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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
1章
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本当にいいの?

 スープラに頼んでもいいのかも、と夏央は思う。

 今日会ったばかりなのに違和感無くそう思えた。


 夏央が口を開こうとすると、立ち上がって身を乗り出したスープラに遮られる。


「あのね、夏央にお願いがあるんだけど」


 息せき切ったようにそう言う整った顔が近い。反射的に仰け反る。


「な、何?」


「夏央の王都への旅。私たちに任せてもらえないかな?」


 スープラはまぶしいほど真剣なまなざしを夏央に向けている。


「今日会ったばかりだし、夏央が置かれてる状況もまだあんまりわかってない。でも、こうしてコミュニケーションもちゃんと取れてるし、十分私とリップで請け負えると思うの」


 そこでいったん言葉を切り、スープラはわずかに不安げな表情を浮かべる。


「初心者だから不安かもしれないけど……一通りのことはちゃんとできるよ? 資格だって持ってるし。ごはんだって美味しく作れるし! ちゃんと無事に王都まで送り届けるよ! きっとご満足いただける旅を約束します! 戦闘はちょっと自信ないけど、野営、探索、その他もろもろ。えーと、引き続き勉強もがんばります……」


 見かけによらないたたみかけるような力説。しかし我に返ったように徐々に失速。乗り出してきた体も徐々に後退。とすん、といすに戻る。


「……ってやっぱり私じゃ不安……かな?」


「ありがとう、助かるよ」


 夏央の即答に、スープラの表情が驚きに変わる。


「……え? いいの? そんな簡単に? ちゃんとよく考えたほうがいいよ? ただの一般人、普通の高校生、しかも初心者マークの若手だよ? それなのに任せてくれるの?」


「自分で否定するようなこと言ってどうする」


「でも……」


「断るはずないって。むしろ俺からお願いしようって思ったよ。先に言われちゃったけどさ」


「どうして? 本当にいいの?」


 真剣な表情になぜか戸惑いが見え隠れするような雰囲気のスープラ。


「ああ。ここでこうして話をして、スープラは信頼できる人だと思った。俺の方こそ、この世界のこともまだ何にもわからない。どこまで本気かわからないけどロキシーとリュリーからは軽く魔王扱いされちゃうような危うい存在みたいだし。

 スープラはそんな俺のわけわかんない話をちゃんと聞いてくれた。それでも任せてほしいと言ってくれた。だから信じてお願いしてみようと俺は思った。

 そこまで言えば納得してくれる?」


「ただの若い高校生だよ?」


 夏央にはわからない何かにおびえるように、なぜかスープラが食い下がる。


「なんかやたらそこにこだわるな? そもそもGTなんでしょ? 高校生とか若いとか関係あるの?」


「え? えーっと……ないです」


「まあ、生徒会長とかお嬢様とか王女様とか、もしそんな肩書きがあっても俺は気にしないけどさ。俺がこうして話してるスープラが変わるわけでもないし」


 さすがに王女様は無いか、と心の中で自分の発言に突っ込む夏央は、スープラがほんの一瞬見せた驚愕の表情には気付かない。


「夏央……」


「え?」


「ううん、なんでもない」


 スープラに笑顔が戻る。これまでとはどこか違う感じがする。


例えるなら、心を許した相手にだけ見せるような、肩の力の抜けた穏やかな笑顔。いや、そんなことはないか。


「じゃあ、この件、私が請け負うね」


「ありがとう、スープラ。こっちこそ足手まといにならないようにがんばるよ」


「うん、任せて」


 二人は握手を交わした。


 うわっ、スープラの手細っ! すべすべ! 華奢! 夏央はその衝撃をどうにか心の中だけに留めた。


 隣のテーブルでは、さっきのGTたちが楽しそうに今日何度目かわからない乾杯をしていた。


 まもなく、デュパープがリュリーとリップを従えて、テーブルの間を縫うようにしてやってきた。


「ゴメン、ゴメン。この二人のおかげですっかり遅くなって。あら、スープラが相手をしてくれていたの?」


「はい」


 デュパープの後ろでふてくされている二人にちらっと目をやりつつスープラが答える。


「だいたいのところはリュリーから聞いたわ。まさかそんなトラブルだったとはね。話が出来る異世界人なんてわたしも初めてよ」


「あ、やっぱり珍しいですか?」


「まあね。今までいろんなものは見てきたから今更そんなには驚かないけど。見た目も普通だし。むしろあなたこそ意外に落ち着いているようね?」


「うーん、落ち着いていると言うか、よくわかってないだけというか……」


 夏央はデュパープの言葉に戸惑いつつ苦笑を浮かべる。


「ま、笑う余裕があるならまだ大丈夫ね」


 デュパープは腕組みをして笑う。


「それで、王都まで連れて行ってくれる人を探せばいいのね?」


「はーい、私が行きまーす!」


 スープラが元気よく手を挙げる。


「あら」


「は? ちょっと待ってよ?」


 リップがデュパープの後ろからぐいっと前に出てきて、あからさまに怒りのこもった口調で言う。


 発言もさることながら、リップもスープラに負けず劣らずの美少女だったので夏央はまたまた驚く。



輝くようなブロンドのショートヘアに南国の海を連想させる鮮やかなマリンブルーの瞳。健康そうな肌の色。 

 スープラとほとんど同じウェイトレスの衣装を着ているが、ニーソックスが黒であることを除いても、見た目から受ける印象はだいぶ違う。

 スープラの穏やかで可憐とも言うべき美しさに対して、リップには躍動的で華やかな美しさがある。


「スープラ、あたしは?」


 勝手にそんなことを決めないで、というのが口調にも態度にも現れている。


 誰だコイツ? と言わんばかりに夏央は横目でギラリと睨まれた。少しきつめの眼元が数倍に険しくなる。


 スープラは慣れているらしく全く動じない。


「もちろん一緒だよ! ロキシーが素直に紹介してくれなかったけど、夏央のミッションは私たちでも対応可能な内容だから請け負ったの。ロキシーを説得して私たちで王都まで行くの。いいでしょ?」


「確かに王都までの護衛なら大したことないね……。そうかロキシーめ……せっかくのデビュー戦を……」


 リップはデュパープの話とロキシーの名ですぐに状況を察したらしく、腕組みをしてブツブツと呟く。


「ん? でも報酬は? 異世界から来たっていうそいつに払えるの?」


「あ、それは……忘れてた」


 スープラが気まずそうにリップを見返す。あきれたようにリップが声を上げる。


「ちょっ……それは一番最初に確認すべきことでしょ?」


「それは大丈夫。ロキシーの依頼なんだからロキシーに出させるわ」


 デュパープがふふっと笑う。


「デュパープがそう言ってくれるなら大丈夫だね」


 ほっとしたようにスープラは笑顔を浮かべる。


「それなら報酬の件は問題ないか。しかし異世界人ねぇ。なんか最近多くない?」


 それから、リップは値踏みするような視線で夏央を見た。夏央はあんまりいい気はしなかったが、しょうがないかと思った。


 リップは夏央の顔をまじまじと見てから、はあ?! という表情を浮かべ、それからブチ切れた。


「お前はあの時の! こんなところまで追いかけてきて! スープラになにをするつもりだっ!!」


 リップが右手を横に突き出すと、一瞬手の先が白く光り、銀色のロッド上の物体が右手に握られた状態で姿を現した。


 何もないところから現れた、1メートル近くありそうな武器っぽい何か。


 リップは武器っぽい何かに左手を添え、振りかざして夏央の目の前に突きつける。


 天井が高いとはいえ、室内で得物持ってこの動きはすごいな。しかしあれだな、やっぱりこの世界ではこの動作は普通なんだなー。おかもちは同じ方法で出たり消えたりしたんだな。便利だなー。異世界すげー。


「おい! なんとか言え!」


 リップの剣呑な雰囲気に夏央はようやく我に返る。


「? うおっ! 危ねっ?!」


「二度とこんなことできないようにこの場で消し炭にしてやる! 法術展開……ドメイン選択をキャンセル……対人攻撃ロック? はあ? ロック解除! 火属性(シェル)を選択 … 」


「ちょっとリップやめて!」


「やめなさいリップ!」


 スープラが夏央をかばうようにして立ち上がり、同時にデュパープが拳を一閃。


 ドカンッ。


 リップはデュパープの攻撃を喰らって吹っ飛んだ。




「またリップか」


「またなんかやったのか?」


「あーあ、またか」


 なんかとんでもない一撃だったが、店内はいたって普通の雰囲気。


 というか「また」というフレーズが多すぎる。普段どんだけトラブルを起こしてるんだこのリップとやらは?





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