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004話 浅野綱長

 ここは安芸の国、()貝原(がいばら)(やま)地中の拠点である。


 イワレヒコは使いから帰ってきた黄忠の報告を受けていた。報告がなくとも全て知っていたが、そこはそれ黄忠をねぎらったのである。

いわば様式美である、部下をおもんばかる出来た上司なのであった。


「黄忠よ、お使いご苦労だった、でどうだった?」

「はっ殿、なんの問題もござりません、浅野家では殿の事は伝承されているようでしたのじゃ」

「待て オレの事は殿呼ばわりか、まぁいいか好きに呼べ」

「家老の上田主水という御仁に、主君への伝言を頼みまして帰ってきたところです」

「そうか...来月あたりまた使いを頼むかも知れん」

「承知申した、で殿は今後どのような方針なのですかな?」


イワレヒコはしばらく考えるような素振りで語り出した。


「黄忠よ憶えているか、オレと奴等の約束を...お前との約束でもある」

「はてどんな約束でしたかな、歳を取ると忘れやすくなりましてなぁ」

「嘘をつくなお前の体は新品だぞ、頭の中もだ。年寄の見かけがいいと希望したのはどこのどいつだ」

「いや~ぁ バレましたか、じじいの方が娘っ子にモテますのじゃ」


と黄忠は顎髭をさすりながらすっとぼける、さすが人生経験が豊かである。

漫才のような会話が続いたあとイワレヒコは


「あの脳筋の奴等が騒ぎだしているようなので、ここらで暴れさせてやろうと思う。今回の事件は奴らのストレス解消にもってこいの事件だな、有効利用させてもらう事にした。もっとも手加減させるがな、本気でやらせると赤穂という国は無くなる。更地になるだけならまだいい方だぜ、おい孔明!」

『呼ばれて飛び出て...我が君よ、ご用ですか』

「最初から聞いているくせに白々しいな、どこでそんなつまらんセリフ覚えた? まあいいか。精神体(魂)の順化が完了した奴は今どれくらいいる?」

『はい20人程です、指揮官タイプが4人、一般兵型が16体というところです』

「おい、なぜ指揮官と一般兵では数え方が異なるんだ? まあそれくらいいるのなら十分か。それと一番アブナイ奴は今回はパスだ、まだ寝かしとけ」




 元禄14年4月1日、ここは広島城本丸御殿、藩主浅野綱長が政務を執り行う書院の間である。


 家老上田主水と例の事件の対応の処理が終わったため、その報告を聞いていた。

赤穂からの早飛脚は3月末に届いたが、広島藩内での周知と対策が終わったところである。もっとも静観しろと指示を受けていたためやることは特にない。


「殿、大変でございます。お使いを名乗る御仁が城門に現れました」


 近習の一人が慌てて駆け込んで来る、門番にはお使い様のことは周知させてあったので抜かりはない。門番から取次を頼まれたのだろう中々迅速な対応であった。


「よしここへお通ししろ、くれぐれも失礼の無いようにな」


近習が去ったのちほどなくして黄忠と先程の近習が書院の間に入って来る。浅野綱長と上田主水は先に下座に座って待っていた。黄忠が座るとすかさず綱長が軽く頭を下げて


「お初にお目にかかります、(それがし)が当代の浅野家の当主でございます。なにぶん良しなに申し上げます。」

「礼など無用じゃ、お主はワシの家臣ではない。頭など下げる必要はないぞ」

「いや...しかし、あの黄忠様に対等とは某にはできません。失礼ながら蜀の将軍を務められた黄忠様でしょうか?」

「いかにも蜀の黄忠じゃがあの国は滅んで久しいと聞いた、ただのじじいで構わんよ。それにしてものう、この時代までワシの名が伝わっているとは驚きじゃ。しかもここは遠く離れた異国じゃろう?」


 黄忠はもの思いにふけりながら、自分の名が残っているのなら他の者はもっと凄い事になっとるじゃろうと考えてしまった。それでも今回は主人の伝令役、用事を先に済ます事にした。


「主からの伝令である。『静観はこのまま維持せよ、赤穂城開け渡しの説得など不要』ということじゃ」

「それで宜しいので? 今なら赤穂の者どもに城開け渡しの説得はできますが...」

「いや(あるじ)はこの事件を利用して別のことを考えておられる、手出し無用との事じゃよ。徳川の出方によっては最悪幕府は滅ぶかもしれんとワシは思うておる。まあどうなるか知らんが今のうちに覚悟だけはしとけ」


 なにげに黄忠は恐ろしいことを言った、幕府が滅びるとは考えただけでも恐ろしいことだ。この浅野家はどうなる、日の本はどうなる? 大神様に従って付いていくしか方法ないのか...もう綱長の頭の中は支離滅裂であった。




 場面は再び赤穂城下に戻ろう。


 元禄14年3月20日、藩札の換金処理が始まった。この時点で大石内蔵助は城の開け渡しの方針に決めたようだ。


 赤穂藩取り潰しの話が広まると商人達が札座に押し寄せて大混乱になるからだ。藩が取り潰しになると、彼らの持っている藩札が無価値になりただの紙切れ(板切れ)になってしまうからである。そこで藩札に関する対応が行われた。3月28日 藩札の処理が終了する。

 家臣たちには分配金を支払い、その年の給料である米も支払った。

城と付属物は幕府に返却するが、馬具・武具は大阪の商人に売り払う予定であった。



 元禄14年4月16日、20人のいかにも武人という風貌の男達が訪れた。史実で城開け渡し(明け渡し)が行われる3日前の事である。




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