030話 鳥取藩主 池田吉明の決意
江戸、広島藩 浅野綱長の江戸屋敷にて
江戸城に登城した一行が帰って来た。もう張飛なんかはホクホク顔である、すっきりした穏やかな顔であった。帰るや否や綱長主従と会談の場を設けた。
江戸城本丸に入れたのはイワレヒコ一行4人のみである。行列をあつらえた他の家臣たちは江戸城内の各番所でふるいにかけれ人数を減らされて、最後は大名本人と供侍3人になる。
そのため綱長の家臣達は本丸御殿で起きたであろう出来事の詳細は誰も知らなかった。要するにこの会談は報連相なのである。すでにイワレヒコは内匠頭の顔に戻っている。
「結果として将軍綱吉を踏み付けてやった、綱長の顔でな」
この言葉を聞いて江戸家老を除いて他の家臣達は青ざめる。
綱長の反応は<ああ、やってしまったか...>という感じで焦りはない、十分に予想出来た事だからである。
筆頭家老の浅野忠義もある程度は予想していたから、態度に変化はなかった。
戸惑って右往左往していたのは、江戸詰めで今までイワレヒコと面識の無かった家臣達だけである。
「それで警備兵も200人くらいいたかなぁ? この三人で叩きのめした。なあ張飛?」
「人数? 大将それどころじゃなかったですぜ。いや~もう、楽しくて楽しくて♡ 人数なんて知りませんがな」
「お前が一番、倒していただろう」 と関羽
「それに鉄砲玉にわざと当たっていましたからね」 と趙雲
「いやー、鉄砲という物がどんだけ威力があるか試したくて...ありゃ、蚊に咬まれたくらいだぜ、後で少し痒かったかなぁ」
もう話していることが滅茶苦茶である、家臣たちに理解できようも無い。鉄砲玉にわざと当たって威力を試すだと? もう人間技ではない、事実人間では無いのだが......
イワレヒコは次の問題に移る
「ぞれで今後の対応だが、ここまでやっちまったからには近いうちに浅野家は江戸を出奔しろ。そうだな、今日から3日後だな」
まるで他人事のように言う。本来の意味は逃げ出して行方をくらます事だが、簡単に出奔と言っても実質は引っ越しである。荷物の整理や身の回りの持ち物などやることは多く忙しい。
まあこうなる事を見越して、筆頭家老兼江戸家老の浅野忠義は去年の内からある程度準備していたらしい。
大名の奥方に『明日引っ越しします』なんて言えるわけがないのだ。とかく奥向きの女供は支度に時間がかかるものである。
江戸、鳥取藩 池田吉明の江戸屋敷にて
元禄15年1月2日(1702年2月)、鳥取藩主池田吉明は江戸城から帰ってきた。
江戸家老はじめ主だった家臣を集め協議が始まった。江戸家老が進行役を務める
「殿、大名参賀なるものいかがでございましたか? さぞかし浅野安芸守様がいじめられた事でしょう」
「うむ...それがな...いじめられたのは確かなのだが、結果として逆に上様がいじめられた」
「とういう事でしょうか? 某にはさっぱり理解できませぬ」
「最初は上様が理不尽な事で浅野安芸守殿を問い質された、始まったなと思って見ているといつの間にか立場が逆転しておった...いやあれは本当に安芸守殿なのか?...」
「殿、我々にも分かり易くお願い致します」 と他の家臣たち
「今でも信じられん、上様が投げ飛ばされて背中を踏まれた。ほれ、お前達も見た事があるだろう? お寺にあるあの仏像だ、仁王様が邪鬼の背中を踏みつけているあの仏像を...余は信じられないものを見たぞ!」
「しかしそれでは大変なことになったでしょう」
「いや、大変なことになったのは城の警備兵の方だ。いつの間にか関羽殿達3人が現れ百人番所の警備兵を打ちのめした。鬼人の様な大男は鉄砲隊の方へ突っ込んで行って、全員はじきとばしおった。鉄砲玉を撃ち込まれて平気で戦っていたぞ。余はこの戦闘を見て関羽殿・黄忠殿の陣営に付くことにした。赤穂で生き残れたのはあちら側の配慮であったのだ」
さらに池田吉明は続ける
「余は松平の姓を名乗ることを許されているが、あんな男(綱吉)が我ら一族の宗主とは情けない。
徳川に義理立てしてこの池田家を滅ぼしたくない! 反対する者があれば聞こう」
誰も異を唱えなかった。かくして鳥取池田家はイワレヒコに臣従する事に決まった
一方、同じ立場の明石藩 松平家も同様の協議をして同じ結論に至った。もちろん罰金を支払うだけの余力が無いのも事実であった。なにせ1万両である、簡単に支払える金額ではなかった。
江戸、広島藩 浅野綱長の江戸屋敷にて
翌日、鳥取池田家と明石松平家の江戸家老が浅野江戸屋敷を訪れた。どうやら両家で示し合わせて来たらしい、二人で来れば怖くないの心理であろう。当然徳川家を裏切るわけだから...心情は理解できる。両家とも供侍を入れて二人ずつであった。
両家が客間の座敷へ通されると間もなく当主である浅野綱長が入室すると四人が一斉に平伏する。
「浅野家当主の綱長である、ご両家とも如何なる要件であろうか?」
池田家・松平家の四人はおもむろに顔を上げると遠慮しながら答える。まずは池田家の家老から
「わが主、池田吉明様からの書状で御座います」
と書状を差し出すと、続いて松平家の方も同様に差し出す
「同じく、松平直常様の書状で御座います」
浅野綱長がこれに頷き、まずは池田家の方から読み始める。続いて松平家の書状をしばらく読んでいたが読み終えると大きく頷き
「両家の請願、相分かった。イワレヒコ様は受け入れても良いと仰った。両家当主と面合わせが必要であるが、追って知らせがあろう」
「有難う存じます」
「有り難うごさいまする」
と使者に立った両家の家老が礼を言う
「池田吉明殿、松平直常殿に伝えてくれ『広島で会おう』とな。なにぶん当家は引っ越しの準備で忙しいのでな、ではこれにて」
「お、お待ち下さい。引っ越しとはいったいどういう事で御座いましょうか?」
「ああ、当家は江戸を引き払う。出奔とも言う。おぬしらも江戸城での昨日の顛末を聞いたであろう。今後戦になるやも知れぬのに家族を残していけるか!」
綱長は立ち去ろうとして
「こうなったからにはお主らも腹を括れ。覚悟を決めよ」
第一回『綱吉へのお仕置き』は無事終了しました。ここで一区切りです。
というのも連載開始前のストックが無くなりました。今後の更新は週1~2回になりそうです。




