第6話 寂しさの果てに
それにしても最近街で見かけるプレイヤーたちも大分と落ち着いてきたように思える。
自分からはとても話しかけられないが、生産職の人たちが結構頑張って色々作っているみたいだ。はぁ……、いいなぁ。
いやまてよ。これだけレベル上げを頑張ったんだから、もしかするとPTやギルドに入れてもらえるんじゃないか?
さすがに一ヶ月も人と会話……どころか関わりがないと色々と不安になってくる。
ぶっちゃけるとめちゃくちゃ淋しい。
いつか俺にも信頼できる仲間との出会いがあるんだ、などという奇跡に期待する時期はとっくに過ぎ去ってしまったのである。
そうと決まればまずは情報収集だ!
VR版のヴァルキリーヘイムではシステムウィンドウからゲーム内の掲示板機能を使うことができるようになっている。
まずはそこで探して見るべきだろう。
宿屋で部屋を取って、システムウィンドウを操作し、『ギルドメンバー募集板』というスレタイ(スレッドタイトル)が付けられた掲示板を開いてみる。
するとそこではさまざまな内容で募集が行われていた。
分類分けをするとしたら、俺は前衛アタッカーということになるだろう。
ええっと、条件を満たしてそうなギルドは……っと。
ギルド名 ハニートラップ
ギルドマスター 恋の病
募集要員 前衛職 二次転職済みタンカー 体力18以上
二次転職済みアタッカー 体力18以上
……………………は?
いかんいかん!あまりの出来事に一瞬思考が停止してしまった。
ここには該当なし。次だ次。
ギルド名 ノービスハッピー
ギルドマスター ハピ子
募集要員 前衛職 タンカーLv問わず 体力16以上
アタッカーLv問わず 体力16以上
あるぇ?
ギルド名 キングスノウ
ギルドマスター 雪定
募集要員 前衛職 タンカーLv問わず 体力20以上
サブタンカーLv問わず 体力18以上
タンカーっていうのは前衛ディフェンダーのことで、敵の注意を自分に向け、敵の攻撃を集中して受けることで他の仲間を守るという実に男らしい役割のことである。
ネットゲームの世界では『タンカーの死亡』=『パーティー全滅』というのはもはや常識といえるだろう。だから最大HPと防御力に影響のある体力が重要となってくるというのは理解できる。
しかしアタッカーというのはタンカーが敵を引き付けている間に高い攻撃力で横からダメージを与えていくのが役割のはずだ。ならばアタッカーに必要なのは体力じゃなくて筋力のはずだろ?一体どうなっているんだ?
意味が分からないけど、こうやって見る限りみんながみんな表記ミスをしているとは考えられない。
もしかするとそこには俺の知らない理由があるのかもしれない。
とりあえず今は入れそうなところを探すしかないな。
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掲示板をひたすらスクロールしていくとようやく一つ見つけることができた。
ギルド名 桜組
ギルドマスター サクラ
募集要員 Lv職問わず狩りに出られる人なら誰でもOK
種族と職業を書いてメールでご連絡ください。
うーむ、大丈夫かな?何だか低レベル帯のまったりギルドっぽい雰囲気がぷんぷんする。
別に低レベル帯のギルドが悪いわけじゃないけど、そういうギルドに限ってアットホームだったりするから、後から入って仲良くなれるか凄く不安だ。
とは言え他にはなさそうだし、とりあえずメールを送って色々聞いてみよう。
システムウィンドウからメール機能を開いて『サクラ』さん宛にメールを作成する。
タイトル ギルド募集の件
内容 初めまして、こんばんわ。ダークエルフでソードマンをしている忍と言います。ギルドについてお話を伺いたいのですが、よろしければご連絡をいただけますでしょうか?
うん、我がなら当たり障りのない丁寧な文章だ。送信送信っと。
《メールの送信が完了しました》
とりあえず返事を待っている間に情報を集めようと掲示板を開くと……。
《メールを受信しました》
って早いなおい!
まだ送って30秒も経ってないはずなんだけど、明らかに対応早すぎる。ここのギルドマスターさんあんまり強くないかもしれないけど、そういう人としてしっかりしてそうなところは好印象が持てるな。
タイトル Re:ギルド募集の件
内容 すいません。ごめんなさい。どうか許してください。
い き な り 断 ら れ た よ!
え、ちょ、なんで!?しかも何かめちゃくちゃ謝られてるし!なんで!?何がどうなってるの!?
お、落ち着け!落ち着くんだ俺!
緊急時の処置として重要になってくるのは……そう!原因の追究!確か原因の追究だったはずだ!
ここは何で断られたのか、何で謝っているのかを聞くべきところだろう。
タイトル Re:Re:ギルド募集の件
内容 いえいえ、今回は縁がなかったということでお気になさらないでください
あほ!馬鹿!俺のへたれ!当たり障りのないようなことしか書けないなんて……ぐすん。
タイトル Re:Re:Reギルド募集の件
内容 本当にごめんなさい。私たちは自分たちが生活するだけでいっぱいいっぱいな弱小ギルドなんです。あなた様のお眼鏡に叶うようなものは何一つないんです。本当にごめんなさい。どうか私たちのことは許してください。本当にごめんなさい。
……ちょ、ちょっと待ってくれ。何か俺、強盗か何かと勘違いされてないか?
もしかして同名キャラの有名なPKがいるとか?忍とかよくありそうな名前だし。
クソッ!PK野郎め!まさかこんなとばっちりを食らうなんて!ますますギルドに入りにくくなったじゃないか!
とりあえず、いきなりギルドに入るっていうのは諦めよう。最初から既に出来ている人の輪の中へ入ろうとしたのがいけなかったんだ。ここはやっぱり少しずつ知り合いを増やしていくようにアプローチの方法を変えるべきだな。
知り合いを作るとなればきっかけが必要。ならばイベントに参加してみるのもいいかもしれない。
確か『イベントスレ』っていうのを見た覚えが…………あったあった。
俺は数あるスレタイの中から『イベントスレ』を選択して掲示板を開く。
イベントの告知は日付順に並んでいて、そのほとんどが既に終了してしまったものだ。
まだゲームが始まって一ヶ月だというのにユーザー主導のイベントが結構あったんだな。
もしかすると俺と同じようにイベントに参加することで知り合いを増やそうとする人も少なくないのかもしれない。
まだ開催されていないイベントは…………あ、あった。
ザルツベルグの沼のボス リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐隊募集
ベルーガの討伐はギルド『黎明』『ローゼンクロイツ』『イージスの盾』が中心となって行い、足りない職を外部から募集させていただきます。
募集制限 Lv30以上
サブタンカー 1人
前衛アタッカー 4人(要危険)
後衛アタッカー 2人
ヒーラー 3人
バッファー 1人
前衛アタッカーは死ぬリスクが高いため、募集はしていますがお勧めできるものではありません。希望者がいなくても討伐に支障はないようにしています。
ドロップ品はその場でオークションをしてゴールド化し、支援していただいた生産職の方を含め、均一に分配いたします。
参加希望の方は名前、種族、職業、レベル、習得スキルを記載して『ネームレス』までメールください。
お勧めできないなら何で書いてるんだよ!
これは挑戦か?俺たち前衛アタッカーに対する挑戦なのか?
ちなみに後衛アタッカーは弓職や魔法職、ヒーラーは回復職、バッファーは補助魔法職のことを指す。
一応掲示板に書かれているレベル制限はクリアしてるから参加はできそうだ。もしかするとさっきみたいにどこかの忍さんの所為で疑われるかもしれないけど、きちんとIDを確認してもらえば問題ないはず。
さすがにソロでボスっていうのは無謀だと思ってたけど、3つも攻略ギルドが集まっている実施するみたいだからそこまで危険はないと思うんだよな。
何よりボス狩りってネトゲユーザーとしては凄く憧れがある!
ボスって特別なクエストが関わっていたり、レアアイテム落としたりするものがほとんどだから、他のネットゲームでも上位ギルドが独占して今まで戦ったことがないだよなぁ。
うん!きっとこれはまたとないチャンスだ!メールを出してみよう!
システムウィンドウから『ネームレス』さん宛にメールを作成していく。
タイトル ボス討伐の剣
内容 初めまして、こんばんわ。ダークエルフでソードマンをしている忍といいます。イベントスレを見て前衛アタッカー枠でボスの討伐に参加させていただきたく、この度メールする事に相成りました。キャラクターのステータスはソードマンLv45で、スキルは両手剣Lv38、蹴闘術Lv35、気配察知Lv32、ガードインパクトLv31、ターンステップLv32、ダッシュLv37とストックスキルに回復魔法Lv4を習得しています。よろしければお返事をいただけると大変助かります。
《メールの送信が完了しました》
これでよしっと。
それから暇つぶしに過去にあったイベントを読んでいると、程なくしてネームレスさんからメールが帰ってきた。
《メールを受信しました》
さすが大御所ギルドの窓口さん。対応が早いな。
さっそくメールを開いてみる。
Re:ボス討伐の剣→ボス討伐の件かな?
内容 メールを読ませていただきました。噂とは違い丁寧な文章で驚きましたが、参加希望ということで大変ありがとうございます。いきなりこんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、ダークエルフなら体力は最大でも16だったと記憶しています。ソードマンのHP補正はそれほど高くなかったはずですが、最大HPはいくつありますか?
噂……一体どんな噂だ。
どこぞの忍さんは何をやらかしたっていうんだ?
それにこの文章、何やらやんわりと拒絶されているような気がしないでもない。
と、とりあえず返信しよう。
俺は不安になりながらも再びメールを作成していく。
Re:Re:ボス討伐の件でした(訂正どうもです)
内容 その噂の人というのは同名の別プレイヤーのことだと思います。それはIDを確認していただければ分かるかと思います。俺の最大HPは395で、防具はスチール製を使っています。
《メールの送信が完了しました》
メールの送信が完了すると今度は先ほどより早い時間で返事が返ってきた。
《メールを受信しました》
Re:Re:Re:ボス討伐の件
内容 そうですか。HP395のアタッカー装備となると、下手をするとボスの範囲攻撃で瀕死に、クリティカルが出ると即死してしまう可能性があります。それでも参加を希望されますか?
え、マジ?ボスってそんなにやばいの?
死にたくない……けど戦ってみたい……。
あーうー……うがああああああああああああああああああ!!!
Re:Re:Re:Re:ボス討伐の件
内容 はい!よろしくお願いします!
《メールの送信が完了しました》
《メールを受信しました》
Re:Re:Re:Re:Re:ボス討伐の件
内容 分かりました。明後日の14時にラクトの街の中央にある噴水集合となっています。こちらこそよろしくお願いします。
やったよ!やっちまったよ!
これでもう後には引けない!
はぁぁぁぁぁぁぁぁ、緊張した。それにしても親切な人でよかった……。
討伐は明後日かぁ。それまでにポーション買ったり、準備しなきゃな。
うわああああああああああ!!!もう楽しみで全然寝れる気がしない!
暗いけど今からちょっと狩りにでも行ってくるか!
俺は高鳴る胸を抑えるために夜通し狩り続け、さらにを一つレベルを上げ、下級ヒーリングポーション、解毒ポーション、麻痺消し、眠気覚ましを10個ずつ買い込んだ。
あれ、今さら気付いたけど俺状態異常対策何もしてなかったよな?よく今まで生きてこられたもんだ……。
そしてついにやってきました討伐日当日。
確か待ち合わせって遅れるのは完全にアウトだけど、早すぎるのも良くないっていうのが社会人のマナーだったはずだ。ふふん、俺でもそのくらいのことは知っているんだぞ。よし、5分前に到着するよう時間を見はからって宿を出よう。
そして集合時間が刻一刻と迫る中、俺は時間通りに街の真ん中にある噴水へと向かった。
近づいていくと、既にかなりの人数が集まってきているのが見える。
やばっ、もしかしてちょっと遅かったかな。
俺は慌てて人ごみの中からネームレスさんの名前を探した。
しかし探し始めた矢先、俺は目の前を通り過ぎていく人を見て大きく目を見開いて固まった。
心臓が止まったかと思った。
声すらもうまく出せない。今までどうやってしゃべっていたのか、それすらも分からなくなった。それでも俺は声を出さずにはいられなかった。
口の中から裏声が漏れる。
「ひ、ひめ?」
先ほど俺の目の前を横切った『女性』がピタリと足を止めた。
その女性がこちらへと振り返ると綺麗な金色の柔らかい髪が頭の動きに合わせてふわりと浮き上がった。
あぁ、あの頃と同じだ。強い正義感を宿した力強い眼。仲間を守るための堅牢な装備。そしてクセっけの強いふわふわパーマの金髪を携えた人間のアバター。何一つ変わらない。
「しのぶ……忍なの?」




