き放つ動作を注意深く見ていた。


 この動作だけで、ある程度のことはわかる。刀の持ち方はもちろんのこと、鞘に引っ掛けずに抜くのは意外と難しいのだが、夏央は自然な動作で無駄なくこなしてみせた。


「これなら合格といえますが。しかし何者なんですかね。逆に謎は深まったような…」


 ロキシーはひとり呟く。




◇◇◇





 夏央はゾクリとした。鳥肌が立つ。


 使い古しとはいわれたが、きちんと手入れがされているようだ。


 しっとりとした輝きを放つ刃には、触れるものすべてを両断するような凄みが感じられる。


 思いのほか自然な動きにざわめくスープラたちの声も今の夏央には聞こえない。


 しかもこの刀は、まるでずっと使っていたかのように夏央の手にしっくりと馴染んでいる。長さ、重さのバランス。夏央の為に作られたかのような自然さ。


「……なんだかすごい刀だね。……でも、本当にこれは必要なのか?」


 夏央は自分の置かれた状況に今までと違った恐怖を感じる。


 今、自分がいるのは、これを携帯し、使う世界ということなのだ。


 どこか遠くの出来事のように感じていたこの世界が、刀をきっかけにして急激に実態を持って目の前に迫ってきたようだった。


「はい。あなたがここで死にたく無ければ、ですが」


 ロキシーは静かに答えた。その声にあるのは、当たり前のことを言った、という響き。


「わかった。とりあえず、借りておくよ」


 夏央は断ることが出来ない。


 ぱちりと刀を収めた。


 再びリビングに戻り、ロキシーは持ってきた剣帯を夏央の腰に巻いてくれた。


 左側に落とし差しにしてみる。ずしりと重い。


「夏央はその刀を使えるってことでいいの?」


 スープラが夏央の差している刀を見ながら言う。


「ああ、まあ使い方は一通り知ってるよ。魔物と戦ったことはないけど」


 戸惑いつつ夏央は答える。


 自分はこの世界にとって異質な存在。言うなればお客さんみたいなものだと思っていた。


 移送される異世界人のはずなのに当事者のように扱われていることが奇妙に感じるが、否と言える雰囲気ではない。


「夏央の戦闘経験の不足、その他諸々については私の方でフォローします。夏央はあなた達とは同レベル帯のフォワード要員として考えてください」


「……俺にできるのかな?」


 押し付けられているような違和感を夏央は感じる。


 しかし、自分で言ったように、女の子だけ戦わせるわけにもいかない。自分は曲がりなりにも剣を使うことはできるのだ。GTとはいえ女の子二人は言わば初陣。さほど大きな差があるとも思えなかったし、なんだか男としてもかっこ悪い気がする。


「大丈夫ですよ」


 ロキシーは夏央にウィンクしてみせた。


 実生活でウィンクなんてそうそうお目にかかれないが、美男子? 美女? であるロキシーはなんだかものすごく様になっている。まさにファンタジー。


「あんまり期待はしてないけど、私の足だけは引っ張らないでよね」


 リップが険しい視線を送ってくる。


 さっきは出番ないとか言ってた気がするんですが……。


「えっと、じゃあ夏央の装備を考えた方がいいよね」


 スープラが話を先に進める。


「夏央は私と同じ十七歳だよね。誕生日っていつ?」


 なぜそんなことを聞くんだろうと思いつつ、夏央は誕生日を答える。


「えーっと、そうなると、夏央の属性は地属性だね」


 日にちの違和感はなかったようなのでどうやらカレンダーの概念は同じらしい。なんだ属性って。やっぱりファンタジーか。


「確かに地っぽいかも」


「地かー」


「あのー、一応聞くけど属性って何?」


 スープラとリップが唖然としかいいようのない表情を浮かべて夏央を見ている。美少女ふたりが並んでこんな表情をしているのは残念な意味で奇跡に近い光景だ。


 夏央のほうが申し訳ない気持ちになってくる。


 訳知り顔でロキシーが言う。


「この世界は地水火風の四大元素とマナ、エーテルが様々な物事の基本となっているのですが、やはりあなたの世界は違うのですね?」


「聞いたことはあるけど……、主流ではないな……」


 面と向かって違う、とは決して言えない雰囲気がここにある。四大元素と来たかー。


「じゃあどうやってそっちでは法術《テスタメント》の術式《スクリプト》を使うの?」


 リップが怪訝そうに訊いてくる。だいたい怪訝そうだな。


「テスタメント? スクリプト? 時々その言葉が出てくるけど、実は俺には全然わかんないんだよ……」


 スープラとリップは驚愕の声を上げる。


「「えーっ!」」


「そんなわけ無いじゃん! てゆうか夏央は戦えるのかそれで?!」


「そもそも生きていけないよ!」


「いや、むしろそんなものがあるってのが理解できないんだけど……」


 二人の驚きっぷりに夏央も戸惑う。


「灯りとかどうしてるの?まさか暗くなったら寝るの?」


「水道は?」


「はあ? 灯りは電気だし、水道は蛇口を捻れば普通に出るよ。暗くなったら寝るって石器時代か!」


「電気は発電所で火や水属性(シェル)の術式で造るものでしょ??」


「いや電気は、水力火力原子力で発電して各々の家庭にだな……」


「「はあ??」」


 夏央にもうまく説明できないし、話が全く噛み合わない。


 誰ともなく笑いだした。つられて三人で笑い出す。


「全然かみ合わねー!」


「頭おかしいんじゃないんだ?」


「本当に違う世界から来たんだね! て、あれ? ロキシーは驚いてないね?」


「ええ、私は過去の文献で確認済みですので」


 そのあと、装備について一通り検討してから、ひとまず休憩しつつ改めてお互いの世界の違いについて話した。


 お互いに分かることもあり、あまりに違っていてまるで分からないこともあった。


 夏央がざっくり理解したところによると、この世界は四大元素の考え方がすべての物事の基本となっているらしい。まあ、異世界だし。


 仕組みは夏央の世界とは違うようだが、とりあえず電気と水道というインフラは存在しているし、ガスとほぼ同じ性質を持つ何かも供給されている。


 さらに、人には四大元素による法術《テスタメント》と呼ぶ魔法のような力があり、属性《シェル》に応じた術式《スクリプト》という呪文のようなもの? が様々な形で日常的に使われているそうだ。


人はそれぞれが生まれ持った属性を活かしつつ、マナと呼ばれる生命力やそれを変換して得られるエーテルというエネルギー? を消費することで法術に活用出来るのだという。


 この世界に生きる人々にとって術式の習得は日常であり、GTにとっては法術の能力を高めることは自分の武器の習得と同じように重要なことらしい。


 また、属性はそれぞれに影響し合い、追加効果も生まれるため、パーティー内の連携にも関わってくる。


 それぞれの主要な属性は、リップが火、スープラが地、ロキシーは風をメインとしつつ全属性。


 ロキシーは言うまでもなく、スープラとリップも物心ついた頃から法術の使い方を学び、相応の術式が使えるらしい。


「え、じゃあ俺も何か使えるの?」


「理論上は可能ですが、夏央の場合はそもそも考え方が身についていませんのでおそらく無理ですね」


 夏央のワクワク感はあっさりロキシーに否定された。


「えー、法術使えなくて魔物と戦える? 戦力になる? ダメージ通るのかな?」


「うん。怪我するかも……」


 怪訝そうなリップと心配そうなスープラ。


「大丈夫だよー。夏央は魔王だから本気出したらどーんとやっちゃうからー」


「ああ、そうでしたね」


「いや、魔王じゃないからね?」


「え? 何? そういうのなの? 拘束しなくていいの?」


 リップがビクッとして夏央から離れる。スープラがその腕を慌てて掴む。


「大丈夫だって。ロキシー、リップ本気にしてるよ?」


「いえ、何者か分からないのは事実ですからね。そのために王様に観てもらうんですし。油断したら駄目ですよ?」


 どこまで本気なんだこの人は。穏やかだけどブレないロキシーに夏央はむしろ感心する。


 まあ、そうだよなあ。


「せめて私達を守る側の存在だったら良いのにね」


 いやスープラさん、それって魔王と敵対する側の人って事だよね。


「いやいや、ただの高校生なのに異世界きたら伝説の勇者とかないわー」


「いや、そこまで言ってない」


 心の声が漏れてたようでリップのジト目が痛い。


「そういうことはないの、ロキシー?」


「うーん、そうですねえ、無いとは言えないでしょうが、控えめに言っても可能性はかなり低いと思いますよ」


 ものすごく配慮してくれた発言なのは流石に気付く。多分全くそんなことは思ってない。


「ロキシーはー、夏央に冷たいよー」


「いえ、リスクへの対処を優先的に考えているだけですよ。本当に怪しければ有無を言わさず全力で拘束してますし」


 笑顔で答えるが言っていることは物騒だ。良いのか悪いのか。


 夏央の魔王問題はひとまず放置され、出発は明日の朝と決まった。急だなとは思ったが、どうせなら早く先の展開を見たい気もするので納得する夏央だった。


 それから、街に必要なものを買い出しに出かけ、夕食は『ヘブンアンドヘル』でみんなで食べた。


 夏央は未知の世界で出会ったこの親切な人たちに改めて感謝した。何の縁もゆかりもない自分を色々助けてくれる。助けてもらっても何の恩返しもできないのに。


 そのことを夏央が話すと、ロキシーは静かに答えた。


「私にとっては義務のようなものですから。恩返しだなんて考える必要はありませんよ」


 スープラが頷く。


「私だってそうだよ。私は夏央の力になってあげたいと思った。それに、夏央と旅をすることで私もGTとしての経験を積むことが出来るんだもの。そのチャンスを貰えただけで十分だよ」


「私は恩返ししてもらってもかまわないよ!」


「えー、リップだけずるいー。私もー!」


 リュリーが同調する。


「いや、あのー、すいません、恩返しできない、って話なんですけど……」


「「えー!」」


 夏央の言葉にリップとリュリーが揃って声を上げる。ここだけ見ると仲が悪いのが嘘のようだ。


「大丈夫です。旅はまだこれからですから。王都に着く頃には誰が誰に恩を返さないといけないことになってるかわかりませんよ」


 ロキシーはふふっと笑う。


「ロキシー、怖いことをさらっと言うな……」


 夏央の一言にみんなが無言で頷いた。


「そういうロキシーが危ないわね。今のでフラグが立ったから」


 通りかかったデュパープの言葉にみんなが笑う。フラグの概念はこの世界にもあるらしい。



◆




 夏央はそのままロキシーの家に泊めてもらった。


 すぐには眠れず、いろんな思いがよぎる。


 二つの世界のこと。


 この世界への興味と元の世界への未練。相反する感情が夏央の中でぐるぐると渦を巻く。


 夢でないことは理解した。


 異世界転移が本当にあるなんて。


 この世界のことは正直まだ何もわからない。不安になるから魔王とか冗談でもやめてほしい。


 もしかしたら、小さい頃に行方不明になった従兄弟の姉さんも異世界に行ってたりして。異世界で楽しく生きててくれたらうれしいなぁ。


 出来るなら、ちょっとした夏休みみたいなものだと良いんだけど。


 元の世界は、テストだ受験だと心の休まる暇がなかった。どうして好きなことだけして生きていられないんだろう。

 クラスの友達の顔は何人か浮かぶけど、あんまり心配はしてくれなさそうだ。部活は……まあ似たようなもんだな。


 だめだ、一人になるとつい色々考えてしまう。

 今更考えてもしょうがないのに。


 将来への漠然とした不安があった。

 自分を取り巻く環境。周りの人。いろんなものが変わっていく。

 何かを選んでいかなくてはいけない。でも選ぶことが怖い。何かを選ぶことは何かを失うこと。その先にある可能性が消えるのが怖い。選んだ先で失敗してもやり直せないのが怖い。


 選ぶことで何かが決定的に失われることだってある。


 ああ、そんなことを話したな、と思い出す。


 それはきっと大切なものが失われてしまう前だ。




 小学校以来の、夏央が剣道を始めるきっかけになった友達。同じ道場に通い、今も同じ学校で同じ部活だった。


「夏央は、今が楽しくないってことなの?」


「いや、そうじゃないんだけど。疲れるし先生は腹立つけど部活は面白いし、学校も嫌いじゃない」


「先生は夏央に厳しいからね」


「あのおっさんは親父の友達だからって言いたい放題すぎだ」


「私も確かに将来の不安はあるよ」


「え? ミツオも?」


「うん、まあ。人をなんだと思ってるかな?」


「いや、なんかいっつも楽しそうだし。悩みなんかないんだろうなって」


「はぁー」


 ミツオはがっくりとうなだれた。


「どした?」


「そう見えてるなら、それは……まあいいや」


 ミツオは何かを言いかけてやめた。


「ん? でもお前のそういうとこ好きだわー。だからお前の周りには人が集まるんだよな。うらやましいというか憧れるね」


「っ?! 夏央はいろいろひどいな!」


 見たこともないような顔をしてミツオは声を荒げた。


 夏央はその時のことを思い出して口元が緩む。何だったんだあの表情。普通に褒めただけなのに。




 ……あのあと何を話したんだっけ?


 なにか大事なことを言われた気がする。


 思い出せないまま、夏央は眠りに落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。