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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
1章
12/103

まだ旅にも出てませんよ

 夏央が連れて行かれた先はロキシーの家だった。


 場所はデュパープの店のすぐ近く。大通りから一本奥に入った通りにあった。

 他の建物同様にやはり奇妙な和洋折衷。


 何やらすごそうな肩書きの割には、目立たない普通の家だった。とはいえ、中は見た目よりもかなり広そうだ。家の中には中庭もあるようだ。コレが普通なのかどうかは夏央には全くわからない。


 夏央は靴を玄関で脱ぎ、リビングと思われるフローリングの部屋に通され、促されるままにソファーに座った。


 少し遅れてスープラとリップがやって来た。


「こんにちはー」


「やー、なんか久しぶりにここ来たな」


 リップもメイド服から、スープラ同様に制服に着替えていた。


 なんか新鮮。でもこんな同級生いないわー。


 彼女達にとっては気なれた服なんだろうが、夏央にとっては自分の世界の服を異世界の女の子たちが着ているわけで、日常と非日常が入り乱れている状況だ。

 でも何故か違和感はない。むしろ様になりすぎていて、三百六十度回って普通。何を言っているかわからないと思うがそれが夏央の素直な感想だった。


 どうやらここは二人にとっては慣れた場所らしい。勝手知ったる様子で飲み物を出し、適当な場所に座る。


「さて、さっそくですが、時間もないので打ち合わせを始めますよ」


ロキシーがどこからかホワイトボードのような大きな板と地図らしきものを持ってきて壁に掛けた。


「さて。このミッションは目的地である王都ゴッデスフルスまで夏央と私を連れて行くことです。多少急いではいますが、目立たないような普通の方法を希望します。」


「報酬はどうなったの?」


 リップが訊く。


「……ええ、今回は事情が事情なので、夏央の代わりに私が資金と多少の成功報酬を提供することにします」


「よかった! 報酬期待してるよ!」


 リップがあからさまにうれしそうな声を上げる。


「まあ働き次第ですね。さて、ここから先の話は、ミッションを請け負ったスープラが進めてもらえますか?」


「え? 私?」


「はい。請け負ったのはスープラですよね。学校でも学んでいるはずですので、復習もかねて打ち合わせを仕切ってください」


「あ、そういうことか。じゃあ始めまーす」


 一瞬戸惑った顔を見せたスープラだったが、納得したように立ち上がる。


「今回のミッションはロキシーの言った通り、王都ゴッデスフルスまで夏央を連れて行くこと。主な移動手段はバスと徒歩。旅慣れない夏央のために休憩は多めに入れて、スケジュールは無難に3日程度と考えています」


 スープラは続けて地図を使って今回の移動ルートを簡単に説明を始める。


 おお、ミッションとやらの前にはこんなことするのか、と夏央は新鮮な気分で成り行きを見守っている。地名はまるでわからないが説明はわかりやすい。


 いやそれよりも。え? バス? 乗り物あるの?


「夏央はそれでいいの?」


 急にリップに話を振られて夏央は言いよどむ。会話に参加するとは思わなかった。


 これが夢ではないのかもしれない、とは考えていてもいまいち実感はわかない。この感覚はリアリティとはまた別の話だ。


「えっと、ほかの選択肢ってあるの?」


 そもそもそこからわかんないし。


「鉄道という手段もあるんだけど、先日トラブルで途中にある橋が落ちちゃったの」


「トラブル?」


「うん。近くで魔物との大規模な戦闘が発生して巻き込まれちゃったんだって。まあ、たまにある事だしね」


「今回は軍が対応する規模でしたからこの結果もやむを得ませんね」


 橋が落ちるほどの戦闘……。軍? それが日常……? スープラも「危険ではない」って確か言ってた。大丈夫か、この世界?


「街道の方にも影響あったらしくて、バスも途中までなの。列車なら三時間もかからないんだけど、そんな理由で迂回もあるから行程三日をみてるんだよ。復旧を待ってもいいけど一週間かかると聞いてるのでこのルートにします」


 災害や紛争で交通が寸断されてるような感じなのか。でもそれは日常。世界の違いが息づくような生々しさで感じられた。


「夏央はあなたたちを指名しました。ですので、今のあなたたちに可能な移動手段で良いと思います」


ロキシーが代わって答えた。


「まあ、あたし達は空は飛べないしねー」


「わたしは飛べるよー?」


「リュリーのそれは戦闘向きじゃないでしょ」


「いや普通飛べないよね?」


「それはあんたの普通でしょ。術式の才能があって、特殊な適性あれば軍に入隊してそういう魔具《デバイス》を接続《インストール》できる人もいるんだよ。それがあれば空中戦ができたり、海上での戦闘が可能になる。空とか海とかにも魔物はいるしね」


「海はいいよねー、海はー。砲撃戦また見たいなー」


 それって、なんというかたぶん魔女とか、古の艦とか、アズ……碧いのだよね? この世界の話なのかな? いや、話が逸れるからやめとこう……。夏央は頭に浮かんだ何かを口に出さず我慢する。


 生々しくさせといてコレだもんなあ。この世界は謎すぎる。


「えっと、話を戻すね。街道を途中までバスで、あとは問題の戦闘エリアを徒歩で迂回、また街道に戻ってバス、です」


 スープラは地図上のルートを示す。


「うん、まあそんなとこだろうね」


リップが頷く。


「次に宿泊なんだけど……これはコスト削減と私たちの実践もかねて宿に一泊で野営二泊にしたいと思います。何度か行き来もしてるし、歩ける距離と街の位置も問題はないと思うの。まあ天候とか不確定な要素もあるからあくまでこれはベースプラン。実際の状況に合わせて多少の変更はあります」


 野営ってキャンプみたいな感じかな?と夏央は思う。


「じゃあ荷物は通常装備だね。期間も短いし、夏だからまだましか」


 リップの発言にスープラが答える。


「うん。荷物のリストを書き出すから、リップも気付いたことがあれば指摘してね」


 スープラはホワイトボードに荷物を書き出していく。リップがいくつか指摘して足りないものをさらに書き足す。そこにさらに数を加えていく。


 一通り書き終えて、スープラはロキシーを振り返る。


「ロキシー、荷物リスト作ったんで確認してもらってもいい?」


「ま、今回は初回なんでそこはフォローしましょうか」


 ロキシーは立ち上がり、都度説明しながら、足りないものをいくつか書き足し、不要なものもいくつか消した。


 スープラとリップが真剣な表情でノートにメモをとっている。


 ホワイトボードに書かれた品物の数々とロキシーの説明。時折交わされる真剣な質問のやり取り。これはまるで授業だ。


 これは単なる旅行じゃないんだ、と夏央は自分の考えの甘さを感じて恥ずかしくなった。


 みんな真剣で誰もそんな夏央には気付かない。


 スープラはロキシーに訂正してもらったリストから今持っているものを横線で消して、買い足すものがわかるようにしていく。


 買い物メモを作り、ひと段落したのか、二人がふうっと一息ついた。


「さすがロキシー、わかり易いね。だてに学園長してないわ」


「緊張感あるよね」


「まだ旅にも出てませんよ」


 静かに笑うロキシーが妙に怖い。


「ちょ、なんかロキシー怖いんだけど!」


リップが顔をひくひくと強張らせる。


「はい、ロキシー先生怖いです!」


 スープラも同調しているが、こちらはどこか楽しそうだ。


「はいはい、話を進めてください」


 ロキシーが苦笑しつつ先を促す。


「えっと、次は装備なんだけど。そもそも今回の旅でロキシーと夏央は戦闘に参加してくれるの?」


 スープラが二人に問いかける。


「私の戦闘参加はあなたたちふたりの経験値を奪うことになるので、バックアップ要員と考えてください。夏央はどうします?」


「どうします、って言われてもなぁ。女の子二人を戦わして自分は高みの見物ってわけにもいかないよね……」


「お、異世界からきたくせにいっちょまえのこというじゃん!」


「でも何と戦うの?」


「魔物に決まってるでしょ? たいしたのは出ないから大丈夫よ。出番なんか無いかもね」


 リップが当たり前のように言う。まあこの世界では当たり前なんだろう。


 そんなものか、と思う自分に違和感を覚えたがすぐに忘れてしまった。


「夏央は何が武器とか術式とか使えるの?」


 いや、分かんないけど術式とかどう考えても無理です。


「剣道やってるからなにか得物があれば良いんだけど」


「ああ、剣道の心得があるのですね」


 どうやらこの世界にも剣道があるらしい。同じものだと良いんだけど。


「子どもの頃から一応やってるから人並みには」


「よそから来たのにすごいじゃない、夏央ー! 見た目は大したこと無いのにー!」


 リュリーが大げさに驚いて夏央の頭をぽかぽかと叩く。


「そんな大げさなものじゃないって! って大したこと無いとか言うな! あと叩くな!」


 夏央がリュリーに気を取られているその時、ロキシーが鋭い目で夏央を凝視した。


 一瞬のことだったが、夏央は首の後ろがひやりとして振り返る。


「え?」


 夏央と目が合うと、ロキシーは何事もなかったかのように頷いた。


「なるほど、まあいいでしょう。使い古しですが、装備は私がお貸しします」


 ロキシーはそう言うと、奥に入って何やらごそごそとやっていたが、しばらくすると、一本の剣とベルトのようなものを手にして戻ってきた。剣帯かな?


 無造作に渡された剣を受け取る。


 ずしりとした重みが両手に伝わり、夏央は思わず息をのむ。


 渡された剣はほとんど日本刀と違わないように見える。


「これは……刀?」


 夏央は今まで数回だけ真剣を握ったことがある。言うまでもなく、人を傷つけたりしたことはない。


 うっすらと埃をかぶったこの剣はだいぶ使い込まれているようだ。


 きちんと手入れはされているようだが、黒漆っぽい鞘や鍔には無数の傷が残っており、濃藍色の柄糸もだいぶ使い込まれた様子が見て取れる。鍔のところには控えめな装飾が施され、日本刀のように反りが入っている。


「ええ。そうです。分類としては打刀です。剣道ならば刀だろうと思いまして。ソードの方がいいですか?」


「いや、刀以外はわかんないから」


「そうですか。では抜いてみてください」


「いや、ここはちょっと狭くて怖いな。もう少し広い場所ない?」


「中庭があるよー?」


 ぞろぞろと中庭に移動した。



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