005話 赤穂藩士一蹴
再び安芸の国、野貝原山の地中イワレヒコの拠点の出来事である。
体育館くらいの広さの部屋で16人の男達が上半身裸で戦闘訓練をしていた。彼らは一般兵タイプである。いわゆる摸擬戦というやつだ、2人づつ組になって戦っていた。ただし普通でないのは素手か棒を持っての格闘であった、戦いの訓練ではなく手加減の練習だったりする。
どうしてこうなったのかと言うと、イワレヒコが武器に関して注文をつけたからである。
「お前ら刃物は禁止な、素手か棒で十分だろ。ただし普通の棒だともたないので強化棒にしといてやる。手加減した結果死んでも構わんが血を見るのはだめだ、戦場が汚れる。」
どこからか声が聞こえてくる
『我が君よ、それは矛盾しております。撲殺はいいが血を流すなとは』
「あー なんで? 矛と盾も相反するだろうが。とにかく手加減しろということだ」
『手加減しても彼らの実力なら血を見るの明らかではないかと』
「ならリミッターでも設定しておくか、上限が1%な。孔明それで調整しておいてくれ」
『分かりました、やれやれそれでも心配です』
この件はこれで決着したようである。
「で、あの脳筋野郎どもはどこ行った? 孔明お前、知っているんだろ」
『個人情報です、お答えできません』
「......個人情報なんて概念どこから仕入れた? まあ奴らのことだ広島城下か厳島の遊郭にでもしけ込んでいるんだろう」
舞台は赤穂城に戻る
元禄14(1701)年4月16日、20人のいかにも武人という風貌の男達が訪れた。史実で城開け渡し(明け渡し)が行われる3日前の事である。
彼らは北の大手門に現れると城代家老大石内蔵助に面会を求め「勝手に押し通る」と宣言しながら突破した。門番? そんなものは彼らにとっては無きに等しい。
三の丸を通り抜け二の丸を南下し本丸門にたどり着く。流石にここまで来ると城に詰めた藩士達がわらわらと湧いて出た、その数30人程か。全員抜刀しさすがに目は血走っていた。
それでも彼らにとって全く問題にならなかった、棒を持った数人があっという間に全員を地面に叩きつけてしまったのである。橋の上で戦った者は堀に投げ込まれた者が多数出た。
本丸門を抜けるとそこには小さいながらも本丸御殿があった。その傍らに大石内蔵助が政務に使う部屋がある。
「ご家老一大事でござる、曲者が本丸に侵入しました。バカみたいに強い者達で我が藩の藩士では全く太刀打ちが出来ません、早くここからお逃げ下さい」
内蔵助は全く慌てることなく
「落ち着け、その者たちは何か申しているのか」
「はいご家老に会わせろと...」
「ならばここで会おう、いや待て、大広間で皆も集めて一緒に会おう。その方らも太刀を収めろ」
大広間に赤穂藩士と20人の集団が対峙していた。左側に赤穂藩士、右側は謎の集団20名が向かい会って座っている。武器はと言うと全員無手である、入口に置いてきたらしい。最も彼らにとって有っても無くても大した問題でもなかった。
前列中央に座っている大石内蔵助が彼らに尋ねた
「貴殿達は何者か? 要件を伺おう。」
大石が話かけると、彼らの代表と思われる者がこれに返答せずにそっと書状を差し出す。
この男、入って来る時に見たが天を突くような大男である、身の丈およそ7尺(約2m10cm)はあろうと思われた。他の者も6尺(1m80cm)以上はあるはずだ、こんな者達なら城内警備の藩士が太刀打ちできるはずもなかろうと納得するのであった。実際はこの男は戦闘(...と言えるかどうか)に加わっていない、隊長格の4人はただ見学していただけである。
この男は髭も立派である、まるで中華の国の伝説に出てくる仙人のようだ。
...と大石は思いながら書状を手に取って、そして裏面の差出し人の名を確かめた。
「なんとこれは...ご本家の当主、浅野綱長様からか」
周りの重臣をはじめ藩士達もざわつく、あまりにも意外な相手からの書状だったからである。その内容はこうだ
『城明け渡しに応じるか、抗戦するかは赤穂の思い通りにやって良い。ただし明け渡しの相手は幕府ではなく派遣したこの者達に引き渡すべし。抗戦したいものはこの者達に従うこと、折を見て撤退後は広島に来られたし』
要は大石内蔵助の考えた筋書き通りには行かなくなった、開城は開城でも引き渡す相手が変わっただけである。
書状に書かれた要件を藩士達に伝えると徹底抗戦派からわっと歓声が上がった。
そりぁそうだろう、抗戦派からみれば自分たちが束になっても敵わなかった相手がこの瞬間味方になったという事だ。心強い限りである。
大石ははぁ~っとため息をつくと
「各々の意思に任せる、好きにやってよい。ただし彼らの指示には従うように、勝手にやってよいという事ではない」
「ご家老、それで宜しいので?」
と隣に座った重臣が問う
「良いも悪いも仕方なかろう、かくなる上はやむなし。ところで貴殿の御名前を伺おうか? 」
と正面に座った仙人のような相手に話かける
「そうであるな、美髯公とでも呼んでもらおうか、昔のあだ名だ」
「美髯公...その風貌とその立派な体格、美髯公...まるでいにしえの伝説の武神『関羽』様のようだ」
大石は知らない、生まれ変わった本物(精神体)の関羽だと言うことを。当然である、遥か昔の蜀の将軍が現世にいるとは誰も思うまい。
この時代仏教による輪廻転生という概念はあったが、信心深い者以外はそんな事は信じていない。
あくまでも宗教上の教義であった。
ちなみにこの度の関羽は江戸に潜入した時の容姿ではない、本来の体躯いわばフルサイズであった。もちろん相手を威圧するためである。
「美髯公でも関羽でも好きに呼べばよい。言い忘れたが抗戦に参加したい者だが、戦闘に加わる機会は無かろうよ。戦は我々が全て片を付けるという事だ」
先ほどの重臣が問う
「どういうことでござる? ...この20名で? 城受け取りの相手はいわば幕府軍ですぞ」
「問題なかろう、此度のことは我が主から賜ったいわばご褒美である。おぬしら藩士がおらぬ方がこちらは好都合、出しゃばった挙句怪我でもされたら心象に悪い」
大石は再び、はぁ~とため息をつくと小声でつぶやいた
「我らが邪魔者あつかいされるとは全くもって情けない...」
「大石殿、まあそう言うな。貴殿らの身を案じての事だ、なにせこちらには制御の効かない危険な殺人鬼が二人もおる」
関羽はそう答えると、アイツとアイツだというように指差した。なお指差された当人は全く知らんプリで鼻糞でもほじっていた。いや鼻毛を抜いていたのか?
もう読者は二人のうち一人は誰か確信していることだろう。超脳筋で戦闘しか取り柄のない関羽の相棒と言えばそうあの男である。




